タンク

「タンク……? ですか?」


 タンクとはパーティープレイにおける盾役のプレイヤーだ。


 ある時は耐久の低い後衛プレイヤーを守り、ある時は前線で攻撃を一手に引き受け、アタッカーが攻撃に集中出来る環境を整える。他にも被ダメージを集中させることにより、ヒーラーが回復しやすい環境を整えるなど――パーティープレイでは、必要不可欠な役割を担う存在だ。


「ミノタウロスの時みたいに、リクがダメージコントロールでヘイト管理して、ヒナは攻撃の範囲外で待機する、じゃダメなの?」

「対蛟で、俺がタンクを張るのは無理だな」

「リクがまともに被弾するのを見たことないけど……そんなにもみずちの攻撃って凄いの?」


 メイは目を見開いて驚く。


「蛟は単体でもノーダメで倒すのは……厳しいな」


 蛟は攻撃範囲が広く、予備動作が読みづらい。


「え? ちょっと待って下さい……」

「ん? ヒナどうしたの?」

「リクさんは今……『単体でも』とおっしゃいましたよね?」

「そうだな」

「つまり、今度の階層主は……複数体いるのですが?」


 俺の言葉の意味に気付いたヒナタが真顔で問いかける。


「複数体と言うか……蛟は眷属を召喚する」

「眷属ですか?」

「白と黒、二匹の大蛇を眷属として召喚する」

「白と黒の大蛇!?」

「眷属の大蛇は執拗にヒーラーを狙い続ける」

「うへ……その眷属も強いの?」

「んー……まともに相手したことがないからな……何とも言えないが、そこまで強くはないが……ヒーラーを倒せる程度の力量はある」

「それなら、うちとリクでサクッとその眷属から倒しちゃえば?」


 メイは一つの作戦を提案する。


「その作戦だと、ノーマークになった蛟が怖い……と言うのもあるが、根本的に無理だな」

「何で?」

「眷属は倒しても、また召喚される」

「え? 何それ! ズルい!」

「仮に俺が蛟を引き受けて、メイがヒナタを守るとしても……二匹の大蛇からヒナタを守りきるのは不可能だろ?」

「うーん……どうだろ……大蛇はヒナタに向かってくるから……それを先読みして……二匹いるのは厄介だけど……一匹片付ければ……あぁ……でも、無限に復活するんだっけ……うーん、うーん……」


 メイはメイなりにヒナタを守るためのシミュレーションを繰り返すが、最後には頭を掻きむしる。


「故に、必要不可欠な存在であるヒーラーを守るためのタンクも必要不可欠となる」

「ぐぬぬ……」


 メイは歯ぎしりをして悔しさを露わにする。


「タンクの必要性を理解してもらったところで、一つの問題に直面する」


 俺は一息ついて、二人の目を真っ直ぐに見る。


「――風属性故に俺はパーティーを組みづらい」


 俺は自らの存在が招いた問題を口にするのであった。


 基地の中に気まずい沈黙の空気が流れる。


「で、で、でも……リクさんは強いですよ!」


 ヒナタが必死にフォローの言葉を発する。


「風属性だけどな……」

「そんなに腐らないの! うちとヒナはリクが強くて信頼出来るプレイヤーだって知ってるよ!」

「風属性だけどな……」

「もー! 腐らない! 風属性だって自分で選んだ属性でしょ!!」

「そうだな。悪かった」


 これ以上腐っていても仕方がない。実際に風属性でリ・スタートした二度目の冒険を俺は気に入っていた。


「二人の言葉は嬉しいし、俺も今では風属性を気に入りつつある」

「なら、いいじゃん!」

「そうですよ!」

「俺の感情、二人の意見は置いといて……現実問題は、タンクの仲間をどうやって見つけるかだ」


 俺はネガティブモードから脱却し、現実と向き合う。


「やっぱりうちら3人だけだと、無理なの?」

「レベルを上げまくってパワーで押し切れば……勝てると思うが、途方も無い時間がかかるな」


 正直言えば、蛟を倒すだけなら可能だ。但し、ヒナタが生存した状態で倒すとなると難易度は一気に上がる。


「どうする? ギルドで募集かけてみる?」

「気長に待てば、きっといい人が来ますよ!」

「ギルドで募集か。今後のことを考えると、欲しいのは一期一会の仲間じゃない。固定メンバーだ。固定メンバー――フレンドはどんなタイミングで増えた?」


 俺は頭の中の考えを独り言として呟く。


「え?」

「固定メンバーですか?」


 俺は二人の声に答えず、独り言を続ける。


「一期一会の野良募集で仲良くなり交流が続いた、旅団などのコミュニティーを通して知り合った、フレンドのフレンドと仲良くなった……出会いのきっかけで一番多いのは野良募集からのフレンド……?」


 俺は今までどのようにして、固定パーティーのメンバーを――フレンドを作ってきたのかを思い出す。


「私とリクさんの出会いはフィールドでしたよ!」


 俺の独り言に答えるかのように、ヒナタが声を発する。


 ――!


 フィールド?


 確かに、フィールドで出会ってフレンドになったプレイヤーも大勢いた。フィールド――狩場で出会うことは、強さも似た感じのことが多く……打ち解けやすかった。


「フィールドか……。よし! タンクを探しに出掛けるか!」


 ここで話し合っていても何も解決はしない。


 俺は明るい未来を求めて行動を起こすのであった。

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