タンクを求めて
タンクを任せられる仲間を求めて、人気の狩場へと出掛けることにした。
第六階層〜第十階層で一番人気のある狩場は――第七階層の海岸フィールドだった。
獲物となるモンスターは――ジャイアントクラブと、ブルージェリーフィッシュ。
通称、カニ狩りと呼ばれる稼ぎ方だった。
ジャイアントクラブは巨大なカニだ。斬属性と突属性に強いが、打撃と魔法全般に弱く……リポップと言うべきなのか、砂浜から永遠に湧き出て来るので……移動せずに数をこなせた。
ブルージェリーフィッシュは空中を浮遊する青いクラゲだ。魔法全般に高い耐性を誇るが、斬、突、打と全ての物理攻撃に弱く、仲間を呼ぶ習性から、カニ同様に移動せずに数をこなせた。
ブルージェリーフィッシュのドロップする素材は疲労回復の効果がある薬の素材となっており、魔法やスキルを連発した時に発生する疲労を回復させる人気の素材であり、ジャイアントクラブのドロップする素材は食材として人気が高かった。
俺は移動する最中、そのような狩場の特徴をヒナタとメイに説明した。
「ってことは、カニは魔法か打撃だから……うちは分銅で攻撃すればいいのね?」
「そうなるな」
「リクは魔法かな?」
「いや、剣と短剣だな」
「カニは斬攻撃に強いんでしょ?」
「剣スキルの《パワースラッシュ》は打撃系だ。あと、多少の慣れが必要だが……腹にある繋ぎ目を上手く狙えば短剣でも倒せないことはない」
「魔法は使わないの?」
俺の答えにメイは首を傾げる。
「風属性の攻撃魔法――《ウィンドカッター》は斬属性の性質があるんだよ……」
「ってことは、カニは魔法には弱いけど……風属性の魔法にだけは強いってこと?」
「《ハイプレッシャー》とか《サイクロン》といった別の風魔法であれば、効果はあるが……」
「それはいつ覚えるの?」
「基本職だと魔法使い系のクラスしか無理だな」
「ダメじゃん」
「だから、剣と短剣で戦うんだよ」
風属性には全く向かない狩場であるが、そもそも風属性のプレイヤー自体が天然記念物なので、多くのプレイヤーには関係はなかった。
「カニ狩りをしつつ、タンクのプレイヤーを探せばいいのですね?」
「狙い目はソロのタンクプレイヤーだな」
ジャイアントクラブとブルージェリーフィッシュは機動性が低いので、危なくなったら容易に逃走出来る。しかも、人気の狩場なので周囲に助けを求めることが出来るプレイヤーが大勢いる。故に、ソロでも安全な狩場として人気があった。
「良い人がいるといいですね」
「凶牛の戦斧、月影……そして、リクを引き当てたヒナの豪運に期待かな」
「俺はレアドロ扱いかよ」
「でも、リクさんのような素敵なプレイヤーさんと出会いたいですね!」
「とりあえず、カニ狩りをしながら地道に探すか」
人気の狩場でただスカウトをしているだけでは、不審者だ。経験値とお金はどれだけあっても困らない。俺たちはタンク探し兼カニ狩りを開始するのであった。
◆
カニ狩りを開始してから6時間。
「リクさんいきます! ――《アクアショット》!」
ヒナタの杖から放たれた水の弾丸を受けたカニが、後方へのけ反り態勢を崩す。
――《ファストスタブ》!
態勢を崩し、弱点を露わにしたカニの腹の繋ぎ目に素早く短剣を突き刺す。
硬い殻の間を縫って、致命的な一撃を受けたカニが泡を吹いて倒れる。
メイへと視線を向けると、メイは分銅を振り回し複数のカニとクラゲにダメージを与える。裏返ったカニを発見すると、素早く近寄り繋ぎ目に鎌を突き立てる。
この狩場では、時給――一時間あたりに倒せるモンスターの数――は俺よりメイの方が優れていた。
「お、あの子すげーな」
「私も鎖鎌の練習しようかなぁ」
「バカッ、鎖鎌って一番扱いが難しいんだぞ」
「一緒にいる男も凄くね?」
「短剣なのにすげー勢いでカニを倒すよな」
「ってか、あいつら誰だ?」
「初めて見るかも」
「『百花繚乱』じゃねーな」
周囲のプレイヤーたちが俺たちに注目する。
この狩場を利用するプレイヤーの多くはレベル10〜20のプレイヤーだ。近しいレベルであれば、狩場が被ることも多く、顔見知りになることも多い。
しかし、俺たちは他のプレイヤーと狩場が被らないように行動していた為、初見のプレイヤーも多く無駄に注目を集めていた。
現在、俺、ヒナタ、メイのレベルは横並びで17。周辺のプレイヤーと見比べても、俺たちのプレイヤースキルは頭一つ抜けているようだ。
「チラチラとこっちを見てくるのに、誰も声を掛けて来ないね」
「こっちはすでにパーティーを組んでるし、絶えず狩りをしているからな」
「うーん……ソロのプレイヤーは見当たりませんね」
この世界はパーティーを組むことのデメリットが少ない。4人以下であれば、経験値取得のペナルティは0。むしろシェア率が100%なので増幅する。
パーティーを組むことのデメリットは、時間の拘束、行動の規制、人間関係が筆頭にあげられる。しかし、外部遮断された今の世界では、リアルの用事などが存在しないので時間の拘束は大きなデメリットにならず、生き残るためにはパーティーを組むことが賢い選択だった。
「ソロプレイヤーは絶滅したのか?」
「固定パーティーを組まないプレイヤーはいるかもだけど、ソロで稼ぐプレイヤーはいないのかもね」
俺の呟きにメイが答える。
「と、なると……こっちは3人だから難しいな」
「すでに出来上がってるグループに入るのって緊張しますからね」
二人組で稼いでるプレイヤーは少数だが、確認出来る。二人組で稼いでるプレイヤー同士が、声を掛けて即席の4人パーティーになったのも、先程見かけた。
「困ったな……。やっぱり、ギルドで募集するしかないのか?」
俺が今回のスカウト作戦の失敗を認めた、その時。
「そこのお三人。少しいいかな?」
金髪の騎士と思われる重装備を纏った男が声を掛けてきた。
「何かな?」
俺は淡い期待を抱いて、男の呼びかけに応える。
「私は旅団『百花繚乱』の幹部を任せされているトウキだ。失礼だが、君たちは旅団に所属はしているのかな?」
「あ、結構です」
ようやく声を掛けてきた男の用事は旅団……しかも、俺の偽物が設立した旅団へのスカウトだった。
落胆した俺は即答で、声を掛けてきた男から意識を外すのであった。
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