第四五階層攻略④(ヒロアキ視点)

 リク殿と別れてから3日後。


 ようやく第四五階層の最奥に到達しましたぞ。


「リク殿たちは?」

「もう少しかかるみたいにゃ」


 クロ殿の作戦が功を奏したのでしょう。まさかの我々が先に最奥へ到達しました。


「『風の英雄』と『闇の戦乙女』より速いとは意外でしたわ」

「にゃはは。リクにぃは圧倒的なプレイヤースキルでカバーしているけど、風属性の盗賊系だと、どうしても火力に不安は残るにゃ」

「つまり、向こうでまともなアタッカーはメイ殿のみと?」

「そうなるにゃ。そのメイねぇも戦士系じゃなくて、盗賊系にゃ。肝心の戦士系はカナメさんになるけど、火属性は攻撃に関しては不利属性になるから……結構厳しいパーティー構成にゃ」

「むむ? そうなると、リクたんは大丈夫なのですかな?」


 イセたんが不安そうに問いかけます。


「そこは不利と言えども『風の英雄』――いや、『炎帝のソラ』にゃ。常識はずれのプレイヤースキルでどうにかすると思うにゃ」

「クロさんから見てもリクさんのプレイヤースキルは凄いのですね」

「あの回避技術と的確な攻撃のタイミングは異常にゃ。そして、そのリクにぃしかアタッカーを知らない、メイねぇのプレイヤースキルも大概にゃ」

「そう考えると、私は仲間に恵まれたのですな」

「にゃは! ヒロにぃのプレイヤースキルも誇ってもいいレベルと思うにゃ」


 これは、褒め殺しですかな? 私はどちらかと言えば罵倒された方が……。


「んー、つまり、クロさんたちは全員凄いってことですわ!」

「ボクだけはしがない鍛冶職人にゃ」

「そんなことはないですぞ!」

「そんなことはないですわ!」

「うむ。リクたんにも言いましたが、謙遜も度を越すと、ただの嫌味になりますぞ!」

「にゃはは……」


 この3日間でクロ殿の評価はうなぎのぼりですぞ。普段は、リク殿がいるので控えているのでしょうが、クロ殿も偉大なるリーダーたる器と、再認識できましたな。


 強いて言うなら、リク殿のようにときには私を突き放すようなあの冷たい視線を送って頂ければ、更に善きですな。


「して、階層主と戦うにあたって作戦はございますかな?」


 私は本題を切り出します。階層主――強敵と戦う場合、連携の確認は不可欠ですな。


「んー……安全にいくならメインアタッカーをアケミさんに任せて、ヒロにぃがタンク、イセたんがヒーラー、ボクはサブアタッカーだけど……最効率を求めるなら、イセたんにサブアタッカーを任せて、ボクがヒーラーをした方がいいかもしれないにゃ」

「何と……!? クロたんがヒーラーですか?」

「ヒーラーと言ってもアイテムでの回復にゃ。ヒロにぃだけなら範囲回復は不要だから、ボクでも可能にゃ」

「クロさん、その……大丈夫なのですか?」


 アケミ氏が聞いた、『大丈夫』とは……クロ殿にヒーラーが務まるのか? ではなく、アイテムの負担を指してますな。


「にゃはは、準備は万全にゃ! アイテム役ならボクも戦力として十分に活躍ができると思うにゃ」

「あの……私も少し負担しましょうか?」

「にゃは、そのお気持ちだけで十分にゃ」

「クロ殿、感謝致す」

「うむ。クロたんに百万の感謝を!」


 ここで意固地になっても仕方がないので、私は素直に感謝の気持ちを伝えましたぞ。


「改めて作戦にゃ。ヒロにぃは正面からヘイト管理をして欲しいにゃ。アケミさんは、《アイスランス》で左翼、右翼の順番で狙って欲しいにゃ」

「ふむ。拙僧は?」

「イセたんは、後ろに回り込んで尻尾を集中的に攻撃して欲しいにゃ。左翼、右翼、尻尾と部位破壊が成功するたびに、火龍は怯むにゃ。怯んだら、顔面をボッコボコにゃ!」

「「承知!」」

「了解ですわ!」


 作戦は決まりましたな!


「いざ行かん! 『ドラゴンスレイヤー』を目指して!」


 私は最奥へと続く重い扉を開け放った。


 ――!


 ほぉ……これは、中々の迫力ですな。


 扉の奥には、全長20メートルを優に超える真紅の龍――火龍が王者と呼ぶに相応しい堂々とした佇まいで待ち構えていました。


『ヨク来タナ。脆弱ナルモノヨ』


 な、なんと……人の言葉を話しますか!


「攻撃は控えるにゃ。今攻撃すると、激高するにゃ」


 クロ殿が小さな言葉で進言します。


『サァ、脆弱ナルモノヨ! 我と存分ニ死合ヲウゾ!! グォォォオオオ!!! 』


 火龍は大気を揺るがす咆哮をあげ、天へと炎を吐き出します。


「開始にゃ! ヒロにぃ!」

「承知! 参られよ! ――《ファランクス》!」


 私は一歩先へ進み、大地を踏みしめると、


『ソノ心意気ヤ善キ! 』

「ヒロにぃ以外は散開にゃ!」


 大きく開いた口から、火蜥蜴サラマンダーとは比べものにはならない、激しい業火の吐息を吐き出す。


「フンッ! 」


 私は盾を構えて、正面から業火の吐息を受け止めます。


 クロ殿お手製の自慢の耐火装備ですが、5%ほど体力を削られます。


 ぐぬぬ……流石に少し熱いですな……。


 しかし――


「ハッハッハッ! この程度ですかな!」

『ホォ、脆弱ナルモノガ我ヲ愚弄スルカ』


 火龍は、私に興味を抱いたかのような視線を送りますぞ。


 ふむ……怒りませぬか。


 言葉を介する魔物は、口頭による挑発も有効ですが……効果は如何ほどでしたかな?


『ナラバ次ハ我ノ爪ヲ受ケ止メテミヨ!』


 火龍はフワッと飛翔するかのように跳躍し、私の前に着地。


 ――!?


 ぐぬ……ただの着地なのに、地面が揺れ体勢を崩していまいます。


「ふんぬ!」


 私は地を踏みしめ、強引に体勢を立て直し盾を構えます。


『ユクゾ!』


 私の全長を軽く超えている鋭く尖った爪が、振り下ろされます。


「ハッ!」


 私は振り下ろされた爪を押し返すように盾を突き出し、防御。


 体力が減らされますが、後方から投擲された飲んでよし、浴びてよしのポーションを受け、すぐさま回復します。


 ふむ……強敵ではありますが、これ以上の強敵とはこれまでに何度も対峙しましたな。


 仲間たちが目の前の敵を倒すまで、ただ耐えるのみ!


 私は飛来する氷の槍と、尻尾を執拗に殴るイセたんの姿を確認しながら、己の役目を全うするのだった。

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