第四五階層攻略⑤(ヒロアキ視点)
火龍との戦闘から1時間。
イセたんの熾烈な攻撃により野太い尻尾は、根本から切断されており、アケミ氏による度重なる氷の槍で、火龍の左翼は原型を留めておらず、右翼もズタボロに引き裂かれております。
「ハァハァ……少し……熱いですな……――《息吹》!」
イセたんが額に流れる汗を拭い、自己回復します。
大きな攻撃はすべて私が受け止めておりますが、熱の余波までは防げませぬ。
幸い、イセたんは自己回復手段があるので、クロ殿は変わらず私のみに回復を集中できておりました。
私はヘイト管理を怠らず、すべての攻撃を受け止め、仲間たちの活躍を信じ続けます。
「――《アイスランス》!」
アケミ氏の放った氷の槍がズタボロに引き裂かれていた右翼に命中すると、
「ヒロにぃ! 《カウンターアブソーブ》の準備にゃ!」
「承知! ――《カウンターアブソーブ》!」
「アケミさん! 《マジックチャージ》にゃ!」
「了解ですわ!」
「イセたん、位置取りの準備にゃ!」
「承知した!」
私はクロ殿の指示に従い、防御の構えを緩めます。
現在の《カウンターアブソーブ》のレベルは7。21秒間受けたダメージを蓄積できますぞ。
火龍の吐いた炎の吐息を全身で受け止め、
ぬ、あ、熱いですな……ぬん……♪
振り下ろされた爪の一撃をこの身で受け、
は、はぁん……い、痛いですぞ……♪
巨体から繰り出される、体当たりを全身で受け止めます。
ハァハァ……こ、この衝撃……わ、悪くないですぞ♪
全身に駆け巡るこの痛みが……生きていることを実感させてくれますぞ!!
「ヒロにぃ! そろそろ防御もするにゃ!」
「む? ……承知」
もう少し痛みを堪能したかったですが、ノーガードですべて受け入れた結果、私の体力はあっという間に半分を下回っておりました。
私は不承不承ながら、盾を構え、怒り狂ったようにもみえる火龍の怒涛の爪の連撃を受け止めます。
クッ……そろそろか。
《カウンターアブソーブ》を使用してから、17秒が経過。
私が攻撃の姿勢に移ると、
「アケミさん、今にゃ!」
「――《アイスランス》!」
放たれた氷の槍が火龍の右翼を貫き、右翼を失った火龍は体勢を崩し倒れます。
……3.2.1。
「――ハッ!」
完璧なタイミングで目の前に倒れてきた火龍の顔面に、今まで受けたダメージを乗せた最高の一撃を叩き込むと、
『グォォォオオオ!?』
火龍が苦悶の悲鳴をあげます。
「イセたん、攻撃準備にゃ!」
「む……この新たなスキルのハジメテはリクたんに捧げる予定でしたが……致し方あるまい! ――《
イセたんは、これまでのお家芸――《
あれほどまでに外すのを拒んでいた、イセたんの魂――ウサ耳すら外れております。
――!?
な、な、なんと……!?
イセたんのトレードマークであるTバックの色は情熱を示す真紅だったはずなのに……カラーが桃色に変化しており……更には丸い毛玉――ウサギの尻尾が新たに付加されておりますぞ!?
「い、イセたん……そ、それは……」
「ハッハッハッ! 本来であればリクたんにハジメテ魅せる予定でしたな。これは、因幡のウサギを3,000匹以上倒して獲得した勝負下着なり!」
イセたんは攻撃する手を緩めることなく、私の驚く声に答えます。
イセたんが激しく動く度に、ウサギの尻尾も生命を宿しているかのように、上下左右に動きます。
「最低の精神攻撃ですわ! ――《ブリザード》!」
「にゃにゃ!? イセたんのスリップダメージが大きいにゃ!?」
クロ殿はイセたんの勝負下着に動じることなく、斧で攻撃をしながらも、パーティー状況を正しく把握します。
火龍は全身から炎が噴出しており、近付くだけで火炎ダメージを受けてしまいます。先程までは防具に耐火剤――『アイスローション』を纏っていましたが、今は生身のため大きなダメージを受けていますな。
「しょうがないにゃ!」
クロ殿は一旦攻撃の手を止めると、水色の液体の入った瓶――『アイスローション』をイセたんに投擲します。
「――!? こ、これは……フォォォォオオ! ありがとうございます! ありがとうございます!」
『アイスローション』を全身に浴びたイセたんは火炎ダメージをものともせず、今まで以上に鋭い連撃を火龍に見舞います。
「いやぁぁぁあ!! もういい加減にしてほしいですわ!! ――《エターナルブリザード》!!」
アケミ氏の放った極寒の吹雪が火龍を包み込むと、
『グォォォオオオ……コ、コノチカラ……サ、サスガハ選バレシ……勇者タチヨ……』
火龍は氷漬けになり力尽きましたぞ。
「アケミさん凄いにゃ! タイミングばっちりにゃ!」
「ぐ、偶然……ですわ……」
クロ殿が褒め称えると、アケミ氏はその場で座り込みます。
「むむ? 大丈夫ですかな?」
「す、少し休めば大丈夫ですわ」
「《エターナルブリザード》は禁忌魔法の一つにゃ」
「禁忌魔法?」
「禁忌魔法は使用すると全魔力を消費するにゃ。更に回復不能の状態異常に侵されるから、使うタイミングが非常にシビアな魔法にゃ」
「なんと……!? そんな魔法が!」
「アケミさんは魔導師だから禁忌魔法は4種類のみだけど、大魔導師になったら、更に凄い禁忌魔法を習得するにゃ」
「魔法使いも奥が深いのですな」
「どのクラスも突き詰めると、奥は深いにゃ」
火龍討伐に成功した私たちは、宝箱を解放するとその場で休息をとることにした。
4時間後。
火龍が鎮座していた奥に存在していた扉が激しい音を立てながら開放。
扉の先へと進むと、
「すまん。待たせたな」
我が主――リク殿と再会を果たせたのであった。
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