パーティーメンバー募集

 クラスアップを果たした俺は、ヒナタとメイの姉妹と合流する為、いつもの寂れた喫茶店へと向かった。


 喫茶店に入り、指定席と化した一番奥のボックス席に目を向けるが、二人はまだのようだ。俺はアイス珈琲を注文し、二人を待つことにした。


「お待たせ!」

「お待たせしました!」


 二人を待つこと10分。


 元気な声と共に現れた二人はいつもの席に座った。


「いやー凄いねクラスアップ! クラスアップしただけで、ほとんどのステータスが上がったよ!」

「私も素敵なスキルを覚えましたよ!」


 初めてクラスアップを経験した二人は楽しそうに笑う。


「クラスアップを果たしたから、次はいよいよ第五階層の攻略だな」

「おー!」

「第五階層って階層主がいるんですよね?」


 楽しそうに片手をあげるメイに反して、ヒナタは不安そうな声を漏らす。


「そうだな。第五階層の階層主はミノタウロスだったかな」

「私たちだけで勝てますか?」

「うちのよく見ていた攻略サイトだと、ミノタウロスは最初の難関って書いてあったかも」


 初心者殺しのミノタウロス。


 土属性や光属性の騎士なら、ミノタウロスの全ての攻撃に耐えることが出来る。属性問わず僧侶がいれば傷ついた騎士を癒やすことが出来る。


 後は、アタッカーがミノタウロスを倒せば終了。


 と、知っていれば簡単な敵なのだが……今までノービスだった初心者たちは、何よりも自分で攻撃することを優先する傾向がある。


 ミノタウロスはそんな初心者に、パーティーの役割における重要性を教えてくれる階層主だった。


 まぁ、言っても第五階層の階層主だ。大振りの攻撃も多いので、タイミングさえ把握出来ればソロで完封することも容易い。


 パーティーの役割における重要性を教えてくれる階層主ではなく、回避とタイミングの重要性を教えてくれる階層主である、とも言われていた。


「勝てるとは思うが、不安か?」

「んー……遮断される前なら動画を見て事前に予習も出来たけど、ぶっつけ本番は怖いかな」

「えっと、4人までなら経験値にペナルティはないのですよね? それなら……もう一人誘ってみるのはいかがでしょうか?」


 メイはゲーマーならではの愚痴をこぼし、ヒナタは真っ当な意見を提案する。


「パーティーメンバーを募集するなら、今このパーティーに不足しているのは、タンクだろうな」

「うちとリクはアタッカーにしかなれないし、ヒナはヒーラーだからね」

「ふむふむ」


 階層主に挑む為にパーティーを組むのは常識だ。ソロで挑むプレイヤーは皆無に等しい。


 遮断される前であったなら――『ソロで遊びたいのならオンラインゲームは辞めろ』と、辛辣な言葉も飛び交っていたほどだ。


 封鎖された今だと命にも関わるので、パーティープレイは遮断前よりも重要性は大きいだろう。


 とは言え、大きな問題が二つある。


「パーティーメンバーを増やすのはいいが、どうやって募集するんだ?」


 仲間である目の前の姉妹はパーティーメンバーの募集に大きなトラウマを抱えていた。


「えー……遮断されても直結厨とか存在するの!?」

「それは何とも言えないが……」

「冒険者ギルドでの募集は怖いですが……今ならリクさんもいます!」

「え?」

「リクさんは私たちを守ってくれますよね!」

「へ? ま、まぁ……最善は尽くす」

「なら、大丈夫です! さぁ、冒険者ギルドに行きましょう!」


 ヒナタは張り切って片手を上げたが、俺は冴えない表情を浮かべる。


「ん? リク、どうしたの?」

「冒険者ギルドで募集するんだな?」

「ヒナがいいなら、うちはそれでいいよ」

「はい! きっといい人に巡り会えます!」

「そうか……うーん……まぁ、先に謝っておく、すまん」

「へ? どうしたの?」

「どうしたのですか?」

「いや、俺の杞憂ならいいが……とりあえず、冒険者ギルドに行こうか」


 俺は気乗りしないまま冒険者ギルドへ向かうのであった。



  ◆



 冒険者ギルドに辿り着いた俺たちはパーティーメンバーを募集することにした。


 パーティーメンバーの募集方法は簡単だ。


 冒険者ギルドが定めた書類に、決められた項目を記入して、掲示板に貼り付けるだけだ。


『★パーティーメンバー募集

 目的 第五階層の階層主の討伐

 募集 タンク@1

 求人主 リク  レベル10 風属性 盗賊

     メイ  レベル10 闇属性 盗賊

     ヒナタ レベル10 水属性 僧侶』


 募集するプレイヤーの情報を更に細かく指定することも可能だが、指定が細かくなるほど募集は埋まりにくくなる。そのため、今回は最も簡潔な内容で記した。


 反面、求人側はレベルと属性とクラスを記載する必要があり、省略することが出来なかった。


 後は募集に応じたプレイヤーが掲示板からこの情報にアクセスすると、求人したプレイヤー――今だと俺のシステムが反応する仕組みだ。


 パーティー募集をしてから待つこと1時間。俺のシステムアラートが鳴ることは無かった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る