金策②
第八階層を奥へと進むこと15分。
鬱蒼と生い茂る木々の中に、3メートルほどある細見の枯れ木が目に映る。
「あれが今回の獲物――トレントだ」
俺は枯れ木を指して、二人に伝える。
よく見れば中央にある二つの窪みには生気を感じさせない眼球があり、全体は風が無いのに揺れているのを見て取れる。
「トレントの行動パターンは3つ。鞭のようにしなる枝を薙ぎ払う攻撃と、振り下ろす攻撃。後は根っ子の太い部分で周囲を薙ぎ払う攻撃だ」
トレントの進化系であるエルダートレントであれば、更に魔法も使用してくるが、この階層に出てくるトレントは単純な物理攻撃のみだ。
「よく観察して、予備動作を覚えてくれよ」
俺は二人に指示を出すと、一歩踏み出して魔力を集中する。
――《ウィンドカッター》!
放たれた風の刃がトレントの全身を覆う樹皮を切り飛ばし、樹液を撒き散らす。
「クォォォオオオオ⁉」
トレントが人の耳では聞き取れない甲高い悲鳴をあげる。
トレントの腕に見立てた木の枝が僅かに後方へと揺れ動く。
この動作は――薙ぎ払いか。
「薙ぎ払いは、敵に接近すれば回避可能だ! ヒナタは薙ぎ払いの射程を覚えるんだ!」
俺は丁寧に対処法を解説しながら、トレントへと接近。振り払われた木の枝は俺の頭上で空を切る。
次いで、トレントの腕に見立てた木の枝が僅かに上へと持ち上がる。
この動作は――振り下ろしだな。
「振り下ろしはサイドステップで回避可能だ! 砂煙は舞うが冷静に対応すること!」
俺は自身が解説した通りにサイドステップを刻み、振り下ろされた木の枝を回避。
「トレントは攻撃間隔が長いので、回避後はこのように攻撃のチャンスだ」
俺は目の前のトレントを剣で切り裂きながら、解説をする。
トレントを攻撃していると、地に着いた足が僅かな振動を感じ取る。
「振動を感じたら、即座に後退! 根っこの薙ぎ払いは射程範囲が広いから注意が必要となる」
俺は後方へとバックステップを数回重ねてトレントとの距離を大きく開ける。先程まで俺が存在していた場所にトレントは足に見立てた根を大きく薙ぎ払い、周辺に土煙が舞った。
「根っこの薙ぎ払いの後は隙が大きくなるから、攻撃のチャンスに繋がる」
――《アクセル》!
俺は刹那の時間でトレントの距離を詰め、攻撃を仕掛けた。
その後、俺は敵の攻撃に合わせたら最適な回避行動を取り続け、トレントを始末した。
「簡単だろ?」
俺はヒナタとメイに視線を向け、微笑む。
「うーん……リクを見ていると簡単そうに見えるけど……」
「はわわっ!? リクさんは凄いのです!」
メイは自信なさげに呟き、ヒナタは大袈裟に称賛する。
「まぁ、2〜3回なら回避に失敗しても死なないだろ……多分」
「……多分? ヒナ聞いた! 今、多分って言ったよ!」
「メイが怪我をしたら私の出番ですね!」
「ちょっ!? ヒナ! 何で、そこで張り切るの!?」
俺の漏れてしまった本音に、メイは大袈裟に騒ぎ立て、ヒナタは目を輝かせてガッツポーズをする。
「ん? メイは自信がないのか?」
「ぐぬぬ……そんなことないから!」
「なら、大丈夫だな」
「むぅ」
メイのゲーマーとしてのプライドを刺激すると、メイはすぐさま反論。俺はそんなメイの様子を見て苦笑する。
「トレントは経験値も美味しいし、ドロップする素材も馬車の材料になる。頑張ろうな」
「わかったわよ!」
「はい!」
「次はオークだな……。こいつは、特段アドバイスはないが……一応手本を見せるか」
俺はもう一つのターゲット――オークを求めて森の散策を続けた。
――発見!
トレントを倒してから森の中を散策すること5分。鋭い牙を二本生やした、二足歩行の猪――オークを発見。
オークは胴に粗末な革製の鎧を装着し、武器として鉄製の槍を手にしていた。
俺は口の前に人差し指を立てて、静かにレクチャーを開始する。
「見ての通り、オークの武器は槍だ。槍以外にも、牙を使ってかち上げる攻撃パターンもある」
「剣を持ったオークはいないの?」
「俺の知る限り、この階層のオークは槍しかいない」
「なるほどね」
「槍を持った敵との戦いで注意することは何か分かるか?」
「えっと……間合い?」
「正解。加えて、オークは突きの動きが主体だから、点の攻撃に備えるのが大切になる」
「点の攻撃?」
「前後の動きでなく、左右の動きで回避だな」
「なるほどね」
メイは俺のレクチャーを真剣な眼差しで聞き入れる。
「あ、あの……私はどうすれば?」
蚊帳の外に置かれていたヒナタが申し訳なさそうに声を出す。
弓ヒーラーの対オークの立ち回り方……?
狩人とかなら接近される前に弓で倒すが……ヒナタには無理だ。通常のヒーラーで言えば、攻撃を引き受けるタンクを癒やすのが役割となるが……俺もメイもプレイスタイルは回避型だ。
難しいし質問だ……。
「オークに可能な限りアクアショットを当てて、水魔法の熟練度を上げてくれ!」
「は、はい!」
俺は誤魔化すように大声で、ヒナタに指示を出すと……
「ブォォオオオ!」
こちらの声に反応したオークが槍を突き上げて、威嚇行動をとった。
「気付かれたか。よく、観察してくれよ」
俺は見本を見せるべく、オークと対峙するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます