金策①
第六階層に到達してから7日目。
俺たちは寝袋などを用意した後、第六、第七階層を最短ルートで踏破し、第八階層へと辿り着いた。
「やっと目的地に到着しましたね」
「野宿から解放される日は近いね!」
鬱蒼とした木々が生い茂る、全体が森で構築された第八階層を見渡しながら、ヒナタとメイが感慨深く呟く。
「野宿から解放されるのは、もう少し先だな」
「うぅ……わかってるよ!」
野宿から解放される為には荷台――"家"を購入する必要がある。その為に俺たちはここに訪れた。謂わば、スタートラインに立ったに過ぎない。
「えっと、それで金策のターゲットは何でしょうか?」
「ターゲットはトレントとオーク。後は、素材も片っ端から拾い集める」
トレントのドロップアイテムは木材だ。そのまま荷台の材料に使える。オークのドロップアイテムである毛皮と牙は換金性が高く、全体が森で構築された第八階層は素材の宝庫だった。
「素材を片っ端から集めるってことは採集?」
「そうなるな。草花の採集と木の伐採がメインになる」
「わぁ! リクさんとパーティーを組んでから採集するのは初めてですね」
「うんうん。リクは生き急いでるって言うか……必要なことしかしない効率最重視みたいな立ち回りだよね」
「そうか?」
外部遮断された現状ならいざ知らず、外部遮断される前はそれなりにエンジョイ勢のようなプレイを心掛けていたつもりだったが……。
「そうだよ! この世界の景観を楽しむ暇もなく、常に何かをしていたよ!」
景観を楽しむ……?
確かに、その概念は俺にはないな。
「遮断された後の世界だと生き残るのに必死だ。景観を楽しむ余裕なんてないだろ?」
「遮断される前からのような気もしますが……」
ヒナタが俺へとジト目を向ける。
「まぁ、うちは今のスタイルも冒険をしている! って感じで好きだよ」
「あ!? メイ、ずるいです! 私もリクさんとの冒険は楽しいですよ!」
「ハハッ……ありがと」
俺は二人のフォローに苦笑を漏らす。
「それで、今回の金策で何か注意事項はありますか?」
ヒナタは表情を改め、真剣な眼差しで俺へと問いかける。
「注意事項か……そうだな。トレント、オーク共に弱点は火属性」
「え? うちら火属性の攻撃手段ないよ?」
「ボーガンのスキルで《ファイヤーショット》はあるが、決定打にはならないだろうな」
「どうすんの?」
「普通に物理攻撃だな」
「了解」
「あの……私は?」
メイはシンプルな作戦をあっさりと飲み込むが、ヒーラー役のヒナタは不安そうに顔を曇らせる。回避を主体としている俺とメイのプレイスタイルではヒーラーの出番は少ない。
「んー……魔法攻撃、と言いたいところだが……トレントは水属性の耐性が強いんだよな……」
「はぅ……いよいよ、私の役割が……」
「折角だから、ヒナタも武器で攻撃するか?」
「いいのですか?」
今回の提案が余程嬉しいのか、ヒナタは表情を輝かせる。
「何でもかんでも手を出して器用貧乏になるのは悪手だが、選択肢を増やすのはありだと思ってる」
「わ! わ! どうしましょう! 武器は何を選びましょう!」
ヒナタは頬に手をあてて、嬉しそうにはしゃぐ。
「僧侶なら今後のクラスアップ先にもよるが、シナジー効果が見込めるのは……棍棒、薙刀、弓かな?」
「棍棒、薙刀、弓ですか? リクさんはどれ――」
「弓でしょ!」
悩ましく身を揺らすヒナタの言葉をメイが遮る。
「私はリクさんに――」
「ヒナは運動神経が鈍いから弓一択でしょ」
「メイには聞いていません! リクさんは何がいいと思いますか?」
「そ、そうだな……。棍棒と盾を装備して守れるヒーラーと言う選択肢もあるが……」
「リク!」
「……無難に考えたら弓だろうな」
メイの威圧に押された訳ではないが、俺はメイの意見に肯定した。
「リクさん、本当にそう思っています?」
ヒナタが俺にジト目を向ける。
「弓と僧侶系……正確には巫女系統が相性良いのは本当だ。弓もサブ武器の選択肢としては悪くない」
「むぅ……リクさんがそう言うのであれば……」
「それがいいよ! そうだ! 記念にこの弓をヒナにあげるよ!」
「俺からはゴブリンからドロップした矢を贈呈するよ」
メイはヒナタが受け容れるやいなや、ミノタウロスからドロップした弓を差し出し、ついでに俺もゴブリンからドロップした矢を差し出した。
「あ! うちの矢もあげるよ!」
「わわっ! こんなに沢山……っ!」
「最初は狙いをつけるのは難しいだろうが、トレントは大きい。俺とメイに誤射しないように上の方を狙ってくれ」
「は、はい! 頑張ります!」
これでヒナタの問題は解決だ。
「最後の注意事項となるが、俺たちのレベルはこの階層の推奨レベルを満たしていない」
これは最短ルートで踏破した弊害だった。
「死ぬことはないと思うが、最初は俺がソロで戦うからメイとヒナタはトレントとオークの行動パターンを学習してくれ」
「わかった。でも、リクは平気なの?」
「俺は経験があるからな」
「うーん……いつになったらうちらはリクから卒業出来るんだろ?」
俺の提案がゲーマーとしてのメイのプライドを触発したようだが、反発はしないようだ。
「俺はハズレ属性の風属性だ。すぐに追いつけるさ。それじゃ行くとするか!」
「おー!」
「はい!」
こうして、俺たちは金策を始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます