金策③

 俺は剣と短剣を構えて、槍を振り上げるオークと対峙する。


 注意すべきは、槍の間合いと槍を持つ手。目の前のオークは右手に槍を持っていた。


 俺はオークが槍を持っていない手の方向へと、半身をズラす。


「来いよ、ブタ野郎」


 俺は短剣を持つ手で呼び込むが、オークは警戒しているのか、槍を構えたまま動かない。


 しょうがないな……。


 俺は短剣をしまうと、ボーガンに持ち替えてオークへと矢を放つ。


「ブヒィィィイイ!」

 

 放たれた矢は、オークの眉間に突き刺さる。オークは怒りの雄叫びを上げ、突進してきた。


「ブォ!」


 オークが渾身の力を込めて放った突きを、俺は右方向にステップして回避。槍が引き戻されるよりも速く、オークとの間合いを詰めて剣を振り下ろす。


 ――《スラッシュ》!


 続けざまに至近距離の間合いを維持したまま、剣での攻撃を繰り返す。


「ブルルルルッ」


 オークから唸り声が漏れ聞こえる。


 俺がバックステップにて後方へと飛ぶと、オークは首を思い切り縦に振り、鋭い牙を振り上げる。


 牙が空を切ったタイミングで、再びオークに接近し、


 ――《ライジングスラッシュ》!


 跳躍とともに短剣でオークの牙を切り上げる。


 一撃じゃ無理か……。


 牙の部位破壊を狙ったが、風属性、盗賊、短剣と攻撃力が低い要素がてんこ盛りの俺では破壊に至らなかった。


 その後は牙を中心に攻撃を仕掛け、二本の牙を叩き折ったところで、瀕死となったオークを斬り伏せた。


「と、まぁこんな感じだ。オークの牙は換金率が良いから部位破壊は忘れないように」


 模範的な見本は見せれただろう。俺はヒナタとメイへと視線を向けた。


「部位破壊まで完璧に出来るかわからないけど……頑張るよ!」

「えっと、私はアクアショットを打ち続ければいいんですよね?」

「二人の活躍に期待している」

「よし! それじゃ、早速頑張るぞー!」

「っと、その前に……採取と採伐も教えておく」

「ッ!? せっかく、うちのやる気がマックスになったのにー!」

「当初の目的は金策だろ?」


 俺は大袈裟にズッコケるメイに対しては苦笑を浮かべた。


 その後、第八階層に採取、採伐出来る素材を二人にレクチャー。採取、採伐共に地道な作業で、メイは愚痴を漏らしたが、ヒナタは楽しそうに素材を集めるのであった。



  ◆



 第八階層にて金策で籠もってから6日目。


 金策の成果は、一人当たり日給は500Gほどたろうか。


 目標としていた金額――一人3,333Gの素材が集まった。但し、ヒナタとメイは荷台を購入したら無一文になるので、もう少し金策を続けることにした。


 

 第八階層にて金策で籠もってから十日目。


 当面の資金としては十分過ぎる程の金策に成功。また、レベルも全員が15と大きく成長。


 そして、俺たちは十一日振りにはじまりの町へと戻ったのであった。


 素材も露店、或いは旅団ショップで販売すれば、店売りするよりも大きな利益を得ることが出来るが……それもまだ先の話だ。工房もない十階層未満では、プレイヤー同士の販売は成立しない。


 俺たちは素材を買い取ってくれるNPCのお店を周り換金した。


「わわっ!? どうしましょ!? 凄いお金持ちになりました!」

「凄いね! あっという間にお金持ちだね!」


 換金を終えたヒナタとメイは今まで目にしたことのない大金に興奮状態だ。


「金策に特化した動きをすると、普通に冒険しているときの何倍もお金が手に入るからな」


 俺自身の所持金もあと少しで10,000Gの大台に届くまでになっていた。


「むむ? リクはあんまり喜んでいないね?」

「そうか? 金はいくらあっても困らない。今回の成果には満足しているぞ?」

「リクって感情を表に出すの下手?」

「どうだろうな? あまり、そういうのは意識したことないな」

「もしくは……リクのメインキャラクターってめっちゃお金持ちとか?」


 どうやら、メイは俺とのテンションの温度差に不満があるようだ。


「まぁ、一般的なプレイヤーよりは余裕はあったかもな」

「うわっ!? その言い方は絶対にお金持ちだよ!」

「まぁ、その金を引き出すにも……第五十一階層に行く必要があるけどな。俺のハウスに到達にしたら、珈琲の一杯くらいは奢ってやるよ」

「珈琲一杯って……。うん! でもいいよ! 約束だからね!」

「へいへい。最高級の豆から挽いた珈琲を奢ってやるよ」


 俺の他愛もない約束にメイは満面の笑みを浮かべるのであった。

 

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