vs吸血鬼①

 第二〇階層の攻略を開始してから36時間後。


 二度目の攻略と言うこともあり、2日足らずで第二〇階層の最奥へと辿り着いた。


「わぉ! もう階層主の部屋だよ!」

「経験値が入らないから、道中の敵をスルーしたのが大きいにゃ」

「遭遇しても、リク殿とメイ殿で瞬殺でしたな」

「たったの5日間なのに、本当に強くなったんだなぁって実感しますね」

「装備品が一新されたのが一番大きいな」


 緊急クエストの経験は仲間たちは大きく成長させていた。


「万全を期する為に、1時間休憩。その後、最奥の間へと突入する」

「了解!」

「はい!」

「承知!」

「了解にゃ!」


 俺たちはリラックスした状態で軽い軽食を取りながら、階層主との戦いに備えることにした。


「これで第二〇階層以下とはお別れなのかぁ」

「本当に色々なことがありましたね」

「次回の緊急クエストはリク殿が不在となりますが、大丈夫なのでしょうか?」

「ガンツたちが残るなら……大丈夫だろう」


 ガンツたち――プロ初心者集団が残るなら、【百花繚乱】の再建を許さないだろう。


 【百花繚乱】が消滅すれば、鉄鉱石が市場に出回り、狩場の独占も無くなる。そうすれば、プレイヤーの強さは適正になり、緊急クエストを達成することはそこまで難しくもなくなる。


「今回の緊急クエストは人災による不幸の連鎖が重なり過ぎたにゃ。本来、緊急クエストはあそこまで厳しい戦いにはならないにゃ」

「人災と言うか、【百花繚乱】による災害だな」


 【百花繚乱】は鉄鉱石を独占しプレイヤーの装備の質を低下させ、狩場を独占しプレイヤーのレベルを低下させ、下の階層から無理やりプレイヤーを運搬し敵の戦力を増強させた。


「タックだっけ? まさかあの偽物も本物が近くにいるとは思わなかったんだろうね」

「私たちもアニメで見ていた『炎帝のソラ』さんがこんなにも近くにいるとは思いませんでした」

「そのアニメを見たことはないが、ヒナタが見ていた『炎帝のソラ』と俺は別物だからな……」


 アニメ版『天下布武』。遮断されていなければ、すぐにでも事実確認をしたいところだった。


 【天下布武】を題材にした作品の許可に関しては、適当に返事をしていたが……こうなるのならば、きちんと確認すべきだったな……。


「そういえば、あの偽物さんは今後どうするのでしょうか?」

「最終日にデスペナを食らってから姿を見ていないが……どうするんだろうな?」

「装備的に第四〇階層にも辿り着いていないと思うから、上を目指したらあっさりと嘘が露呈するにゃ」

「でも、あれだけ迷惑掛けたのに第二〇階層以下に残るかな?」

「どうするんだろうな? まぁ、今後俺たちの人生と交わることがないことを期待しようか」

「そうだね!」


 仲間たちと談笑していたら、あっという間に1時間が経過した。


「さてと、そろそろ行くか」

「うん!」

「はい!」

「承知!」

「了解にゃ!」


 俺は立ち上がり、仲間たちに声を掛ける。


「出会い頭に奴は必ず能書きを垂れる。まずはヒロとクロで攻撃を仕掛けろ。その後、ヒナタ、メイ、俺の3人で追撃を仕掛ける。それがファーストチャンスとなる」


 俺の言葉に仲間たちが静かに頷く。


「行くぞ」


 俺は階層主――吸血鬼ヴァンパイアが待つ部屋の扉を押し開いた。


 部屋の中は薄暗く、濃霧が立ち込めていた。


 全員が部屋へと足を踏み入れると、金属を引きずる不快な音ともに今ほど通った扉が閉ざされ、部屋の左右に設置されていた篝火が手前から奥へと灯火を始めた。


 最後の篝火が灯火すると、部屋の奥に黒いタキシードを囲んだ長身の男性――吸血鬼が姿を表した。


「ハッハッハ! よく来たな! 愚かな下等種族たちよ!」


 悠長に能書きを垂れる吸血鬼へとクロが疾走すると、遅れてヒロアキも吸血鬼へと疾走する。


「我こそがこの階層の覇者ダークネスドラ――」

「ウルサイにゃ! ――《パワースラッシュ》!」


 まずはクロがファーストアタックとなる斧の一撃を見舞うと、


「行きますぞ! ――《紫電一閃突き》!」


 続けて、ヒロアキがとぎすまされた神速の突きを吸血鬼へ見舞う。


「――ッ! き、貴様ら今は――」

「ウォーターショット!」


 尚も能書きを垂れる吸血鬼にヒナタの放った水の弾丸が命中すると、


「いっけぇぇええ! ――《夏撃》!」


 メイの投擲した風を纏った分銅が吸血鬼の顔面に命中。


「ぶほっ!? ま、待て! まずは我の――」


 そして、続けざまにメイは疾走し吸血鬼との距離を詰める。


 ――《アクセル》!


 風縛剣と風塵刀――魔法の触媒となった一対の短剣を力を借りた《アクセル》の魔法は、俺の敏捷性を今まで以上に加速させる。


 世界が止まったかのような錯覚に陥る程の速さを制御し、俺はメイの後を追うように吸血鬼へと疾走。刹那の速さでメイを追い越した俺は吸血鬼を通り過ぎ、背後に回り込む。


「フフン♪ いっくよー! ――《風威》!」


 吸血鬼との距離を詰めたメイは吸血鬼の顔を覆った荒れ狂う風を鎌で断ち切った。


 断ち切られた風は爆発を引き起こし、吸血鬼を吹き飛ばす。


「ふぎぃ!?」


 ――《バックスタブ》!


 俺は吹き飛ばされた吸血鬼の首筋に短刀――風塵刀を突き刺した。


「ハァァァアン!? き、き、貴様! 痛いではないか! な、何をす――」


 ――《ファング》!


 触媒の影響により、スキルモーションも加速した俺の攻撃は素早く吸血鬼を切り裂く。


「もうよい! 貴様らには深淵よりも深き真の――」


 尚も能書きを垂れる吸血鬼の顔面にメイの投擲した分銅が命中。吸血鬼は後退りしながらも、腰に帯刀していた刺突剣を抜刀した。


「ヒロ! 盾を打ち鳴らせ!」

「承知! ――《タウント》!」


 戦闘態勢に入った吸血鬼の姿を確認し、ヒロアキが盾を打ち鳴らす。


「許さぬ……許さぬぞぉぉぉおおお!」


 烈火の如く激高する吸血鬼との戦闘が始まったのであった。

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