第五一階層を目指して②

「GvGですか……」


 アイリスはIGOが公式に定めた合戦という用語ではなく、GvGという言葉に馴染みがあるようだ。


「正式名称は合戦だけどな」

「それで、合戦というのはどのようなコンテンツなのでしょうか?」

「旅団同士が争う大規模対人戦だ。PvPと大きく違うのは、勝者が得られるメリットが非常に大きいことだな」

「どのようなメリットがあるのでしょうか?」


 アイリスは真剣な眼差しを俺へと向ける。


「勝者は倒したプレイヤーの数に応じて莫大な経験値を得られ、敗北した旅団に所属するプレイヤーから任意で10個のアイテムを奪い取ることができる。更に、敗者となった旅団は賠償金と言う名目で30日間毎日一定の額を勝者に徴収される。後は、勝者は名声を得て、敗者は名声を失う」

「避ける方法はあるのですか……」

「断ればいい。合戦を受諾できるのは、団長と副団長のみだ。合戦を仕掛けられても必ず拒否すること、と周知徹底すれば防げる」

「拒否することができるのですね」

「名声を失うが、拒否することは可能だ」


 合戦は巻き込まれるプレイヤーの数が多くなるので、さすがに問答無用で仕掛けることはできなかった。


 この仕様に文句があるなら、対人専用のオンラインゲームをすればいい。とは、よく言ったものだ。


「名声というのは?」

「名声は、旅団クエストや旅団ホームの設立に影響を与えるシステムだな」

「――?」

「今って旅団のメリットは、旅団チャットに旅団コスチューム。後は……旅団ホームの利用くらいだろ?」

「そうですね」

「もう少し目に見える旅団のメリットを! という趣旨で実装されたのが、名声システムだ」

「旅団のメリットですか?」

「明確なメリットで言えば、旅団クエストを受けれることか?」

「旅団クエスト?」

「旅団クエストは、旅団単位、もしくは該当の旅団に所属しているプレイヤーのみが受領できるクエストだ。んで、名声に応じて依頼される旅団クエストが増えるって感じだな」

「なるほど」


 旅団クエストは冒険者ギルドで発行されているクエストよりも高い報酬が得られる。


「その名声というのは、合戦でしか増えないのでしょうか?」

「いや、旅団クエストを達成しても増える……けど、合戦のほうが手っ取り早く、大量の名声を得ることができる」

「……運営は私たちプレイヤー同士の争いを望んでいるのでしょうか……」


 俺の答えにアイリスは悲しそうな表情を浮かべる。


「んー……運営が望んでいるというよりも……プレイヤーが望んだ結果かな?」

「――!?」

「合戦はプレイヤーの要望から実装されたコンテンツだからな……」


 問答無用のPKは論外としても、対人コンテンツを望むプレイヤーは少なからず存在する。


「プレイヤーが望んだのですね……」

「この世界に閉じ込められる前――ゲームの頃の話だけどな」


 俺とアイリスの間に重い空気が流れる。


「とりあえず、合戦を申し込まれても拒否する! これで問題は回避できる。上の階層の現状はわからないが……そもそも新人旅団に合戦を申し込むクズ旅団はそんなにいないはずだ」

「はい! わかりました!」


 そんなクズ旅団がいれば……【天下布武】や知り合いの旅団を動員して潰せばいい。


「第五一階層に到達後……困ったことがあればメッセージを送ってくれ。何かあれば、出来る範囲で協力するよ」

「ありがとうございます!」


 重苦しい空気を払拭したところで、俺たちはアイリスと別れ、第五〇階層の攻略を開始することになった。



  ◇



 第五〇階層攻略開始から5日後。


 俺たちは第五〇階層の最奥へと到達。階層主にして中階層最強の魔物である――吸血鬼公ヴァンパイアロードと対峙した。


 以前と変わらず意味不明な強さだったが、何とか討伐に成功したのであった。


「疲れたぁ……めっちゃ強かったね」

「一度の挑戦トライで討伐できたから、結果としては上々だな」

「カゲロウもあいつみたいに強くなるのかなぁ?」

「愛情を込めて育てたら、あいつより強くなるさ」

「にしし、なら問題ないね! カゲロウ、強く育つんだよー」

「キィキィ」


 メイは肩に乗せた未だ成体化せずに蝙蝠のままの従魔を見て、微笑む。


「んじゃ、宝箱を開ける。分配条件はランダムでいいかな?」


 俺は目の前に現れた宝箱の前に進み、仲間たち――特に、アイリスから借り受けた【青龍騎士団】のメンバーに確認する。


「はい。お願いします」


 ――《解錠》


 宝箱を開放すると、納められていた無数のアイテムが光の粒子となって俺たちの中――アイテムインベントリーへと収納されてゆく。


 ここでのドロップ品で当たりとなる武器は闇属性の短剣になるのだが……正直、自分の家に戻れればそれより強い短剣が保管されている。


 特に期待することなく、アイテムインベントリーを確認すると……――お?


 レアアイテムに分類される未所持の武器が収納されていた。


「リクにぃ、当たりでもあったのかにゃ?」


 表情に出てしまったのだろうか、クロが声をかけてくる。


「当たりっちゃ、当たりだけど……微妙だな」


 俺はアイテムインベントリーから漆黒の細剣――ダークネスラピエルを取り出して、クロに見せた。ダークネスラピエルは剣に分類されるが、用途が普通の剣とは異なる刺突剣だ。


「レアだけど……ボクたちのパーティーに剣使いはいないにゃ」

「観賞用だな」


 売ればそれなりの金額になるが、それ以上に高価なアイテムが家の倉庫にはゴロゴロと保管されていた。


「クロはどうだったんだ?」

「使えそうな素材がぼちぼちあったにゃ。装備品はリクにぃと同じ理由で不要にゃ」

「まぁ、そうなるよな」


 セカンドキャラの因果と言うべきか、メインキャラクターのお下がりがあると、装備品に対する喜びは大きく減少した。


「クロ、これからどうするんだ?」


 俺は真剣な表情でクロに問いかける。


 クロとの約束は第五一階層までだ。


「リクにぃ、ヒナねぇ、メイねぇ、ヒロにぃ。お世話になりましたにゃ」


 クロは俺たちに深々と頭を下げる。


「――!? あ、そうか……クロちゃんとはここでお別れなんだ……」

「寂しいですね……」

「クロ殿……お世話になりました」

「にゃはは! 今生の別れじゃないにゃ。これからも、きっと会えるにゃ!」


 クロはしんみりとした空気を吹き飛ばすかのように、大声で笑う。


「本当に?」

「本当にゃ」


 小さく呟くメイの言葉に、クロは笑顔で答える。


「約束ですよ」

「約束にゃ」


 両手を掴むヒナタに、クロは笑顔で答える。


「盾が必要になったときはいつでもお呼びくだされ!」

「にゃは、頼りにしてるにゃ」


 胸を叩くヒロアキにも、クロは笑顔で答える。


「とりあえず、メイには家で美味いコーヒーをご馳走する約束があったな。せっかくだ、クロも付き合えよ?」

「んー……了解にゃ!」


 俺の提案に、クロは笑顔で頷いた。


「んじゃ、みんなを俺の家に招待しますか」

「私はアケミと街を散策するよ」

「リクさんたちの絆の間には入れませんわ」

「むむ? 拙僧はリクたんの家に――」

「イセさんも、私たちと一緒に街を回りますわよ」

「む? むむ……しょ、承知」


 カナメたちは気を利かせてくれたようだ。


「それじゃ、行くとするか!」


 俺たちはIGOの真のスタートラインと言われる第五一階層へと向かうのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


 いつもトップランカーをお読みいただきありがとうございます。


 これにて、章完となります。


 今回は思い切って第五〇階層の戦闘を省略しました。(前回の第四五階層を省略して第五〇階層を書くべきだったか……とかの後悔はありますが……そこは書籍になったときに期待すると言うことで……苦笑)


 次回からは――『天下布武編』となります。


 先の展開も気になるかと思いますが、一旦視点を変更しソラのいなくなった【天下布武】の様子を描く予定となっております。


 今後も本作トップランカーをよろしくお願い致します。

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