祝勝会……、その前に②

「反対……? 理由を聞いてもいいか」


 俺は『反対』を唱えたクロに質問する。


「リクにぃは自分の――ソラの存在の大きさを侮ってるにゃ」

ソラの存在の大きさ?」

「ソラには羨望、尊敬、友情――好意を抱いているプレイヤーが沢山いるけど、嫉妬、嫌悪、殺意――敵意を抱いているプレイヤーも存在するにゃ」

「いや、まぁ、確かに……聖人君子だったとは思っていないが……殺意までは言い過ぎじゃねーか?」


 敵意の中にあった殺意と言う過剰な言葉に反応し、頭を掻くと……、


「クリーンアップキャンペーン」


 クロは真剣な口調でとある単語を口にした。


 ――!


 『クリーンアップキャンペーン』とは、プレイヤー主催のとあるイベントの名称だった。


「クリーンアップキャンペーン?」


 聞き慣れない言葉にヒナタたちが首を傾げる。


「『クリーンアップキャンペーン』はプレイヤーが主催するイベントの一つにゃ」

「どんなイベントなの?」

「すべてのプレイヤーがIGOを楽しめることを目的に、トップランカーのプレイヤー同士たちが企画した――PKを掃討するイベントにゃ」


 IGOは各国にサーバーを作っている。


 俺がプレイしているのは、当然日本サーバーだ。


 PKを主体としたオンラインゲームならともかく、そうでないゲームの場合、日本人は合意なき突然のPK――野良PKを忌避する傾向が強かった。


 事実、PKが嫌いだから……と言う理由だけで第五一階層へ進むことを拒絶しているプレイヤーも、今の階層には多く存在したし、PKをする連中は『運営が許可した仕様。自分たちは何も悪くない』と、口を揃えて言うが……PKが原因で引退したプレイヤーは少なからず存在した。


 『クリーンアップキャンペーン』を最初に始めたのは――【天下布武】だった。


 最初のきっかけは復讐だった。


 旅団メンバーがPKされたから……PKを仕返した。


 そんな他愛もない理由で始まったPKK(PKの仕返し)だったが、いつしか旅団メンバーのフレンドや友好旅団からの依頼などもあり、PKKを続けた結果……いつの間にか、『IGOのプレイ環境を良くしよう!』を旗印に多くのトップランカーが集まり、定期的に開催される『クリーンアップキャンペーン』へと発展した。


 PKしたらPK仕返される――『クリーンアップキャンペーン』が功を奏し、PKの抑制に繋がったのだが……大量の経験値、確実なレアドロップの強奪……何よりも対人と言う最高のスリルを求めて、PKを撲滅するまでには至らなかった。


「あ! 『天下布武ちゃんねる』で見たことある! 大迫力だし、スッとするし、最高のイベントだよね!」


 メイが前のめりに喋る。


「メイねぇも知ってのとおり、各有力旅団が配信する動画の中でも人気のコンテンツでもある『クリーンアップキャンペーン』を初めて企画したのは【天下布武】にゃ」

「え? そうなんだ! リク凄いね!!」

「『クリーンアップキャンペーン』までの規模になると、最初に始めたのが、うちなのかは疑問だけどな」

「とりあえず、『クリーンアップキャンペーン』の効果でPKの数は激減したけど……0にはなってないにゃ。むしろ、『クリーンアップキャンペーン』に対抗するために、名だたるPKが徒党を組んでPK旅団を設立したにゃ」

「どこの世界でも悪い人はいるのですね」

「そうにゃ。奴らはゴキブリ並にしぶといにゃ。で、そのPK旅団が殺したいほどに憎んでいる――殺意を抱いているプレイヤーが【天下布武】のソラにゃ」

「なるほど……あの連中なら俺に殺意を抱いていても不思議じゃないな」


 俺はクロの言葉に納得する。


「でも、ソラは強いにゃ! 殺したいほどに憎いけど、実現するのは不可能に近いにゃ」


 クロの言葉に熱がこもる。


「え? クロのメインってPKじゃないよな?」

「――! 失礼な! 違います!!」


 クロは素の口調に戻り、否定する。


「そうか……すまん」

「にゃにゃ……ボクとしたことが熱くなってしまったにゃ」

「とりあえず、話を戻すと……クロは俺が正体を明かすとPKの連中に狙われるから、正体を明かすことに反対、と」

「端的に言うと、そうなるにゃ」

「なるほど、一理あるな。正体を明かすのはやめよう」


 俺一人なら、襲われても逃げれる自信はあるが……仲間たちまでは守れない。


 レベルと装備品のランクが大幅に下がって、風属性になった俺は――奴らからすれば、格好の餌食だろう。


 大々的に、リクが俺は《ソラ》だと知れ渡れば、【天下布武】のメンバーと合流する前に、待ち伏せされてPKされる可能性もある。


 俺は引き続き正体を隠すことにした。


「それが賢明にゃ」

「そうだ。クロ、一つ質問いいか?」

「何にゃ?」

「クロのメインキャラクターって俺の知ってるプレイヤー?」

「んー、知ってると思うけど、ボクのメインキャラクターはソラとフレンドじゃないにゃ」

「知ってるけど、フレンドじゃないってことは……有名プレイヤーってことか?」

「にゃはは、『炎帝のソラ』様と比べたら、ただのモブにゃ」

「ただのモブねぇ……。ちなみに、メインキャラクターの名前を教えるつもりは?」


 俺は思い切って踏み込んだ。


「んー……ボクは今のの関係性が気に入ってるにゃ」

「メインキャラクターを知ったらその関係性が崩れると?」

「今日は珍しく踏み込んでくるにゃ」

「流石に色々と気になるからな」

「んー、崩れる可能性はあるにゃ……。でも、コレだけは誓えるにゃ! ボクはPKではないにゃ!」

「なるほど……第五一階層に到達したら教えてくれるのか?」

「教えるというか……バレると思うにゃ」

「なるほど。第五一階層に到達する楽しみが一つ増えたと思えばいいか」

「にゃはは。それがいいにゃ。そろそろ時間にゃ! 祝勝会に向かうにゃ!」


 これ以上問い詰めても意味はないだろう。俺たちは祝勝会の会場へと向かうのであった。

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