情報収集と再会

「え? ちょ、ちょっと待て……。え、えっと……クロがあのれいけ……じゃなくてスノーホワイト!?」

「……はい。お恥ずかしながら、私がソラさん曰く『冷血メガネ』ことスノーホワイトです」


 慌てふためく俺にクロが冷静に答える。


「え? だって……メガネかけてないじゃん!」

「アレは、アクセサリーです」


 この世界に入れば視力は回復する。視力矯正器具としてのメガネは不要だ。


「俺の知ってるスノーホワイトは、ボクっ娘じゃないし、にゃーにゃー言うプレイヤーじゃなかったぞ!?」

「セカンドキャラで心機一転始めるために、キャラ作りをするのは大して珍しくはないかと?」


 ふむ……この冷めた視線……スノーホワイトに間違いないな。


「えー! クロちゃんは今までうちらを欺いていたの!?」

「えっ? そ、それは違います! クロも間違いなく私です! 決して騙していたとかではなく……え、えっとクロとして歩んだ人生も私の大切な人生です!」


 おぉ……あのスノーホワイトが狼狽している。俺に対しては強気だが、メイたちには引け目を感じているようだ。


「えっと、とりあえず整理しようか。クロはスノーホワイトなんだな」

「はい。証明しろ……と言われても難しいですが……」

「なるほど……。ってことは、【黄昏】は今スノーホワイトが不在なのか!?」

「そうなりますね」

「うわ……団長が不在の【天下布武うち】も人のことは言えないが……【黄昏】はもっとヤバいんじゃないか?」

「否定したいですが……先程の宣戦布告を見ると、否定は出来ませんね……」


 俺の言葉にクロは力なく下を向く。


 【天下布武】は俺が不在でも、マイがなんとかするだろう。マイが力不足でも、ツルギやメグたちが力を貸すはずだ。


 つまり、俺の代わりはどうにでもなる。


 しかし――【黄昏】にはスノーホワイトの代わりが務まる人材がいるとは到底思えなかった。


「えっと、とりあえず……クロはスノーホワイトで……クロは【天下布武】と【黄昏】との戦争を止めたい。それでいいか? ってか、今後もクロって呼んだほうがいいか? それとも、スノーホワイトって呼んだほうがいいか?」

「クロでお願いします。私もソラさんからスノーホワイトと連呼されると、変な感じです」

「だったら、クロも俺のことをリク……じゃなくて、リクにぃと今まで通り呼んでくれ」

「ゔ……わ、わかりました……にゃ」


 俺が意地悪く笑みを浮かべると、クロは恥ずかしそうに下を向くのであった。


「さてと、戦争を止めるにしても……まずは原因から調べる必要があるな」

「そうですね」

「うぅ……うちは前のクロちゃんの口調の方が好きだよぉ……」

「なんか、クロちゃんが急に大人になったみたいで寂しいですね……」

「ハッハッハッ! 私は構いませぬぞ!」

「あはは……。善処する……にゃ」

「クロのキャラ問題は後にして、今は手分けして情報収集をするぞ」

「「「おー!」」」


 久しぶりの我が家であったが、落ち着く間もなく王都へと繰り出したのであった。



  ◆



 王都で情報収集すること3時間。


 【天下布武】と【黄昏】の抗争は思ったより有名な話なのか、様々な情報がすんなりと集まった。


 んー……これは、クロの手腕に期待だな。


 話を聞く限り、【天下布武】のメンバー――特にツルギあたりが熱くなってるっぽいが、ヒートアップしているのは【黄昏】側だった。


 クロ――スノーホワイトなら収められると思うが……【黒天】のクズどもまで絡んでいるのが気になるな。


 一度家に戻って、話し合いだな。


 ある程度の状況を掴めた俺は家に戻ることにした。


 家の前に戻り、ドアを開けると……、


「――! あるじ様! 主様!」


 狐耳を生やした銀髪の幼女が抱き着いてきた。


「ッ! ……ってて。リンネ、久し振りだな」

「主様! ……主様?」

「少し見た目は変わったが、俺だよ」

「大丈夫! 魂の匂いが一緒なのです!」

「魂の匂いね……。ははっ。ただいま」

「おかえりなさいです! そして――正座なのですっ!!」

「え?」

「リンネは……リンネは……寂しくて毎日泣いていましたです」

「お、おう……すまなかった」

「リンネは主様に捨てられたのです」

「いや、捨てては……」

「正座なのですっ!!」

「……はい」


 技術の進化は素晴らしい。進化した人工知能は人と変わらないほどに感情を表現し、主人であるはずの俺を説教するまでに成長する。


 俺は銀髪の幼女――従魔リンネの言葉に従い正座した。すると、リンネはころんと頭を俺の膝に乗せて寝転がり、


「罰なのです」


 使い込まれたブラシを手渡してきた。


「はいはい」


 俺は渡されたブラシでリンネの綺麗な銀髪を梳かす。


「元気だったか? 飯は大丈夫だったか?」

「マイとメグがお世話してくれたです」

「そうか。あの二人に後でお礼を伝えなきゃな」

「リンネは本当に寂しかったのです」

「……悪かったな」

「本当に! 本当に! 寂しかったのです!」

「……ごめんな」

「罰として今日から毎日ブラッシングするのです!」

「はいはい」

「あと、一緒に散歩も行くのです!」

「あいよ」

「ご飯も一緒に食べるのです!」

「了解」

「……もう、離れるのはダメなのです」

「わかった」


 俺は泣き顔を浮かべるリンネの髪を優しく梳かし続けた。


「たっだいまー! って!?」

「リ、リ、リ、リクさん!?」

「戻りましたぞ! ――! な!? リ、リク殿の膝枕……だと!?」

「戻りました」


 続けざまに帰ってきたメイたちは、正座をしながらリンネの髪を梳かす俺を見て驚くのであった。

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