今後の対策
傍から見れば、(感動の再会から)涙目で膝枕している
ふむ……キツネ形態であったなら、見た目的に問題は無かったのだが……これは変なレッテルが貼られる可能性があるのか?
焦ると余計に怪しい。ここは冷静に対応するべきだろう。
「おかえり」
俺は極めて紳士的なトーンで帰宅した仲間たちに挨拶する。
「え、えっと……た、ただいま……」
メイは、後ずさりする。
その視線は見覚えがある。多くのプレイヤーがマックスに向ける視線だ。
なるほど……。
「えっと、まずは落ち着こうか。ほら、リンネ。俺の新しいフレンドだ。挨拶しなさい」
「――! は、はいなのです!」
リンネはモフモフのキツネ耳をピーンと立てて、立ち上がる。
「いつも、パパンがお世話になっていますです! リンネはリンネなのですよ!」
「パ、パ、パ……パパンですと!? ど、ど、ど、どいうことですかな!? む? むむ? つまり、その娘はハクの姉……!?」
――!
な、何だと……!?
「おい、リンネ……何だ、その呼び方は?」
「えっと、ミントが初対面の方と挨拶するときに、主様のことをパパンと呼ぶと、主様は喜ぶと言っていたのです! 主様、嬉しいのです? ――! あ! この事はナイショなのです! 秘密にしてくれると嬉しいのです!」
「なるほど……」
ミントとは再会したときにじっくりと話し合う必要があるようだ。
「えっと、メイたちも存在は知ってるよな? こいつはリンネ。俺の従魔だ」
「はいなのです! 主様の従魔――天狐のリンネなのです!」
最初からそう自己紹介しろよ……。
さて、誤解は解けたかな?
メイたちの様子を見ると、ぷるぷると震えている。
「――! リ、リンネちゃんだ!! うわっ! すっごい! お姉ちゃん! 生リンネちゃんだよ!」
「カワイイですね。あの……私も少し撫でていいですか?」
メイとヒナタはリンネに会えたことに感動を覚えていただけのようだ。
「お断りなのです! リンネは誰にでもなびく甘い女じゃないのですよ!」
「うぅ……モフモフしたいです……」
リンネは賢い従魔だったが……俺が留守の間に変なことを吹き込まれているな。
知らないプレイヤーに触られるのは以前から拒絶していたが、断り文句に聞き覚えがまったくない。
「ってか、リンネはなんで家にいるんだ?」
「主様の気配がしたので、飛んできたのですよ!」
「普段は……旅団ハウスにいたんだよな?」
「はいなのです! ここだとご飯がないのです」
「マイたちも俺が来たことを知ってるのか?」
「多分知らないのです! マイたちは最近忙しそうなのです」
リンネだけがシステム的な何かで俺の到達を察知したということか。
「俺は今からメイたち……ここにいる新しいフレンドと話し合いをするから、リンネは少し大人しく待っててくれ」
「はいなのです」
「とりあえず、全員椅子に掛けてくれ。集めた情報を共有しようか」
メイたちに椅子を勧め、俺自身も椅子に座るとリンネはちょこんと膝の上に乗る。
「まずは、俺の集めた情報だが――」
メイたちと情報共有を行った。
情報を共有してわかったことは以下の内容だ。
●攻略の進捗は【天下布武】が頭一つ抜けている
●そのことから【天下布武】に所属するプレイヤーの装備品は他のプレイヤーよりも優れている。
●その事が原因で一部のプレイヤーが【天下布武】に嫉妬している
●特に【黄昏】は【天下布武】への嫉妬――敵対心を隠すことなく、前回の緊急クエストでは表立って言い争いが起きた。
●【黄昏】は【天下布武】に不満を抱くプレイヤーを集め、宣戦布告することを宣誓した。
●その理由は、次回の緊急クエストの主導権を握ることが主たる目的と噂されている。
●昨日、王都で流れる噂によれば【天下布武】は宣戦布告を受けることを決意したようだ。
以上が宣戦布告に至ったおおまかな情報だ。
他にも、気になる情報としては、
●一の付く階層を初めて踏破したプレイヤーは運営から、特別な情報を聞くことが出来る。
●初めて第七一階層を踏破したのは【天下布武】の幹部メンバー。
●そのとき得た情報が、現実世界の俺たちの状況。運営の言葉を信じるなら、政府が手厚く看護しているらしい。
●今回の遮断――アップデートを機に新たにレベルキャップが解放。現在最高レベルのプレイヤーは【天下布武】の幹部たちで、レベルは102。
●前回の緊急クエストで【黄昏】から3名の消滅者が出た。
●【黄昏】に賛同している旅団の中には、PK旅団として最大手の【黒天】が含まれているらしい。
●後は、関係の話として、俺――ソラと、クロ――スノーホワイトの情報がガセネタ含めて多く流布されていた。
「さてと、集めた情報はこんな感じだが……どうする?」
俺は仲間たち……というより、クロを見て言葉を投げかける。
「んー、クロちゃんには悪いけど……【黄昏】の団長さんはちょっとあり得ないよね?」
「聞いた話によると、戦争のきっかけは嫉妬ですよね?」
「しかし、プレイヤーの話を聞いていると【黄昏】に賛同するプレイヤーも多かったですな」
「こういう世界――オンラインゲームだったら、他人に対しての嫉妬心は、よくある感情だからな」
「返す言葉もありません……」
メイとヒナタの言葉を受けて、クロが申し訳なさそうに下を向く。
「それで、クロ――いや、スノーホワイト。ゼノンは止められるのか?」
「ソラさんが【天下布武】を止めてくれるなら、私は必ずゼノンを――【黄昏】の暴走を止めてみせます!」
「その言葉を――クロを信じて、まずは【天下布武】から説得するか」
先に【天下布武】を取り込めば、クロも【黄昏】を説得しやすくなるだろう。
俺たちは【天下布武】の旅団ハウスへと向かうのであった。
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