不審者

「第五一階層に来たばっかりなのにバタバタだね」


 【天下布武】の旅団ホームに向かう傍らメイが苦笑する。


「やるべきことが沢山あるのに申し訳ない」

「ごめんなのにゃ……」


 【天下布武】の仲間たちとは一秒でも早く再会したい気持ちはあったが、再会を果たせば自由な時間がなくなってしまう。


 【天下布武】の仲間たちは大切な存在だが、俺の中で同様にかけがえのない存在となったメイたちのことを考慮するならば、クラスアップと装備を新調してから再会するのが良いだろうと、当初は考えていた。


「仕方ないですよ。今回の件は、リクさんとクロちゃんにとって一大事ですからね」

「然り。私は主であるリク殿に付き従うのみですな」


 俺とクロはメイたちに謝罪と感謝の気持ちを抱きながら、旅団ホームへと向かった。


 久し振りの旅団ホームへ到着すると、入口の前にはNPCの門番が二人立っていた。


 この世界IGOではNPCを雇い入れることが可能だ。最も多く雇用されているNPCはパーティーメンバーを補充するための戦闘要員――傭兵だが、戦闘以外でも家の掃除をさせたり、店番を任せたり、と様々な用途で雇用することが可能だ。


 当然、然るべきお金を払って依頼すれば門番をお願いすることも可能なのだが……、


「これは少し面倒なことになりそうにゃ」

「NPCといえど、人間プレイヤーと変わらないくらいに柔軟性はあるが……依頼となると、融通が利かないからな」


 【天下布武】は普段門番用のNPCを雇用していない。


 しかし、今は二人の門番が立っている。


 それの意味することは――


「何用だ? 幹部プレイヤーの承諾が降りていないプレイヤーはお引取り願おう」


 門前払いだ。


 戦争や、緊急クエストの主導権争いが始まるとスパイを送り込むのはよくある話だった。中にはスパイ活動の為だけに、セカンドキャラを育成していたプレイヤーも存在する。


「マイに取り次いで欲しい」

「現在、承諾が降りていないプレイヤーからの取り次ぎは認められていない」

「えっと……俺の『魂の血族』は団長のソラだ。それなら、問題ないだろう? 急ぎ取り次いでくれ」


 『魂の血族』とは、同一アカウントの別キャラ――簡単に言えばセカンドキャラだ。


「ハッ! これは異な事を! 【天下布武】の団長はマイ様だ」

「へ?」

「え?」

「にゃ?」

「リク、リストラされたの?」

「むむ……私はたとえ何があっても付いていきますぞ!」


 情報収集をしているときに、まるでマイが団長のようにみんな話していたが……比喩じゃなく本当に団長だったのか……。


 俺は知らない間に罷免されていたようだ。


 まぁ……遮断時にログインしていなかったら、戻ってこれないから罷免するのは当然か。


「えっと……俺の『魂の血族』は元団長のソラだ。それでも、無理なのか?」

「「はっはっはっ!」」


 俺は言葉を改め、再度取り次ぎを依頼するが……二人の門番は何がおかしいのか、大声で笑い出す。


「え? なんかこの人たち感じ悪くない?」

「失礼な人たちですね」

「クッ……リク殿に対して、何たる無礼な態度!」


 門番の態度にメイたち不快感を露わにする。


「はっはっはっ! すまぬな! しかし、知っておるか? ここを訪れたがお前たちで何人目なのか?」

「は?」

「ここ3日間で元団長であるソラ様を自称した輩は、お前たちで8人目だ! それ以前からになると、何人いたのか……数える気にもならぬわ! お前たちのような輩が現れるたびに、どれほどマイ様たちが心を痛めたか……帰れ! 帰れ! そして、二度とこのようなことをするでないぞ!」


 どうやら、俺の名前を騙った偽物が増殖していたようだ。


 門番を置いた経緯には、そのような事情も含まれていたのかも知れない。


「リク、あの指輪出せば?」


 メイが小声で話しかけてくる。


 メイの言う指輪とは――『シルフィードの祝福』のことだろう。


「んー……どうだろうな?」


 『シルフィードの祝福』は俺がソラであるときに最後に獲得したアイテムだ。中層以下では珍しいアイテムだが、俺のアイデンティティーを示すアイテムではない。


 あいつらもこの指輪はチラッとしか見てないからな……証明になるのか?


 とりあえず見せてみるか……と決意すると、


「通すのです! 主様は主様なのです!! リンネが証明するのです!」


 小狐モードとなり俺の肩の上に乗っていた、リンネが人化し門番を一喝する。


「リンネか。 リンネは確かにソラ様の従魔と聞いている。但し、我々が依頼された内容は幹部プレイヤーの承諾が降りていないプレイヤーを通さないことだ。リンネは従魔であってプレイヤーではない。よって、リンネによる承諾は無効だ」


 相変わらず依頼を受けたNPCは融通が利かない。俺の従魔が俺と認めたのなら……せめて確認を入れるべきだろう。


 とは言え、道は見えた。


「リンネは入れるんだよな?」

「リンネの出入りは許可されている」

「なら、リンネ。入って、誰か呼んできて」

「はいなのです!」


 リンネはベーと門番に舌を出すと、颯爽と旅団ホームの中へと消えていった。


 門番からの厳しい視線に耐えながら待つこと10分。


「リンネちゃん戻ってこないね」

「幹部メンバー全員出払ってる可能性もあるのか?」


 なかなか戻って来ないリンネにやきもきしていると、


「ソラさん! 本当にソラさんなのですか!!」

「おっす! ただいま!」


 俺はマイを先頭に姿を現した幹部メンバー全員に手を挙げて軽く挨拶するのであった。

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