第二〇階層攻略へ②

 第二〇階層の攻略はサクサクと進んでいた。


「何かサクサク進むと言うか……物足りないと言うか……」

「ここの攻略は2回目だし、装備品も前回よりもかなりパワーアップしているからな」

「レベルは一緒でも熟練度が緊急クエストでいっぱい成長したにゃ」

「緊急クエストの絶え間ない戦闘の日々と比べると、物足りなく感じてるのかもですね」

「メイ殿はまだマシですぞ。私とヒナタ殿は本来の仕事がほとんど出来ていないのですぞ」


 メイがふと溢した独り言に仲間たちが総出で答える。


「そういえば、この階層のボスってどんな奴なの?」

「第二〇階層の主は……吸血鬼ヴァンパイアだな」

「吸血鬼!? 強いの?」

「弱点は幾つもあるが、立ち回りが巧妙で隙も少なくてかなり強いが……」


 俺はクロに視線を送り……


「「アホだな(にゃ)」」


 言葉をシンクロさせる。


「え? アホなの?」

「アホだな。強いけど」

「手強い相手だけど、アホだにゃ」

「逆にどんな相手なのか興味が湧いてきたよ!」


 俺とクロの話を聞いてメイが目を輝かせる。


「遮断される前だったらネタバレ要素になるから……実際に……と言っていただろうが、ネタバレしていいか?」

「んー……どうしようかなぁ……でも、知っておいた方が危険は減るよね?」

「それは間違いないな」

「じゃあ、聞こうかな」


 メイは少し悩んだが、ネタバレを聞くことを選択した。


「それなら、腹も減ったしここいらで休憩がてら説明するか」


 俺たちは基地を取り出して休憩することにした。


「吸血鬼は巧みな剣術と強力な魔法を使用する強敵だ」

「剣術と言っても刺突剣にゃ。後、ピンチになると霧と化して逃げるにゃ」

「十字架とかニンニクに弱かったりするの?」

「この世界にニンニクがあるのかは謎だが……炎属性、水属性、光属性には弱いな」

「ふーん……なるほど」

「立ち回りは完璧だが……この階層の吸血鬼には致命的な弱点があるんだよ」

「アホってこと?」

「正確に言えば、お喋り好きだな」

「ん? どういうこと?」


 俺の言葉にメイは首を傾げる。


「戦闘中なのに、長い能書きを垂れるんだよ」

「その間は攻撃のチャンスにゃ!」

「え? 吸血鬼が話している隙に攻撃するってこと?」

「簡潔に言えば、そうなるな」

「フルボッコにゃ!」

「何か……その吸血鬼さんが可愛そうに思えますね」

「騎士であれば堂々と立ち会うべきだとも思いますが……」


 楽しそうに話す俺とクロとは対象的に、ヒナタとヒロアキは少し不満を露わにする。


「吸血鬼と俺たちの関係性は――命の奪い合いをする敵対関係だ。ならば、戦闘中に隙をみせる方が愚かだろ?」

「後、この階層の吸血鬼はそのアホさ加減――隙を含めて、強さを調整されていると思うにゃ」

「そうなのですね……」

「むむ……しかし騎士道精神に反する行為は……」


 ヒロアキは騎士のロールプレイにハマっていると言うか……元来真面目な性格なのだろう。不満が残っているようだ。


「ヒロ、騎士道精神と言うが、騎士の――ヒロの役割は何だ?」

「皆様を……何よりリク殿を守る盾となることです」

「ヒロの言う騎士道精神を貫いた結果、仲間が危険に晒されるのはいいのか?」

「むむ……!? それは困りますな!」

「優先すべきは仲間の命。そうだろ?」

「仰るとおりです」


 俺はゆっくりとヒロアキを説得する。


「ヒロの高潔な信念は素晴らしいと思うが、優先順位だけは明確にしてくれ」

「畏まりました。不肖ヒロアキ……まだまだ未熟者でした。今後もより一層精進し仲間の為に粉骨砕身励みます!」

「何度も言うが、俺たちは対等な仲間だ。これからもよろしくな!」

「リク殿の金言、胸に刻みました!」


 ヒロアキは胸を叩き、笑顔を見せた。


「ついでにもう一つネタバレするなら……この階層の吸血鬼は後の罠に繋がる伏線にゃ」

「伏線? クロちゃん、どういうことですか?」


 休憩中の雑談として、クロがかなり先の展開を話し始めるようだ。


「第五〇階層の主も吸血鬼――正確には吸血鬼王ヴァンパイアキングにゃ」

「吸血鬼王ですか?」

「そうにゃ。その吸血鬼王もこの階層の吸血鬼と同じく長々と能書きを垂れるにゃ」

「吸血鬼はみんなアホなの?」


 クロの言葉にメイは楽しそうに笑う。


「初見のプレイヤーは皆メイねぇと同じ感想を抱いたにゃ。その心理こそが罠なのにゃ!」

「え? どういうことなの?」

「吸血鬼王は喋ってる途中に攻撃されるとめっちゃキレるにゃ!」

「まぁ、普通は怒りますよね」

「怒るだけならここの吸血鬼も一緒だけど、吸血鬼王は物理的にパワーアップするにゃ!」

「ついでに反則級の強さを誇るデュラハンも召喚するな」

「え? どういうことなの?」


 メイが前のめりに食らいつく。


「第五〇階層の吸血鬼王が能書きを垂れてる間は攻撃禁止なんだよ」

「最初はその法則に気付かなくて、多くのプレイヤーがデスペナを食らったにゃ」

「懐かしいな……俺もブチ切れた吸血鬼王に3回は殺されたな……」

「え? ちょっと待って……リクが殺されたってことは……『炎帝のソラ』様が殺されたってこと!?」

「俺は呼び捨てなのに、ソラは様付けかよ……。まぁ、そういうことになるな」


 圧倒的な強さを誇る吸血鬼王に三度敗北し、四度目は攻撃パターンを研究しよう、と攻撃を控えたら何故か弱体化して勝てたというのは懐かしい思い出だ。


「話は戻るが、この階層の吸血鬼は攻撃パターンが豊富で、隙も能書きを垂れている時くらいしかないから、今までの階層主の様な勝ち方をするのは厳しい。こちらも正攻法で持てる力を全て発揮したら勝てるタイプの敵だな」

「この階層を超えられなくて心が折られたプレイヤーも多いにゃ」

「今までの階層主だったらレベルを上げて物理的に倒す! と言う方法も取れたが、レベルキャップのせいでその方法も無理だからな」

「それなら、リクさんもメイもプレイヤースキルは高いので……私たちには相性の良い敵と言うことになります?」

「相性が良い……とまでは言わないが、心が折れる心配はないかな」

「ガチンコの勝負だね!」


 多くのプレイヤーの心を折った吸血鬼を前にして――仲間たちは自信に満ち溢れていたのであった。

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