第五一階層

「うわぁ……! 凄い数の人だね!」


 第五一階層に存在するタウン『王都オリジンベル』――通称『王都』。


 ファンタジー世界のテンプレートのような中世ヨーロッパをモチーフとした綺麗な街並みの中を、たくさんのプレイヤーが行き来していた。


「王都はこの世界で一番賑わっているタウンだからな」

「懐かしいにゃ……やっと帰ってこれたにゃ……」


 俺は目を輝かせて王都の街並みを眺めるメイを見て微笑み、クロは懐かしい街並みを全身で受け止め感慨にふけていた。


「気の所為でしょうか? 何かプレイヤーのみなさん慌ただしくないですか?」

「ふむ。ここからは上層のはずですが、リク殿やクロ殿のような余裕が見えませぬな」

「全員が全員……俺とかクロみたいなプレイヤーじゃないからな」

「にゃはは。と言うか、リクにぃは上層の中でも特別な存在にゃ」


 とは、答えたものの……ヒナタやヒロアキの言うとおり、プレイヤーの様子がどこかおかしい。


「緊急クエストが近いとか? えっと……前回の緊急クエストから……」

「63日目なので、次の緊急クエストは27日後ですね」


 指折り数えるメイにヒナタがさらっと答える。


「んー……27日前ならそこまで慌てないと思うな」

「主導権争いがあったとしても、早くて21日前にゃ」


 この世界の21日は現実世界の7日。つまり、遮断される前だった頃は一週間前あたりから緊急クエストを意識し、各有力旅団が駆け引きを始めていた。


「遮断される前とは感覚が違うから、こっちの世界で7日前くらいからでも十分間に合うだろ」

「んー、ボクもそう思うけど……何かあったのかにゃ?」

「どうなんだろうな? 王都にいるプレイヤーなら緊急クエストは慣れたもんだとは思うけどな」

「事情を知らないボクたちが話し合っていても推測の域は出ないにゃ。情報収集は後からにして、リクにぃの家でお茶を飲むにゃ」


 不毛な会話とまでは言わないが、クロの言うとおり俺たちがアレコレ話していても推測の域を出ることはない。


「だな。クロとはひょっとしたら……しばらく会えなくなるかもしれないからな」

「えー……クロちゃんと会えなくなるのは、やっぱり寂しいよー」

「にゃはは……一緒に冒険に行くのは厳しくなるかもだけど……会うだけなら絶対にできるにゃ! と言うか、ボクも時間を作るにゃ!」

「絶対だよ! 約束だからね!」

「了解にゃ!」


 【天下布武】のメンバーと早く再会したい気持ちはあるが、今はここまで共に過ごした仲間を優先し、俺の家へと向かうことにした。


「リクの家ってこの階層なんだ」

「王都は色々と都合がいいからな」

「王都は一番人気のタウンにゃ。王都の土地は下手な現実世界の土地よりも高いにゃ」

「え? そうなの!?」

「RMTオークションに出せば数千万円で売れるにゃ」


 RMT――正式名称RealMoneyTrade。ゲーム内通貨及びアイテムを現実世界のお金で買い取る行為だ。


 IGOは当初RMTを解禁していなかったが、相次ぐ不正RMTサイトが蔓延った結果、運営が公式に取り纏めることになったのだ。


「うわっ……凄っ!」

「人によっては現実世界よりも、こっちの世界に入り浸っていたからな」


 俺自身も遮断される前から、現実世界よりこっちの世界に滞在している時間のほうが遥かに長かったものだ。


「リクは大金持ちなんだねー」

「土地を売ればな。売る気は一切ないけどな」

「まぁ、うちもRMTは嫌いだけどね」

「そういえば、クロちゃんの家は何階層なのですか?」

「にゃ? ボクの家もこの階層にゃ」

「わわっ! クロちゃんも大金持ちじゃん!」

「にゃはは……リクにぃと同じく手放す気はないにゃ」

「この階層に家があるってことは……クロは初期組か? そろそろ正体を教えてくれてもいいんじゃないか?」


 俺は苦笑するクロに言葉を投げかける。


「んー、いずれバレると思うから……リクにぃの家に着いたら教えてあげるにゃ」

「お! やっと、観念したか」

「にゃはは……でも、これだけは信じて欲しいにゃ。最初は打算的に近付いたけど、今は本当にリクにぃも、メイねぇも、ヒナねぇも、ヒロにぃも大切な家族のような存在に感じてるにゃ」

「わーっ! 嬉しいこと言うね! うちもクロちゃん大好きだよ!」


 照れ笑いを浮かべるクロにメイが飛びかかるのであった。


 その後も雑談しながら、家へと向かっていると……


「そういえば、今後の予定はどうするのですか?」

「んー、まずは緊急クエストに備え、最上級職になって……スキルの確認だな。後は、3人が嫌じゃなかったら、俺の倉庫に眠ってるアイテムを渡すよ」

「あ! ボクの倉庫にもメイねぇたちが使えそうなアイテムがあると思うから進呈するにゃ!」

「わわっ! いいの!?」

「どうせ、埃を被ってるアイテムだからな」

「捨てるには勿体ないけど、使うには微妙なアイテムにゃ」

「わぁ! めっちゃ楽しみ!」

「リクさん、クロちゃん、ありがとうございます!」

「リク殿、クロ殿、感謝いたす」

「っと、そろそろ居住区だな。俺の家は――」


 居住区に入り、家へと案内しようとした瞬間……クロが青ざめた顔で足を止めた。


「ん? クロ……――!?」


 どうした……と聞こうとしたが、青ざめたクロの視線の先――居住区の掲示板に貼られた紙を見て、俺も動揺した。


『【天下布武】に告ぐ。

 これ以上、お前たちの風下に立つ気はない。次回の緊急クエストの指令権を賭け、【黄昏】は傲慢なる【天下布武】へと宣戦布告することをここに宣言する。俺たちは奇襲を仕掛けるみたいな野暮な真似はしない。平等を期するために、宣戦布告は7日後に行う。この世界の主役を称する傲慢な【天下布武】であれば逃げることなく、受けてくれるだろう』


 掲示板に貼られた紙には【黄昏】から【天下布武】に対しての宣戦布告が記されていたのであった。



―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂き、ありがとうございます!


という訳で、いよいよ新章スタートです!

時系列的には、前話(不和)の三日後となります。


どのような物語になるのか……是非、ご期待下さいませ!(私もまだ決めていません……ぉぃ)


別件ですが、明後日(6/9)より私の代表作品ダンジョンバトルロワイヤルの最新話を投稿します! 既存の読者様も、まだ読んだことのない読者様も……読んでくれると嬉しいです!

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