基地の購入
換金を終えた俺たちは基地――荷台を買うべく、木工屋を訪れた。
「っらしゃい! 本日は何をお探しで!」
木工屋に入ると、いかにも職人気質なおっさんが声を掛けてきた。
ほぉ……。第一階層の木工屋は初めて訪れたが、職人にしては接客態度が優秀だな。
俺の知る上層階の職人と呼ばれるほとんどのNPCは、接客のせの字も知らないキャラクターだった。
「荷台を探している」
「荷台なら在庫はあそこにあるだけですぜ!」
俺は職人の指差した方角に視線を向ける。そこにはベーシックな荷台が3台並んでいた。
「馬はどうしますかい? こちらで用意は出来ませんが、紹介状なら書きますぜ!」
「馬は不要だ。少し見てもいいか」
「へい! 何かあれば言ってくだせえ!」
俺はヒナタとメイと共に、3台ある荷台を見ることにした。
一番安いので5,000G。しかし、この荷台は屋根もなく、カートの様な造りとなっているので、基地にはなり得ない。
真ん中の価格帯は8,000G。
一番高いのは12,000G。人を運ぶのを主目的としているのか背面だけが布で出来ており、残りは木材で覆われている。左右には窓と長椅子が備え付けられており、基地になり得る荷台だ。
「えっと……荷台を買う目的は"基地"なので、この荷台にします?」
「少し予算オーバーしちゃうけど、買えない金額じゃないね!」
ヒナタとメイは一番高い荷台を買うつもりのようだが……
「いや、コレは買わない」
俺は二人の意見を却下する。
「え? でも、他の荷台は基地として使うには……厳しくないですか?」
「うんうん! うちもそう思う!」
今から購入する基地はこれからの生活を支える基盤になる。安物買いの銭失い。二人は妥協することなく、真っ向から俺に反論する。
「落ち着け、残りの荷台も却下だ……と言うより、論外だな」
「え? それなら他の店に行きます?」
「でも、この店以外に木工屋ってあったっけ?」
俺の言葉にヒナタとメイが首を傾げる。
「タイヤとかスプリングの部分って意外に高いんだよ」
「……はい?」
「俺たちの目的とする用途は基地であって、荷台てはない」
「はい」
「つまり、オーダーメイドすればもう少し安くて居心地の良い基地が買えるんだよ」
「えぇー!? ズルい! そんなの最初に言わないと分からないよ!」
「それなら……タイヤとか不要じゃないですか? 当面は馬車として使用しないのですよね?」
俺の答えにメイは頬を膨らませ、ヒナタは別の疑問を投げかける。
「ぶっちゃけ不要だな。馬車として使いたくなったら、その時に改造すればいいからな。だが……」
「だが……?」
「タイヤが無いと、荷台として認められない。荷台として認識されないとアイテムインベントリーに収納出来ないんだよ」
何故か、タイヤが無いと小屋として認識され収納が不可能になる。こればっかりは、この世界の仕様としか説明が出来ない。
「変なの!」
「まぁ、この世界の仕様としか言えないな。ちなみに、荷台として認識されると街中で取り出すことが、不可能となる」
「そうなんですか!」
「故に、荷台は基地。“ハウス”の替わりにはなり得ない。この文言はネットからの受け売りだけどな」
「他にも裏ワザ的な仕様ってあるの?」
「裏ワザ的な仕様か……思い付いたら、その時に言うよ」
裏ワザ的な仕様と問われても、IGOにどっぷり浸かっていた俺の中では、それは裏ワザではなく常識だった。
「どんなのがあるのか楽しみですね!」
「うんうん。チートとかは論外だけど、システムの穴を突いたテクニックはうちは好きかな」
「裏ワザ云々は置いといて、オーダーメイドを注文しに行くか」
「はい!」
「うん!」
ヒナタとメイとの話を切り上げ、おっさんの元へと向かった。
「旦那のお眼鏡には適いましたか?」
「残念ながら、俺の欲しい荷台とは違うな」
「左様ですか。良かったら、オーダーメイドも可能ですぜ?」
「そうだな。オーダーメイドを頼ませて貰おうか」
「毎度! ちなみに、ご予算は如何ほどで?」
「予算は8,000Gだな」
「8,000Gのオーダーメイドだと、アレ以下になりますが、よろしいですかい?」
おっさんは店内に陳列されていた8,000Gの荷台に視線を移し、顔を曇らせる。
「材料を全て……と言う訳にはいかないが、この木材を使ってくれ」
俺はトレントからドロップした素材と、採伐で獲得した素材した提示する。
「ほぉ……材料は持ち込みですかい? お客様は通ですな」
「余った素材はそのまま寄贈する。その分、価格を勉強してくれると有り難い」
「へへっ……了解でさ」
「それで、こちらの要望する荷台だが――」
俺は荷台の大きさと仕様をこと細かくおっさんに伝える。
内装は椅子も何もないがらんどうなシンプルなデザイン。後方はロール式の布素材で開閉が可能となっており出入り口となる。前方と、左右には開閉可能な窓を設置してある。
大きさは横幅は1,820mm、縦幅は4,840mm、高さは1,710mm。イメージとしては、ワゴンタイプの自動車と同じ位の大きさだ。
これだけあれば、4人で足を伸ばして寝ることが可能となる。高さは少し物足りないが、あくまで荷台であるため、ここら辺が限界だ。
タイヤとスプリング周りは申し訳程度の最低品質の素材を指定した。
「旦那、これだと揺れが酷くてまともに乗れないですぜ? 物を運ぶにしても、壊れちまいますぜ」
「構わない」
「後、このサイズですと……馬なら最低二頭は必要となりますぜ?」
「構わない。それで、8,000Gで受注は可能か?」
「まぁ、素材もありますし……とは言え……そうだなぁ……8,800G! こちらの利益を考えるとここいらが限界ですぜ」
「8,800Gか……」
俺は共同出資者であるヒナタとメイに視線を送る。二人は、呆然としながらもコクリと首を縦に振った。
「商談成立だ。納期は?」
「そんなに難しい造りでもねーし……三日頂ければ」
「三日か。よろしく頼む」
俺は事前にヒナタとメイから預かっていた基地資金から8,800Gを取り出して、おっさんに渡す。
「毎度! 三日後にお待ちしておりますぜ!」
ホクホク顔のおっさんに見送られ、俺たちは木工屋を後にしたのであった。
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