情報

「凄い! リクって商談上手なのね!」

「リクさん凄いのですー! 予算を大きく下回る金額で基地を注文したのですよ!」


 木工屋から出ると、メイとヒナタが興奮気味に俺を称賛する。


「この世界のNPCって商談出来るんだね!」

「交渉出来るのはオーダーメイドのみだな。それも、ある程度の金額になれば折れることはない」


 匠と呼ばれるNPCだと、作ってくれ! と言う交渉から始まる。値下げ交渉をしようものなら、出禁コースだ。


「そういえば、この世界のNPCって私たちと変わらないですよね」

「高度な自律成長型のAIを採用している……と言うのが、謳い文句だったな」

「いずれ、私たちに反乱とか起こしてくるのかな? AIたちの反乱みたいな?」


 メイが楽しそうに冗談を口にする。


「AI――NPCたちの反乱か……。実際に起きたことはあるぞ?」

「え? あるの!?」

「個人レベルで言えば……好感度と言えばいいのか? 好感度が低すぎると襲われたりもするし、全体のレベルで言えば、とあるプレイヤーたちが買い占めによる露骨な価格操作をしたら、怒ったNPCたちが全プレイヤーに対してボイコットをした過去もある」

「うへ……怖っ」


 匿名掲示板を巣窟としているプレイヤーを中心に、以前のボイコットはある種のイベント――祭りのように騒いでいたが、遮断され閉じ込めれた今の立場では、過去のようにはいかないだろう。


 自律成長型のAIか。果たして、彼らは0と1の数値で構成された存在なのか……それとも俺たちと同じ存在なのか……。


 今後はNPCとの付き合い方も改める必要があるかもしれない。


「とりあえず、8,800Gと言うのは想定の範囲内だ」

「そうなの?」

「10,000Gじゃなかったです?」

「今のままだと、ただの箱だ。内装を整えて初めて基地になる」

「なるほど」

「内装ですか!」


 ヒナタは内装の飾り付けが好きなタイプなのか、表情がパッと輝く。


「最低限必要なモノは床に敷くカーペット。後は座椅子とか机、予算が許せば寝具を買うのもありだ。俺はセンスがないから、内装を整えるのはヒナタに任せてもいいか?」

「はい! お任せ下さい!」

「それじゃ、基地が完成するまでの三日間は自由行動にするか」

「自由行動って何をすればいいの?」


 俺の言葉にメイが首を傾げる。


「買い物したり、情報を収集したり……レベル上げなら付き合うぞ」

「んー……結局、今までと一緒?」

「まぁ、そうなるかもな。俺は今から情報収集をしてくる。何かあったら、連絡をしてくれ」


 俺は情報収集へと向かうのであった。



  ◆



 外部遮断され、IGOの世界に閉じ込められてから二十日目。


 俺は遮断され、変わり果てたこの世界の情報を収集することにした。


 人気の飲食店や冒険者ギルドで聞き耳を立て、興味深い話があれば、自然と会話の輪に入り、多くの情報を収集した。


 収集した情報は以下の通りとなる。


 ●デスペナルティは存在するのか?


 →する。


 遮断される前のデスペナルティのルールが適用されていると予測していたが、予測は当たっていたようだ。


 一度死んだプレイヤーはワンナウトの状態――ステータス半減の状態で神殿にて復活したようだ。また、デスペナルティは72時間後に解除された。


 ワンナウトのデスペナルティ中に死んだキャラクターはツーアウトの状態で神殿にて復活。また、デスペナルティは168時間後に解除された。


 そして、スリーアウトを迎えたプレイヤーは……その後神殿で待つも、現れなかった。そのプレイヤーが回れる範囲のフィールドを捜索したが、発見に至らず。ひょっとしたら、元の世界に戻れた可能性もあるが、俺たちが分かる確実な事実は――スリーアウトを迎えたプレイヤーはこの世界から消失すると言うことであった。


 余談であるが、観測出来る範囲内でスリーアウトを迎えたプレイヤーは一人だけ。そのプレイヤーは、ネタプレイの動画配信を売りにしていた風属性のプレイヤーだった。


 遮断される前から地雷プレイを行っており、更には不遇な風属性である為、誰ともパーティーを組めず……絶望の果てに三回の死を迎えたらしい。


 ●偽物タックの状況は?


 こちらは、想像以上に最悪な結果を迎えていた。


 偽物の創った旅団――『百花繚乱』は瞬く間に旅団の上限人数である1,000人に到達。今では下部組織まで存在し、はじまりの町を中心に大きな顔をしているようだ。


 プレイヤー同士のパーティーマッチング、旅団主体のパワーレベリング、(浅い)知識によるIGOの講義などもしており、プレイヤーの生活を助けている側面……狩場の占領、旅団費の徴収など悪い噂も聞こえてきた。


 また、プレイヤー名は『タック』であるが……本人の自称もあり、周囲のプレイヤーは『ソラ』と呼んでいるようだ。『タック』は『ソラ』のセカンドプレイヤーであることが、周知の事実となっていた。


 その他の噂話としては……


 外部遮断――プレイヤーはIGOの世界に閉じ込められた訳だがスリーアウト制の仕様もあり、即座に死なないことが判明したので多くのプレイヤーが町に閉じ籠もることなく冒険をしていることもわかった。


 外部遮断される以前と比べて大きく変化したことと言えば、プレイヤーの在り方だろうか。この世界がゲームではなく現実と化したため、人間関係はより複雑になった。その為、システムには縛られない政治のようなルールを持ち出すプレイヤーが増えたようだ。


 俺は旅団長をしていたから痛感している。


 人と人の関係は本当にメンドウくさい。


 三人集まれば派閥が生まれる。とはよく言ったモノだ。


 こんな低階層のツマラナイ政治ごっこに付き合うつもりは毛頭ない。


 さっさと、上を目指すか……。


 ある程度の情報を収集した頃、メイから狩りの誘いを受けたので……俺は情報収集を切り上げてメイと合流するのであった。

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