第九階層①

「リークー!」

「何だ?」


 メイとヒナタと共に一狩り終え、はじまりの町に戻ろうとしたその時、メイが俺の名前を呼んだ。


「ヒマ」

「は?」

「だから、ヒマだよ!」

「暇って、さっきミノタウロスを倒したばかりだろ?」


 メイの提案で先程わざわざ復活したミノタウロスを討伐してきたところだ。


 どのような強敵ではあれ、一回倒した経験があれば、二回目は難易度がガクッと下がる。今回はメイが中心となって立ち回ったが、特に苦戦することなく討伐は完了した。


「ほら、今までは生き急いでいたと言うか……目標に向かって突っ走ってたと言うか……充実した日々を送っていたでしょ?」


 当初はレベル10――クラスアップを目指して、狩りに励んだ。その後はミノタウロスを討伐する為に連携練習に励み、ミノタウロスを討伐後は基地を購入する為に、金策に励んだ。


 二度目の人生はエンジョイプレイで……と、考えていた時期もあったが、言われてみれば効率に比重を置いた行動だったかも知れない。


 まぁ、言い訳をするなら……外部遮断だ。


 今後の人生……そして生死が大きく左右される世界でエンジョイプレイなど、送れる訳がない。


「それがいきなり、三日間は自由行動! とか言われても……物足りないと言うか……寂しいと言うか……。ヒナもそう思うでしょ!」

「え? 私は基地の内装を整える為の買い物でも楽しいですよ?」

「はぁ……ヒナはわかってないね……このまま、ダラダラとしていたらリクに置いていかれちゃうよ?」

「え? え? り、リクさん……そうなんですか!?」


 したり顔で講釈を垂れるメイの意味不明な言葉に、ヒナタが狼狽する。


「何でだよ……。ヒナタに内装を頼んだのは俺だぞ?」

「で、ですよね!」

「ブー! ブー!」

「ブー、ブーってお前はブタか……」

「あ! いけないんだ! 年頃の乙女にブタとか、リクってデリカシーの欠片もないよね!」

「へいへい……俺が悪かった」

「ふふふ……分かればよろしい! で、何する?」

「何するって……そうだなぁ……」


 適当に返事をすると、メイは真剣な表情で悩み始める。


「――! そうだ!」


 メイは何かをひらめいたのか、ポンッと左手で作ったグーを開いた右手に打ち付ける。


「何か思い浮かんだのか?」

「ふっふっふ……リクには約束を守って貰おうか!」

「約束?」

「ミノタウロスの角を追ったら鎖鎌のレアドロップに付き合ってくれるって約束したよね!」


 ん? そんな約束したか?


 したような? してないような……?


「や・く・そ・く! したよね!」

「あ、あぁ……したな」


 俺はメイの威圧に気圧され、首を縦に振る。


「よし! それじゃ、今から行こうか!」

「今から?」

「うん! 今から! ヒナタも準備オッケー?」

「え? 私も?」

「いいの? うちとリクだけ強くなっても?」

「はわわ!? 行きます! 私も行きますー!」

「よし! それじゃ、第九階層目指して出発だ!」


 こうして、半ば強引に第九階層へと向かうことになったのであった。



  ◆



 壁に付着した光苔がほのかに照らすだけの薄暗く、細い道筋。第八階層を駆け抜けた俺たちは、全体が洞窟にて構成されている第九階層へと到着した。


「鎖鎌はどのモンスターがドロップするの?」

「シャドーシーカーってモンスターだな」


 シャドーシーカーは全長が120cm程の小柄なモンスターだ。シャドー――影の名を冠する通り、全身が闇と調和しており、闇に紛れて攻撃を仕掛けてくる厄介なモンスターだった。


「シャドーシーカー? どんなモンスターなの?」

「シャドーシーカーは、とにかく素早いモンスターだ。耐久性は大したことないが、とにかく素早い。一撃に全てを賭けるタイプのプレイヤーから嫌われていたな」

「素早くて……脆い……? ――! リクみたいなだね!」


 メイが失礼な言葉を口にする。


「メイ、失礼だよ!」

「にゃはは。ごめん、ごめん。それで今回もリクが最初にお手本を見せてくれるの?」

「いや、今回は自力で頑張れ」

「え? 嘘……!? ごめんなさい! うちが悪かったよ!」


 メイは俺が先程の言葉に怒っていると勘違いしたのか、早口で謝ってくる。


「怒ってねーよ。今回はカウンターで倒すと言うより、先手必勝だ。《索敵》――気配察知を上手く使って、先手を取れば楽勝だろ」


 シャドーシーカーが攻撃を仕掛けてくるタイミングを待って、カウンターで倒すのが主流だが……俺とメイは敏捷性を売りにしているプレイスタイルだ。こちらから、仕掛けた方が効率良く倒せるはずだ。


「へ? そうなの?」

「メイなら先手を取れるはずだ。ちなみに、鎖鎌をドロップするのは鎖鎌を装備しているシャドーシーカーのみだから注意しろよ」


 シャドーシーカーは、短剣タイプ、短槍タイプ、鎖鎌タイプと3タイプ存在していた。


「オッケー! んじゃ、どっちが多くのシャドーシーカーを倒せるのか勝負だね!」


 メイが獰猛な笑みを浮かべて勝負を挑んでくる。


「いや、残念ながらそれは無理だ」

「え? 何で? ひょっとして、うちが相手だと勝負にならないとか思ってる?」

「それは、違う。実際に競い合ったら良い勝負にはなると思うが……俺には別の役割がある」

「別の役割?」


 俺の答えにメイは首を傾げる。


「俺の役割はヒナタの護衛だな。シャドーシーカーは後衛――ヒーラーや後衛アタッカーを狙う習性を持っている」

「はわわっ!? 私は足手まといですか!?」

「そうでもない」


 俺の言葉に狼狽するヒナタに優しく語りかける。


「で、でも……リクさんもメイも回復をあまり必要としないですし……私の役割は……」

「この階層にはシャドーシーカー以外にも、ジャイアントバットとロックスライムが出現する。ジャイアントバットの弱点は弓による攻撃だし、ロックスライムの弱点は魔法だ。ヒナタには、それらの相手を頼みたい」

「はい! 頑張ります!」


 明確な役割を与えられたヒナタは目を輝かせて頷く。


「鎖鎌――“月影“のドロップ率は1%未満だ。乱数の女神が微笑むことを期待して、頑張るとするか」

「おー!」

「はい!」


 レアドロップ品である鎖鎌――月影の獲得を目指して、俺たちは第九階層を進むのであった。

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