緊急クエスト四日目②

「ゴブリンナイトの敵影を確認!」

「行くぞ! 本隊並びに【百花繚乱・青】、【百花繚乱・黃】、【百花繚乱・緑】は俺に続け!」

「「「おぉー!」」」


 ゴブリンナイトの敵影を確認すると、タックを中心とした【百花繚乱】の中核メンバーが持ち場を離れ、ゴブリンナイトへと突撃を仕掛ける。


 は?


 ちょっと待て……。


 ゴブリンナイトの出現位置はどちらかと言えば、左側――俺やガンツたちが守る側に近い。


 しかし、タックは【百花繚乱】の精鋭プレイヤーを引き連れて突撃を仕掛けてしまった。


 残されたメンバーで守れるのか……?


 突撃を仕掛けたプレイヤーはおよそ4,000人弱。残されたプレイヤーは6,000人弱。


 こちらはローテーションをしているので、現在ガンツたちは約8,000人で難なく守れてはいるが……。


 ゴブリンをワンキルで倒せる精鋭プレイヤーが抜けた後の【百花繚乱】による防衛ラインは、誰の目にも明らかに崩れ始める。


 は? バカなのか? 自分の旅団の戦力分析すら出来ていないのか?


 このままでは……防衛ラインを突破され防衛拠点までゴブリンが辿り着くのは時間の問題だ。


「【百花繚乱】側の防衛ラインが崩れた! 救援に入るぞ!」

「は?」

「え?」

「マジかよ……」

「何なの、あいつら……」


 俺は周囲のプレイヤーへと大声を張り上げるが、休息中であったプレイヤーの士気は著しく低い。


「この町を守るのは誰だ! 緊急クエストを成功に導くのは誰だ! あいつらなのか? 違うだろ! 俺たちだろ! 元々奴らは眼中になかった! そうだろ!」


 俺は【百花繚乱】への憎悪を煽り、怒りと言う感情での士気向上を試みる。


「そうだ! この町を守るのは俺たちだ!」

「あんな口先だけの連中と俺たちは違うぞ!」

「やってやる……やってやるよ!」


 プレイヤーたちの【百花繚乱】へのヘイトがふつふつと湧き上がる。


「行くぞ! この町を守るのは俺たちだ!」

「「「おぉー!」」」


 俺は怒りの感情を剥き出しにしたプレイヤーたちを引き連れて、【百花繚乱】が崩した防衛ラインの修復へと向かった。


 ――《アクセル》!


 俺は加速した状態により、【百花繚乱】とゴブリンたちが攻防を繰り広げる最前線へと誰よりも早く到着し、二本の短剣を振るう。


 スキルは加速されないが、スキル以外の動作――通常攻撃は加速している。俺は高い敏捷性とクロが強化してくれた武器の性能に物を言わせて、次々とゴブリンを葬り去る。


「た、助かった……」


 白色のマントを羽織ったプレイヤーが俺へと礼を告げるが、俺はその言葉を無視してゴブリンを倒し続ける。


「わぉ! 本気のリクだ!」


 遅れて到着したメイが分銅を振り回しゴブリンを一掃。


「俺たちも続くぞ!」

「「「おー!」」」


 その後五月雨式に流れ込んできたプレイヤーたちがゴブリンの群れを押し戻すのであった。



  ◆



 【百花繚乱】の崩れた防衛ラインへの救援を始めてから1時間。


 防衛ラインの修復には成功したが……状況は芳しくなかった。


 最初こそ激しい怒りによる勢いでゴブリンを制圧していたが――怒りは長く続かない。


 何より、このままでは崩れた流れを立て直せない。


 ゲームの世界では、テンプレート、セオリー、或いは勝利の方程式と言ったプレイヤーが共通認識するべき流れが存在している。


 よく聞く言葉を使うなら、『知らないのなら、事前に動画を見て予習して来い』と言う類のものだ。


 この考えに賛否両論はあるが、メリットとしては流れをトレース出来れば、プレイヤー間の共通認識が深まり、全員の動きが纏まることによりコンテンツをクリアしやすくなるという点があった。


 一方デメリットとして――一度流れから外れると立て直しが非常に困難になるという点があった。


 今回の緊急クエストを成功させるための勝利の方程式は――ローテーションであった。


 終わりの見えない緊急クエストであるからこそ、3時間に一回休めると認識することにより、プレイヤーは体力の分配が出来ていた。


 しかし、今――ローテーションの流れが完全に崩れた。俺たちもキツイが……休息出来ると思い戦っていたガンツたちはよりキツイだろう。


 【百花繚乱】には頼らずに守る……そう決めていたはずなのに……気付けば【百花繚乱】の暴走に巻き込まれた。


 ここから立て直しは図れるのか?


 俺は終わりの見えないゴブリンの襲撃に辟易としながら、勝利の筋道を探るのであった。



  ◆


 緊急クエスト四日目。ゴブリンの襲撃から12時間後。


 終わりの見えない泥仕合と化した戦場でプレイヤーたちは疲労困憊していた。


 ゴブリンに殺されてワンアウト状態になったプレイヤーの数も時間の経過と共に増えていた。


 殺されたプレイヤーは近隣の町――二番目の町の神殿で復活するが、ステータスは半減。戦力としては大幅な弱体に繋がる。


 ワンアウトの状態で殺されればツーアウト。こうなれば、次の死は――本当の死となる。


 打開策を探るべく戦場を見渡せば、タックを筆頭とした【百花繚乱】の精鋭プレイヤーが6匹目となるゴブリンナイトを討伐していた。


 これで残るゴブリンナイトは4匹。


 せめて、あのアホ共が防衛に参加したら……勝ち筋は見えるのだが……。


 ――!


 多少リスクは伴うが……この方法しかないか。


「メイ! 一緒に来い!」


 俺は思いついた作戦を実行する為、メイを呼び寄せ、ガンツの元へと急いだのであった。 

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