戦争への参加
「止めても無駄ですよね?」
「んー、マイがどうしても……と言うなら、不参加もやむなしだが――その場合、【天下布武】の団長はマイが続けろよ」
「――!? な、なぜ、そうなるのですか!」
「戦争に一切参加しない団長など……この俺に、そんな存在になれと言うのか?」
「し、しかし……!」
「まぁ、さっきも言ったように戦場のど真ん中で暴れるとか、最前線で戦わせてくれとは言わない。そもそも、無理な話だ。後方支援でいい。何か手伝わせてくれ」
「んー……わかりました。よろしくお願いします」
最終的にマイが折れる形となって頭を下げてくる。
「という訳だ、メイ、ヒナタ、ヒロ、もいいよな?」
「うん!」
「はい!」
「承知!」
メイたちが笑顔で俺の言葉に応えるが、
「――! リクにぃ……いえ、ソラさん! 私は!」
クロ――スノーホワイトが焦燥した様子で俺に食いかかる。
「クロは……ダメだ」
「何故ですか!」
「すでにワンアウトだろ? その状態で何が出来る?」
「そ、それは……」
「戦争中は何があっても、【天下布武】の旅団ホームから一歩も外に出るな」
「しかし――」
「しかしもクソもない。仮にメイでもヒナでもヒロでも……いや、マイたち幹部連中でも、ワンアウトになった時点で旅団ホームの外へ出ることは許可されない……そうだろ?」
「はい。その通りです」
戦争中は敵対勢力であれば街中でもPKを仕掛けることが可能になる。
敵対勢力の旅団ホームに侵入することも可能だ。……と言うか、勝利条件の1つは敵対勢力の旅団ホームに設置してある旅団シンボルを破壊することだから、敵は積極的に旅団ホームへの侵入を試みる。
旅団シンボルを破壊されたら、その旅団は消滅するが……戦争で旅団シンボルが破壊された旅団は俺の知る限り存在しない。
何故なら、もう1つの敗北条件が――団長による降参だからだ。
旅団シンボルが破壊される状況まで追い込まれたら、即座に降参するのが一般的だ。また、よほどの憎悪がない限りはシンボルを破壊する前に降伏を勧告する。
下手に相手旅団を消滅させたら、消えない恨みが連鎖してしまうからだ。
だから、ワンアウト状態のプレイヤーは旅団ホームの最奥で匿うのが常識だった。
ワンアウト状態のプレイヤーはステータスが半減しているから、そもそも戦力になり得ないし、ツーアウトの状態で、命のやり取りをするプレイヤーは存在しないし、そんな酔狂なやつがいても仲間が全力で止める。
ワンアウトになったら、旅団ホームの最奥で待機。敵がシンボルに到着――敗北が濃厚になったら降参。
こうすることによって、旅団メンバーも旅団も守ることができるのだった。
「まぁ、あまりに戦力外の実力だったら、足を引っ張ることになるから……そこは後で判断を仰ぐさ」
「そうですね。低レベルとは言え……ソラさんは【天下布武】の団長で中核です。後ほど、確認をさせて頂きます」
「んじゃ、テストされる前に、自分の実力を確認してくるかな」
「お! ってことは、いよいよ試し切り??」
「だな! 新しいクラスに、新しい装備! 試運転と洒落込もうじゃないか!」
「おー!」
「はい!」
「承知!」
「念の為、私とマックスも同行します」
「え? いや、マイは忙しいだろ?」
「Foooo! yeah! 俺は暇だぜぇぇえええ!」
「いやいや、マックスも一応幹部だろ?」
「HAHAHAHA! この俺に仕事を振るとでも?」
「……すまん」
「OK! ノープロブレムだぜぇぇええ!」
「いえ、戦争の準備は順調です。優先順位としては、ソラさんの警護は最上位となります」
「警護は嬉しいのですが……そうなると、お二人だけで大丈夫なのでしょうか……? あ! いえ、えっと……マイ様とマックス様の実力を疑っているとかじゃなくて……その、なんて言うか……」
マイとマックスの申し出に、ヒナタが感じていた疑問を投げかけるが、
「大丈夫です。戦争前に私にPKを仕掛るような愚策はしないでしょう」
「そんなことしたら、世論は一気にこちらに傾くからな。すべてのプレイヤーにそっぽ向かれたら、最後は義の名目で数の暴力に屈する未来しかない」
当たり前だが、プレイヤーは人間だ。感情もあれば、道徳観も好き嫌いもある。義のないほうに付くプレイヤーは少ない。
戦争前にマイがPKでやられたら、【黄昏】は悪質なPK旅団です! と吹聴することになる。
「それなら、わざわざマイ様が警護してくれなくても、襲われないんじゃない?」
「いえ、今のソラさん――リクさんを知らないプレイヤーは大勢います。知らなかった……と
「俺も警護はやり過ぎだとは思うが……マイと言う有名人が一緒にいるから襲われないってことだろ」
「はい。その通りです」
まぁ、いいか。
マイは真面目だ。色々と根を詰め過ぎている。気分転換を兼ねて外に連れ出した……と、考えると悪くないかもしれない。
「それじゃ、マイとマックスに警護をお願いして……試し切りに行くとするか!」
「「「おー!」」」
こうして、ようやく念願だった試し切りへと向かうことになったのであった。
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