装備新調(メイ編)

「ソラさん、試し切りの相手はどうしますか? 馬車と従魔を用意致します」

「あ! 馬車も従魔も自前で用意できるから、大丈夫だ」

「わかりました。しかし、遠方なら私の星蘭せいらんに牽かせた方が速いですよ」

「んー、ユリは優秀だけど……レベルを考慮すると星蘭に軍配が上がるか」

「……ユリ? まさか……」

「あぁ……言ってなかったか。ヒナタの従魔がユリコーンだ」

「――! あの姉妹が手放したのは知っていましたが、まさかソラさんの仲間が手にしていたとは……」

「ヒナタは豪運だからな」

「頼もしい限りですね。それで、試し切りの相手はどうしますか?」

「近場だと……ゴブリン。少し遠出をしたらワーウルフか」

「ゴブリン……? レッドゴブリンとか、ゴブリンナイトみたいな上位種じゃなくて……ゴブリン??」


 俺とマイの会話にメイが割って入る。


「正真正銘ゴブリンだな。と言っても、中階層で遭遇していたゴブリンより遥かにレベルは上だけどな」

「強いの?」

「んー、たまーにソロで挑んで負ける奴もいるかな」

「ソロで対峙する場合は、連携が厄介ですね」

「ふむふむ」

「まぁ、中階層の装備のままだったら……苦戦する可能性はあるけど、今なら余裕だろ」

「なるほど」

「まぁ、百聞は一見にしかず。試し切りの相手はゴブリンでいいか」

「はーい」

「私はどうすればいいでしょうか?」

「ヒナタは聖女になったんだよな?」

「はい。新たに習得した魔法は《フォースヒール》と、《ホーリーシールド》です」

「《フォースヒール》が範囲回復で、《ホーリーシールド》が魔法ダメージの一部を吸収だったか?」

「はい」

「ヒロはジェネラルだから、新たに習得したスキルは……パッシブの《デェフェンス強化》か」

「さすがはリク殿! その通りです!」

「ヒロに《ホーリーシールド》をかけつつ、ダメージ吸収量を把握。その後、適当に殴られたヒロを回復させて、回復量を把握するのがベストかな?」

「――! 承知! このヒロアキ! リク殿のご下命に応え、すべての攻撃を受け止めますぞ!」


 タンクとヒーラーの試し切りは地味だが、とても重要だ。タンクは己の耐久性を把握する必要があり、ヒーラーは回復量や発動から効果を発揮する時間を把握する必要があった。


「うちはどれを試そうかなぁ♪」

「上忍だと新たに習得したスキルは、《忍術の極意》と……何だっけ?」

「んー、《投擲の極意》かな」

「あぁ……手裏剣が強くなるパッシブスキルか」

「噂だと投擲武器の威力も上がるらしいにゃ」

「え? マジ?」

「手裏剣などの忍具しか効果を発揮しないような説明だけど、実際には投擲武器の攻撃力も上がるらしいにゃ」

「あら? 先程の訓練室の中に投擲武器はありましたか? 【天下布武】で投擲武器を所有しているのはセロさんを含め4人いますが……さすがに、寄与はしてくれないと思います。ブーメランであれば、オークションで安価で入手できますが……強化されたとしても威力はたかが――」

「メイは自前で用意してある」

「え? しかし、投擲武器をドロップするのは……――! まさか……」

「そのまさかだ」

「あはは……」


 メイは照れ笑いを浮かべながら『蛇王戦輪』?を取り出す。


「ん? それ『蛇王戦輪』だよな?」


 俺はメイの手にした『蛇王戦輪』に何か違和感を覚える。


「にゃはは、リクにぃたちが装備品を選んでいる間に……メイねぇの『蛇王戦輪』と『風威』を進化させたにゃ。今は――『永劫回帰ウロボロス』と『暴風威テンペスト』にゃ!」

「は?」

「え?」


 俺とマイは別の意味で共に驚く。


「進化させるのにどれだけの素材突っ込んだんだよ……」

「え? え? な、なんで……伝説の武器を持っているのですか??」

「素材は、ボクの手持ちの素材と、リクにぃの家の地下室にあった装備品からいくつかを分解して入手したにゃ。メイねぇが持っている理由は、メイねぇが拾ったからだにゃ!」

「あんなにも装備品あったのに……敢えて『風威』を強化するかぁ……」

「あ! 他にも素敵な鎖鎌あったから貰ったよー!」

「ん? 『冥王ハデス』か……。これも伝説級の鎖鎌だな」

「え? 拾った?? え、えっと……『冥王』はセロさんからの寄贈品です」


 俺の短剣――『神威』と『天獄』も超一級品だが、メイの装備品もまた超一級品だった。


 よく見れば、ヒロアキが身に付けている防具も最前線のプレイヤーの装備品と遜色ないし、ヒナタが持っている杖も超一級品だ。


 改めて、【天下布武】の仲間たちとクロに感謝の気持ちを抱くのであった。



  ◆



 王城から馬車で走ること10分。


 周囲にプレイヤーがいない手頃なポイントを見つけ、俺たちは試し切りをすることにした。


「はい、はい、はーい! うちからでもいい?」

「はい、勿論です。メイさんの実力期待してますね」

「――な!?」


 試し切りをしたいのは、俺も同じだ。いつもなら、ここで軽く口論を重ねるはずなのに……マイがあっさり承諾してしまう。


「ん? まさか、ソラさん……先に自分が試し切りをしたかった、そんな幼稚なことは言わないですよね?」

「え? 幼稚なの……」

「ソラさん?」

「はっはっはっ……当たり前だろ? 新人を育成するのは先達者の義務だ。お、俺がそんなこと言うわけないだろ……」


 俺は空気の読める男だ。咄嗟にマイの心の機微を感じ取り、言動を改める。


「んじゃ、行ってくるね!」


 馬車から飛び出したメイが3匹のゴブリンに襲いかかるのであった。


――――――――――――――――――――――

(あとがき)


早く試し切りしたいのに……筆がスラスラと動いて冗長に……orz


あと、前話のタイトルが内容と合っていなかったので……変更しました。


次回は試し切り(メイver)をお送りします!(汗

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