緊急クエスト(S2)四日目⑤
「あー! やっぱりそうじゃん! 忘れてたとか、リク最低ー」
メイがここぞとばかりに口撃してくる。
「いや、そうは言うが……パーティーを組んだのは一回だけで……フレンド登録もしてなかったし……2年以上も前だし……覚えているほうが凄いだろ……」
俺はしどろもどろに言い訳をする。
ソラだった頃、野良パーティーを含めたらパーティーを組んだプレイヤーの人数は軽く3桁を超える。
今思えば、アイリスはイベントでパーティーを組んだから、2人パーティーだったし……記憶に残りやすい出会いだったとは言え、あの頃のアイリスとは装備も雰囲気も全然違う。
これで覚えていろ! というほうが、無理な話だ。
「ん? んん? リクっちどういうこと? リクっちとアイリスさんが知り合いなのは何となくわかったが……いまいち状況がわからないぞ」
「リクさんが凄いことはわかりましたが、私も状況が理解できませんわ」
「ハッハッハ! 拙僧のような没個性の凡夫ならともかく、リクたんのような強烈な個性を持った英雄であれば……一方のみが覚えているのも、
いやいや……
「えっと、隠していた訳ではないし……って、2人には俺がセカンドキャラであることは前に伝えていたよな?」
「おう! リクっちとクロさんはセカンドキャラだから知識担当とか言ってたな!」
「あ! わかりましたわ! リクさんのメインキャラクターとアイリスさんがお知り合いなのですね」
「まぁ、簡単に言えばそうなるな。あと、信じる、信じないは2人の判断に委ねるが……俺のメインキャラクターは
この集団の中で、真実を知らないのがカナメとアケミとついでにイセだけなのは良くないだろう。俺はサラッと真実を告げた。
「へぇ……リクとソラか! 何となく繋がりを……って……――!? ソラ!?」
「ま、ま、ま、まさか……あ、あの
「む? 拙僧の心の師――マックス様の団長ですかな?」
「3人の言うソラがどれを指しているかはわからないが……俺のメインキャラクターは【天下布武】の団長をしていたソラだな」
「えーー! マジかよ! 今世紀で一番ビビったぜ!」
「ま、まさか……伝説のプレイヤーとパーティーを組んでいたとは……驚きですわ!」
「ふむ……リクたんがソラたんになろうと拙僧の想いは不変ですな」
「まぁ、俺のメインキャラクターがソラである証拠は何も示せないけどな」
驚く3人に俺は苦笑を浮かべた。
「いいえ! リクさんはソラさんです! 私の全存在を賭けてもいいです!」
「本当にリクさんは……『炎帝のソラ』だったんだ……。団長の妄想かと思っていたぜ……」
「そうですね……。驚きですね」
アイリスは俺がソラであることに絶対の自信を持っているようだ。
「アイリスさん、一ついいか?」
「はい。なんでしょうか?」
「なんで、俺がソラだってわかったんだ?」
今の
「きっかけは低階層から来たプレイヤーの噂でした。先の緊急クエストで多くのプレイヤーを救った英雄が現れたと。そして、そのプレイヤーはソラさんであると」
「俺の他にも……というか、俺は自称していないが……ソラの名を騙っていたプレイヤーは別にもいたぞ?」
「はい。その話も聞いております。ソラさんの名前を騙って未曾有の危機に陥れた罪人ですね」
罪人……? あの
「ププ……罪人だって」
「由々しき方でしたから、仕方ないですね」
「リク殿と出会わなかったら、私もその被害者のままでしたな」
「最初は私も半信半疑でした。しかし、ソラさんがあの日――私たちがこの世界に閉じ込められた一週間前からログインしていなかったのも事実。だから、私は一縷の望みを託して、噂の英雄を捜索することにしました」
「団長の想いすげーな……もはや、スト――」
「ローズ!」
ローズが茶々を入れるがアイリスは気にせず話を続ける。
「私の知り得たのは、
あの状況は……出会ったというより、釣られたという表現のほうが正しいな。
「それで、俺がソラだと確信に至った理由は? ソラと
「ふふっ。お会いして、お話したら直ぐにわかりましたよ。笑うときの仕草、話すときの間、ステップするときの癖……他にも言い出したらきりはありませんが、すべてがソラさんと同じでした」
なるほど……よくわかった。(わからない)
「うぉ……団長こえー……」
「リクさんもドン引きしてますわ」
ローズとセリアがもはや隠す気もなく、団長であるアイリスを批判しているが、アイリスは幸せそうにニコニコと笑っていた。
「とりあえず、事情は理解した。その上で忠告するが……もう少し公平性をもって指揮したほうがいいぞ」
「――?」
「いや、今は露骨に俺たち遊撃隊が優遇されている。もう少し公平に……前まではできていたんだろ?」
「リクさんが仰るのでしたら……しかし、私の今回の指揮は決してリクさんを優遇した訳ではないですよ」
「とは言うが、不満がでてるのは事実だろ?」
「あの人たちはわかってないのです。リクさんに中ボスの撃破をお願いするのは、Sランクを達成させるためには必須条件です。Aランクでもいいのであれば……別ですが。リクさんはどうお考えですか?」
「んー……そうだな……」
事実、
この世界は属性による相克関係の影響が非常に大きい。
故に、上級者はそれぞれの属性の装備品を用意するのだ。
「リクにぃ……もう少し上手い立ち回りはあったと思うけど、いまさらなのにゃ。実際にリクにぃ……と、メイねぇがいなかったらSランクは厳しいと思うにゃ」
クロがアイリスの言葉に賛同する。
「個人の……2人の力で緊急クエストの達成ランクが変わるとは思えないが……準備が整っていなかったら、そうなるのかもな」
この階層では、全属性の装備品を揃えるプレイヤーは少ない。
上の階層に行けば、行くほど強い装備品を獲得できるのだ。いつ使えるのかわからない属性の装備品まで整え始めるのは、ある程度頭打ちになってからだ。
「周囲のプレイヤーと遺恨は残さないでくれよ」
「善処します」
「大丈夫だよ! 次回の緊急クエストの前にオレたちも上の階層を目指すからな!」
「ならば、尚更だ。恨みを買うまではいってないと思うが……プレイヤー間の軋轢はできるだけ小さい方がいい」
「心得ました」
「状況をみて、中ボスの処理を他のプレイヤーに任せた方がいいな。
軋轢を無くせるなら、
「わかりました。贅沢を言えば……リクさんの指揮をこの目で見たかったのですが……」
「ハハッ……勘弁してくれ。第一、今の俺が突然指揮を執っても誰も従わないだろ」
「そこは、【青龍騎士団】が総力を挙げ――」
「挙げるな……。さっきの勝どきでも言ったが、今の俺は【青龍騎士団】の客分だ。今はその立場に甘えさせてくれよ。俺とアイリスは対等なパートナーだろ?」
「は、はい! 頑張ります!」
一つの謎が解け、俺たちは緊急クエストの最終日に臨むのであった。
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