緊急クエスト(S2)最終日①

 この世界に閉じ込められてから2回目となる緊急クエスト。4日目に多少のいざこざはあったが、最終日となる5日目を迎えることになった。

 

「いよいよ本日で最終日となります! 現在、全ての塔を守ることに成功しております! ここまできたら、あと少しです! 必ずSランクを達成しましょう!」


「「「おー!」」」

 

 アイリスの鼓舞に応えるプレイヤーたちの声に大気が揺れる。


 そして、前方からは土煙を巻き上げながら迫る、魔導人形ゴーレムの大群。

 

「参ります! 遠距離部隊、一歩前へ!」

 

 アイリスの指揮に呼応して、杖や弓を手にしたプレイヤーの集団が前進。

 

 アイリスは迫りくる魔導人形ゴーレムとの距離を測る。

 

「遠距離部隊、構え!」

 

 遠距離部隊に所属するプレイヤーが一斉に杖や弓を構える。

 

「3……2……1――放てっ!」

 

 アイリスの指揮に呼応して、火、氷、土、風、光、闇――色彩豊かな魔法と無数の矢が放たれた。

 

「遠距離部隊、後退! チームアルファは前へ! 魔導人形ゴーレムを迎撃して下さい!」

 

 後退する遠距離部隊と連動するように盾を手にしたプレイヤーが前進し、盾を打ち鳴らした。

 

「リク、うちらはどうするの?」

「少し様子を見てから出陣するか」

 

 遊撃隊を任された俺は無理に出陣せずに様子を伺う。

 

 昨日までは中ボス撃破に特化した動きだったが、今日は全体のフォローに回る予定だ。

 

 今更のような気もするが……今日は派手に目立たず裏方に徹する。

 

 メイたちに中ボス撃破以外のノウハウを教えるのも面白いだろう。

 

「ん? 出陣しないのか?」

「昨日のことを気にしているのか?」

 

 好戦的な性格のカナメとローズがウズウズとしている。

 

「折角だ、貢献度を稼げる方法をレクチャーしようか?」

「敵をたくさんぶっ倒せばいいんだろ?」

「カナメの頭は残念な仕上がりですわ。たくさん敵を倒すより中ボスを倒したほうが貢献度は稼げますわ」

「アケミの言うことももっともだが……今回はカナメの方針でいこうと思う」

「ハッハー! アケミ! 聞いたか!」

「そ、そんな……」

 

 俺の答えにカナメはどや顔を決め、アケミは大げさによろめく。

 

「アケミの言うとおり中ボスを倒せれば得られる貢献度は大きいが、中ボスを常に倒せる位置、或いは立場にいるとは限らない」

「でも今は遊撃隊だから、立場にはいますわ!」

「まぁそうだが……中ボスを独り占めするといらぬ憎悪を招くから……今日は他のプレイヤーに譲るつもりだ」

「やっぱり昨日のことを気にしていたのか」

 

 俺の答えに【青龍騎士団】に所属しているローズが表情を曇らせる。

 

「気にしていないと言えば嘘になるが、中ボスを倒す以外にも貢献度を稼げる……いや、言葉を変えるならSランク達成に貢献できる方法をレクチャーする」

「どんな方法なの?」

 

 メイは素直に俺の言葉に興味を惹かれる。

 

「貢献度を稼ぐ方法はいくつもある。一つは敵を倒す。一つは味方を癒やす。或いは、ヘイトコントロール――敵を引き付けても貢献度は稼げる」

「全ての役割に平等ですな」

「そうだな。まぁ一番手っ取り早いのが敵を倒す……と言うか敵の多い場所に向かえばいいのだが、その方法の一つがあんな感じにいの一番に敵に突っ込む方法だ」

 

 俺は真っ先に敵に突っ込んだ左翼を守る【金狼】の連中を指差す。

 

「【金狼】は相変わらずイケイケだな」

「但し、この方法は貢献度を稼ぎたいプレイヤーの多くが選択するから、ライバルも多くなる」

「確かに最前線は敵も味方もいっぱいだな」

「今、この場にいると全体が見えるけど……最前線で戦っているときは全体が見えるか?」

「ある程度の周囲は確認できるけど……全体は無理かなぁ」

 

 俺の質問にメイが首を傾げながら答える。

 

「全体を見渡すと……プレイヤーが一点に集中したことで防衛ラインが薄くなる場所ができるんだよ。例えば、あの辺とかな」

 

 俺はC拠点(左から二番目の【青龍騎士団】直属の防衛拠点)とE拠点(一番左翼の【金狼】を中心としたフリー枠の防衛拠点)の間を指差した。

 

「んー確かに少し押されてますね」

 

 ヒナタが俺の指した方角を見て答える。

 

 押されているとは言え、多少だ。本格的に押されたら近くのプレイヤーが駆けつけるだろう。しかし、その駆けつけるプレイヤーの数が多いとまた防衛ラインは歪になる。

 

「あそこに今向かえば敵は入れ食いだ。存分に敵を倒せるし、防衛ラインを守る意味で真の意味での貢献に繋がる」

「んー要は、プレイヤーのあんまりいない場所を狙って、敵を倒しまくればいいんだな!」

「身も蓋もない言い方だが、そうなるな」

「せめて、味方の手薄なとか……もっと知的な表現はできなかったのですか! カナメの頭は本当に残念なのですわ……」

「んなもん、どっちでも一緒だろ!」

「ハハッ……確かに一緒だな。それじゃ、遊撃隊……あの地点を目指して出陣するぞ!」

「「「おー!」」」

 

 俺たち遊撃隊は、Sランクを確実なものにするため、出陣するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る