再会

「本当に……ソラなのか……!」

「今度こそ本物のソラさんですかぁ?」

「んー、また偽物とか勘弁だよね」

「Foooo! 本物のリーダーなら情熱パッションで証明してもらおうかっ! さぁ! 脱ぐのです! さぁ!」

「再会の喜びを分かち合うのは確認してからだな」


 幹部連中は俺が本物なのかどうか、疑心暗鬼のようだ。


「本物なのです! 主様は……主様なのですっ! リンネは絶対に間違えないのですっ!」

「えー? でも、この前油揚げくれた人に……『主様……?』とか、目を潤ませていたキツネちゃんは誰だったっけ?」

「主様……! 主様……! ミントがイジワルなのです!」


 リンネ……油揚げで釣られるなよ……。


「リク殿……ここは、向こうの要求に従い……脱いで証明するしか! ご安心召されよ! リク殿だけに恥ずかしい思いはさせませぬ! ここは私も一肌脱いで――」

「ヒロ、黙ろうか?」


 何故かマックスの言葉にのみ反応したヒロアキを黙らせ、俺は思考する。


 俺が俺である為の証明か……。


「俺とマイたちが知っているエピソードでも話せばいいのか?」

「ハッ! このパターンは3回目だ! どうせ、アニメとか『天下布武ちゃんねる』で流したエピソードを話すんだろ!」

「ふっふっふ。同じ内容はNGだからね」


 ツルギとミントが不敵な笑みを浮かべる。


 『天下布武ちゃんねる』とは、【天下布武】が運営している動画チャンネルのことだ。


「アニメは見てないし、俺の関わっていない配信も確認していないが……そうだな……」

「ハッ! 言い訳から――」

「ツルギはレイドボスと戦う前に勝負下着と称した真紅のブリーフを――」

「な!? ま、待て! そ、それは秘密だと!?」

「Foooo! ツルギ、今度一緒にマラソンYeah!」

「ミントはメグに杖のエンチャント依頼を受けたときに、連打して最高レアリティの付与を一度飛ばしたが――」

「わわわっ! な、なんでそれをここで言うの!?」

「え? 何その話? 詳しく教えて欲しいなぁ」


 公開されていないと思われる情報を話すと、ツルギとミントが狼狽する。


「ん? この話は公開されていたか? それなら、リアルネタでもいいが……一昨年ツルギがログインできなかった理由は――」

「待て! 待てーー! こんな天下の往来で正気か!」


 慌てふためくツルギを見て、俺は意地の悪い笑みを浮かべると……、


「ほ、本当にソラさんなのですか……?」


 マイが近寄って来た。


「証明しろと言われても難しいが……ソラだ」

「わかりました。ならば、最後に……私たちをソラさんの家にご招待願えますか?」

「――! そんな簡単なテストでいいなら、最初から言ってくれよ」


 俺は苦笑すると、幹部連中を連れて再び我が家へと戻るのであった。



  ◆



「ようこそ、我が家へ」

 俺は幹部連中を家に招き入れ、珈琲を用意した。


「先程は失礼しました。【天下布武】は現在、面倒な事態に巻き込まれています……。すべてを信じるわけにはいきませんでした」


 マイは深く頭を下げる。


「面倒な事態って、【黄昏】からの宣戦布告の件か?」

「はい。ソラさんもご存知でしたか」

「知ったのは、ついさっきだけどな」

「私の管理不足が原因でこのような事態に陥り、申し訳ございませんでした」


 マイは再び頭を深く下げる。


 よく見ればマイの顔からは強い疲労が見て取れる。


「ハッ! マイが謝ることじゃねーよ! 悪いのは全部【黄昏】のクソ共だ!」


 ツルギがマイをフォローすると、他の幹部連中も同意するように首を縦に振る。


「このような苦しい状況のなか……本当に申し訳ないのですが……団長として戻って来て頂けますか? ソラさんが戻ったと知れば士気は確実に高まります」


 マイは今にも泣きそうな表情を浮かべ、懇願してくる。


「戻るのは構わない……と言うか、元々戻る予定だったからな。団長に戻るのも問題はないが……レベルは低いぞ?」

「構いません! ソラさんがいるだけで、皆の士気が高まります!」

「まぁ、罷免されているのは当然と言えば当然の措置だし、むしろするべきことをした英断だと思っているし……元々団長の予定だったから問題はない。マイがどうしても団長を続けたいなら、副団長でも――」

「ソラさん!」

「っと、冗談はこのくらいにして。大切な時期に行方をくらましていた俺だが、今回の件で一つ提案がある」

「提案? 何でしょうか?」

「今回の戦争だが、事前に回避――和解しないか?」

「は? 和解? 有り得ねーよ! ソラは知らないかも知れないが、向こうが一方的に宣戦布告してきたんだぞ!」


 俺の提案に大人しく話を聞いていたツルギが猛反発する。


「今は状況が状況です。私としても戦争を避けれるなら、避けたいのですが……【黄昏】が和解を受け入れるとは考えられません」

「なるほど。つまり、【黄昏】が和解を受け入れたら戦争は回避できるんだな?」

「戦争回避するのはいいが、和解の条件でこっちは一歩も引く気はねーぞ!」

「私も戦争回避には賛成だけど、こっちが譲歩するのはなしだと思うなぁ」


 俺の言葉に好戦的なツルギのみでなく、穏健派のメグまで反発する。


「和解をするにしても、向こうはこちらの言葉に聞く耳を持ちません」

「それに関しては秘策がある」

「秘策ですか……? ソラさんは知らないと思いますが……現在【黄昏】には、あのスノーホワイトが不在です。非常に狡猾で厄介な存在でしたが……どのような秘策があったとしても、彼女抜きに和解が成立すると思えません」

「うんうん。そもそも、スノーホワイトちゃん抜きのゼノンさんだけだと交渉のテーブルに着かせるのも不可能だと思うよぉ」

「クソっ! 居ても、居なくても厄介な奴だぜ!」

「『冷血めがね』の不在がここまで影響するなんて、予想外だよね」

「Foooo! とりあえず、リーダーお帰りパーティーしようぜ! ヒーハー!」

「マックスは黙ってろ」


 幹部連中からみても、和解のキーマンはスノーホワイトであることは共通認識のようだ。


「なるほどね。それじゃ、秘策を話す前に――少し一息入れて、俺の新しいフレンドを紹介してもいいか?」

「え? は、はい」


 笑みを浮かべる俺に、マイたちは少し困った表情を浮かべるのであった。

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