緊急クエスト一日目②

 周囲の景色がスローモーションで流れる加速した景色を駆け抜け――刹那の速さでゴブリンシャーマンの背後を取って、短剣を振り上げる。


 ――《バックスタブ》!


 致命の一撃を食らったゴブリンシャーマンがゆっくりと地面に倒れると、飛来してきた円盤――蛇王戦輪が一匹のゴブリンシャーマンを両断する。


 周囲のゴブリンシャーマンが事態を理解する隙を与えず、更に一匹のゴブリンシャーマンに致命の一撃を与え、


「ギィ!? ギィ! ギ――」


 ――《ファング》!


 ようやく事態を理解し、慌てふためくゴブリンシャーマンの喉を短剣で切り裂いた。俺が3匹目のゴブリンシャーマンを倒したタイミングと同じくして、メイもノルマである2匹目となるゴブリンシャーマンを蛇王戦輪で両断していた。


「ふふん♪ いっくよー! ――《夏撃》!」


 全てのゴブリンシャーマンが倒れたのを確認したメイが、分銅をゴブリンナイトへと投擲。


 ――《ウインドカッター》!


 俺は背後からメイを襲おうとするゴブリンを風の刃で両断した。


 ここまで派手に暴れたら《隠匿》は何の効果も発揮せず、周囲のゴブリンたちのヘイトが一気に俺とメイへと集中する。


「――《混沌》! からの、――《冬乱》!」


 メイは周囲の敵の能力を低減する領域を展開し、同時に分銅を振り回して、周囲のゴブリンを一掃。


 ――《バックスタブ》!


 俺はその隙に、メイへと集中しているゴブリンナイトに背後から短剣を突き立てる。


「ギィィィイイ!」


 チッ……流石に硬いな。


 短剣から伝わる感触が、与えたダメージ量の少なさを伝える。


 怒ったゴブリンナイトが横薙ぎにした斧の一振りをしゃがんで回避し、


 ――《ライジングスラッシュ》!


 立ち上がりと同時に跳躍し、ゴブリンナイトの顔面を斬りつける。


 メイは周囲のゴブリンを相手しながら、時折分銅をゴブリンナイトとへ投擲。分銅を投擲したことにより、大きな隙を見せるメイに攻撃を仕掛けようとするゴブリンを魔法とボーガンで牽制。


 その後もメイと入れ替わり立ち替わり、互いをフォローしながらゴブリンナイトへのダメージを蓄積させた。


「メイ!」

「――ッ!? こんにゃろ!」


 振り回された分銅をくぐり抜けた1匹のゴブリンがメイへと斧を振るう。メイは回避することも出来ずに苦悶の表情を浮かべるが、すぐに鎌で攻撃してきたゴブリンを斬り裂く。


 ――《ウインドヒール》!


 俺はヒナタの1/10にも満たない拙い回復魔法でメイを癒やす。


「ありがとう! 元気出た!」

「無理はするなよ!」

「わかってるよ!」


 本当にわかっているのだろうか? メイは再び分銅を振り回し、ゴブリンを纏めて吹き飛ばした。


 ゴブリンナイトとの死闘から10分。


 ゴブリンナイトがメイへと斧を大きく振り上げたタイミングで、メイの横へと疾走。


 ――《パリィ》!


 ゴブリンナイトが斧を振り下ろすタイミングと同時に振り下ろそうとした斧を短剣で弾く。


「ちゃーんす♪ ――《秋雨》!」


 斧を弾かれてタイミングを崩したゴブリンナイトをメイは鎌で滅多切りにする。


「ギィィィイイ!!」


 態勢を立て直したゴブリンナイトが怒りの咆哮を上げる。


「メイ!」

「あいよ!」


 メイは攻撃の手を止めて、バックステップを刻んで距離を取り、怒れるゴブリンナイトは斧を振り上げてメイを追尾する。


「ギィ!」


 ゴブリンナイトが斧を振り下ろした瞬間、メイは後方へ飛び退き――


 ――《バックスタブ》!


 俺はがら空きになった首筋に短剣を突き立てる。


 防御力が一番落ちる瞬間は――攻撃を仕掛ける瞬間。


 突き立てた短剣は致命の一撃となり、ゴブリンナイトは地に倒れた。


「メイ! 撤退だ!」

「はーい!」


 目標を達成した俺とメイは即座にこの場から撤退したのであった。



  ◆



 俺とメイは防衛拠点を目指して突き進むゴブリンと同じ流れに乗り、プレイヤーたちとの合流を目指す。


 このままだと……MPK――モンスターを使ったプレイヤーキル――っぽくなるか?


「ガンツさん! 少し大量のモンスターを誘導してもいいか!」


 俺は視界に入った最前線で大剣を振るうガンツに大声で叫ぶ。


「お? 何で風の兄ちゃんがそっちから来るんだよ!」


 ガンツは大剣を振るいながらも、律儀に大声で返答してくれる。


「無理ならもう少し誘導を続けるが……どうする!」

「大丈夫だ! こっちに来い!」

「助かる!」


 俺はガンツに礼を告げて、列車の様に後ろへ連なるゴブリンと共にガンツの元へ疾走。最前線で戦うプレイヤーと合流した俺は、すぐさま反転して《ウインドカッター》をゴブリンへと放つ。


「メイ! イケるか!」

「うん!」


 メイも反転すると分銅を振り回して、大量のゴブリンを一気に吹き飛ばす。


 ――《アクセル》!


 加速すると、俺から意識の外れているゴブリンへ奇襲を仕掛け、素早く一匹ずつ仕留める。


 経験値が入れば最高なんだがな。


 俺はボヤキながらも、一匹、また一匹とゴブリンを地に沈めていった。


 15分後。


 ようやく俺が引き連れて来たゴブリンの掃討が完了。最前線に余裕が戻った。


「風の兄ちゃん!」


 ガンツが俺に近付き声を掛けてくる。


「すまない。助かった」


 俺はMPK紛いの行為について素直に謝罪する。


「いや、それはいいが……何であっち側から来たんだ?」

「あぁ……それか。ゴブリンナイトを倒してきた」

「は?」


 誠実に答えた俺の言葉を聞いたガンツは大きく口を開けて呆然としたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る