緊急クエスト一日目③
「風の兄ちゃん……今は冗談を言っている時じゃないぞ?」
ガンツは大剣を振るう手を止めて、俺に言葉を放つ。
「こんな時に冗談を言うかよ」
おいおい……ちゃんと攻撃はしろよ!
俺は周囲のゴブリンを倒しながら、ガンツの言葉に答える。
「ど、どうやって倒したんだよ! ゴブリンナイトはこんな時間だとまだ奥にいるだろうが!」
「《隠遁》を使えばゴブリンナイトの所まで到達するのは、そこまで難しくはない」
「仮に辿り着けても風の兄ちゃん一人で倒せないだろ! ゴブリンナイトはソロで倒せるほど甘くないぞ!」
何故かガンツは怒鳴り口調になる。
「ソロで倒した何て一言も言ってないだろ? 仲間と二人で倒してきた」
「ふ、二人だと……!?」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事もって言うだろ? とりあえず、敵の勢いはまだまだ止まらない。ゴブリンを掃討するぞ」
「お、おうよ!」
一日目は出現するゴブリンナイトは二匹。二匹のゴブリンナイトは別々の防衛拠点を目指すので、これでこちら側の防衛拠点は安全だ。
周囲を確認する限り、俺が引き連れて来たゴブリンの群れを掃討した今、ここはガンツたちに任せていても問題は無さそうだ。
「メイ! ヒナタたちと合流するぞ!」
「はーい!」
俺はメイと共に仲間たちが戦っている戦場へと移動することにした。
――《バックスタブ》!
挨拶がてらヒロアキに群がっていたゴブリンを短剣で倒し、
「ただいま」
仲間たちに挨拶をした。
「おぉ! リク殿、戻られましたか!」
「おかえりにゃ!」
「あ! おかえりなさい!」
ヒロアキは無数のゴブリンを引きつけながらも、笑顔を見せ、クロはその身体に見合わぬ巨大な斧――凶牛の戦斧でゴブリンを薙ぎ払いながら笑顔を浮かべ、少し離れた後方でヒナタは手を振っていた。
「ゴブリンナイトは倒せたかにゃ?」
「火力不足で多少手こずったが、無事倒せた」
「流石はリクにぃとメイねぇにゃ!」
クロは斧を振り回しながら、成果を確認してきた。
「こっちの状況はどうだった?」
俺も短剣を振るいながら、クロへと状況を確認する。
「んー……ぎりぎりにゃ。防衛は出来ると思うけど、余力はない感じにゃ」
「ゴブリン相手の緊急クエストでぎりぎりか」
「今回は敵に恵まれたにゃ」
緊急クエストで襲撃してくる敵の種類はランダムだ。頻度が多いと言われているのは、炎属性のオーガ、土属性のオーク、水属性のリザードマン、そして風属性のゴブリン。
他にも闇属性の悪魔種、光属性の天使。レア枠だと竜や吸血鬼が率いる不死種などもある。
「今日は初日だ。サクッと掃討を目指そうか」
「賛成にゃ!」
緊急クエストは日を重ねるごとに襲撃は熾烈さを増してくる。謂わば、今日のは一番優しい襲撃だ。
「掃討……? このゴブリンの群れは打ち止めがあるの?」
「正確な数は不明だが、一日ごとの上限数は存在するな」
俺とクロの会話から疑問を感じたメイの質問に答える。
殲滅してしまえば、明日までプレイヤー側は休息を取ることが出来た。殲滅出来なかった場合は、満足に休むことも出来ず、前日の残りとその日の分の侵略者が合わさり、難易度は雪だるま式に跳ね上がった。
「初日なら3時間と言いたいが……このペースだと6時間くらいが妥当か?」
「初日の3時間殲滅はトップランカー基準にゃ」
「そういうクロのファーストもトップランカーだったんだろ?」
「まぁ……そうにゃ」
クロの言うトップランカー基準とは、現状で一番上の階層で緊急クエストに参加しているプレイヤーたちを指していた。
初日の殲滅時間で参加プレイヤーの実力を把握し、クリア報酬ランクを予測していた。
3時間未満ならSランク。6時間未満ならAランク。9時間未満ならBランク。12時間以上かかるならグダグダな展開となり、24時間以内に殲滅出来なかったらEランク濃厚――一つの防衛拠点を全プレイヤーで死守――と言われていた。
「そうだ! リクにぃ! 一ついいかにゃ?」
「何だ?」
「ここの指揮をお願いしたいにゃ!」
「は? 俺が?」
「この戦場は現状バラバラにゃ! 指揮するプレイヤーが現れたら誰でも従うにゃ!」
人間の特性なのか、はたまた日本人の特性なのか、レイドクエスト中に指揮するプレイヤーが現れたら、意味不明な指揮じゃない限り、見知らぬプレイヤーであっても、従うプレイヤーは多かった。
「だったら、クロでもいいだろ?」
「にゃはは、ボクは職人にゃ。ボクには無理だけど、リクにぃなら強さを示せるにゃ」
そして、より効率的に指揮下に組み込むには――実力を示すのが最も効果的だった。
「俺は風属性だぞ?」
「にゃは! それでもリクにぃは強いにゃ!」
「失敗しても、責任は取らないからな」
クロの言うことは理に適っている。少し癪に触るが、俺はクロの提案を呑むことにした。
周囲の状況を把握し、強さを示す為の最適な方法を模索する。
――《アクセル》!
加速した俺は戦場を疾走、
――《バックスタブ》!
劣勢になっていたプレイヤーを襲っていたゴブリンを一撃で葬り去る。
「た、助かった!」
「気にするな。同じ仲間だろ」
その後も高いAGIを駆使して、戦場を所狭しと駆け抜け劣勢になっているプレイヤーを襲うゴブリンを次々と駆逐。
「ヒロ! ゴブリンを集めろ!」
「承知!」
ヒロアキが打ち鳴らす盾の音にゴブリンたちが誘われる。
「メイ! クロ! 集まったゴブリンを駆逐しろ!」
「まっかせて!」
「了解にゃ!」
ヒロアキに群がるゴブリンを、メイとクロが次々と駆逐する。
「魔法は使えますか?」
「は、はい」
そして、杖を手にした見知らぬプレイヤーに声を掛け、
「私が矢を放った箇所にファイヤーブラストをお願いします」
「は、はい!」
攻撃の指示を出す。
その後も、劣勢のプレイヤーを発見したら援護し、時に見知らぬプレイヤーに攻撃の指示を出しながら徐々に自分の影響力を拡大させる。
「恐らく敵の襲撃は後5時間ほど続きます! プレイヤーの皆さんはパーティー単位の行動を心掛け、随時ローテーションを挟みながら休憩して下さい!」
そして、緊急クエストの肝となるローテーションの指示を出し、
「5時間ぶっ通しで戦えるプレイヤーは俺と一緒に暴れましょう!」
最後に、元気なプレイヤーを鼓舞。
「「「おぉー!」」」
こうして、自然な流れで指揮官の枠に収まることに成功した。
◇
襲撃開始から5時間45分後。
俺たち側の防衛拠点を襲撃してくるゴブリンの殲滅が完了したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます