デスペナルティ

「そういえば、最悪の可能性と言えば……デスペナはゲームの頃と一緒なのかな?」


 メイが独り言のように問いかける。


 デスペナ。正式名称はデスペナルティ。意味は死んだ時に受けるペナルティだ。


 デスペナの種類はオンラインゲームによって様々だ。


 とあるオンラインゲームはデスペナとしてログイン制限(数日間ログイン不能など)を設け、とあるオンラインゲームは能力制限(数日間ステータスが半減など)を設け、とあるオンラインゲームは経験値やお金の減少を設け、とあるゲームは装備品のロストなどを設けていた。


 そして、IGOのデスペナは非常に変わった仕様を用いていた。


「山田太郎の言葉を信じるなら、恐らくゲームだった頃と仕様は変わらないだろう」


 デスペナの仕様が変わったなら『この世界のルールも一部の機能を除いて、アップデート前と変化はないのでご安心を』とは言わないだろう。


「でも、山田太郎は『一部の仕様を除いて』と言っていませんでしたか? その仕様がデスペナの可能性も……」

「ヒナタ、山田太郎は『一部の"機能"を除いて』と言っていた。"機能"と"仕様"では意味合いが異なる」

「と言うことは……?」

「恐らく変更された……と言うよりも削除された"課金"機能だ」


 コンソールから消えたシステムはログアウトとGMコール……そして、購入――課金アイテムの項目だった。


「え? そうなの?」

「他にも探せばあるかも知れないが……購入の項目は消えていた」

「うちはまだ課金アイテムには手を出していなかったけど、何か不都合あるの?」

「大きな不都合があるな」

「え? うちとかヒナは他のプレイヤーよりも不利になるの?」

「いや、不利益を被るのは全てのプレイヤーだ」

「えっと……どういうことでしょうかぁ? メイから課金アイテムに必須のアイテムは無いと聞いていたのですがぁ……」


 俺の言葉に、ヒナタとメイが困惑する。


 課金アイテムの中には、初心者やエンジョイ勢には不要とされていたが、トッププレイヤー或いは廃人と呼ばれているプレイヤーなら、必ずお世話になる課金アイテムが一つ存在していた。


「デスペナの仕様は変わらないが、課金アイテムが無くなったことにより――デスペナの在り方は大きく変わる」


 IGOのデスペナはスリーアウト制と呼ばれる、独自の仕様を用いていた。


 その仕様とは――


 一度死んだら、全てのステータスが半減した状態で復活する。これが、ワンアウトの状態だ。この状態は72時間続き、72時間後に解除される。


 ワンアウトの状態で死ぬと、正常な状態で復活する。これが、ツーアウトの状態だ。この状態は168時間続き、168時間後に解除される。


 ツーアウトの状態で死ぬと、そのキャラクターデータは消失(ロスト)する。文字通りの"死"だ。


 死んだらキャラクターが消失(ロスト)するゲーム。そんな仕様でビジネスは成立するのか?


 答えは――成立する。


 むしろ、IGOの稼ぎ頭となる仕様だった。


 一回一万円の課金アイテム――『鳳凰の輪廻』を購入すれば、全てのデスペナ状態を解除してくれたのだ。


 エンジョイ勢などは、半減したステータスで相応の狩場に場所を変えてIGOをプレイした。


 お金のないプレイヤーは、一度死んだらわざともう一度死んでから死ぬ危険性の極めて低い狩場に場所を変えてIGOをプレイした。


 そして、多くのトッププレイヤーたちは課金アイテムを購入して、デスペナ状態を解除していた。


 ワンアウト状態から回復する時間は現実世界の時間で72時間。IGOの中では216時間――9日間となる。


 ツーアウト状態から回復する時間は現実世界の時間で168時間。IGOの中では504時間――3週間となる。


 これでは迂闊に死ぬことは出来ないな……。


「えっと……つまり、復活の課金アイテムが買えないってこと?」

「そうなるな」

「その……スリーアウトになったら……どうなるのでしょうか……」

「どうなるんだろうな……。ひょっとしたら、元の世界に戻るのかも知れない……或いは――」

「死ぬのでしょうか……」

「その可能性は否定出来ない」


 以前の――ゲームだった頃の世界なら死んでも課金すればいいだけの話だった。


 一万円は決して安い金額ではなかったが、職業"ゲーマー"の俺から見れば必要な経費だった。


 故に、リスクを冒してでも突き進んだことも過去には何度もあった。


 課金アイテムの消失による、デスペナの在り方の変化。


 この現象が今後の行動に大きな変化をもたらすのは火を見るより明らかであった。

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