いざ、出発!
連携の練習を終えた翌日。
俺たちはIGO最初の難関――ミノタウロスを討伐すべく、第五階層を目指した。
第一階層のはじまりの町から第五階層の入口までは転移装置を使えばひとっ飛びだ。
第五階層はダンジョンをモチーフとしたフィールドで形成されており、マッピングさえ終わっていれば最奥にいるミノタウロスまでは6時間ほどの距離であった。
「いよいよですね! 第六階層には新しいタウンがあるんですよね?」
「タウンと言うか、ヴィレッジだな」
「ヴィレッジ? えっと、村?」
「一の付く階層には大規模の町――タウンが、六の付く階層には小規模な村――ヴィレッジだな」
俺はIGOの基礎知識をヒナタに伝える。
「ヴィレッジとタウンって何が違うの?」
「規模だな」
「具体的には?」
「ヴィレッジには必要最低限の施設しかない。例えば、宿屋とか冒険者ギルドとか道具屋。後は転移装置だな」
「武器屋とかは無いんだ」
「道具屋で少し扱っているが、買うに値する装備品は何もないな」
オフラインのRPGだったら、新たな町での武器屋巡りの楽しみの一つだったが、オンラインのRPGでは装備品は買うものではなくドロップするのが一般的だった。
「早く強い鎖鎌欲しいのになぁ」
メイははじまりの町で買える安価である『鉄の鎖鎌』を振り回しながらぼやく。
「装備品はドロップが基本。後は強い装備品だったら第十一階層のタウンから鍛冶工房が追加されるから、生産職のプレイヤーに依頼するしかないな」
「へぇ、そうなんだ。ハンドメイド品は楽しみ!」
「鎖鎌は人気のない装備品だから……扱える職人は少ないだろうけどな」
「うへ……慣れれば強い武器だと思うのになぁ」
メイのぼやきが止まらない最中……、
「気付いたか?」
「うん」
第六感とも言うべきか、言葉では言い表せない感覚が敵の存在を告げる。
その感覚の正体は――盗賊の固有スキルの一つ《索敵》だった。
更に意識を集中すれば、敵の数も見えてくる。
「敵の数は7体。十中八九ゴブリンだろう」
「《索敵》のレベルが上がれば敵の正体とかも分かるんだっけ?」
「そうだな。《索敵》のレベルが上がれば感知出来る範囲が増えて、敵の正体やレベルなども判断出来るようになる』
「ふぇ〜……盗賊は便利ですね」
「まぁ、パーティーに二人もいらないけどな」
「うわっ! それをリクが言う?」
俺と同じく盗賊のクラスであるメイが頬を膨らませる。
「後列のゴブリンはどっちが倒す?」
俺はメイの文句を無視して、作戦の確認に移る。
複数のゴブリンが行動している時は高確率で剣や斧を装備した近接ゴブリンと、弓を装備した後列ゴブリンが混在する。
「んー、どっちでもいいけど、今回はうちがヒナを守ろうかな」
「了解。なら、俺は後列のゴブリンを仕留める」
タンクのいないこのパーティーでは、俺とメイが好き勝手に飛び出したら、ヒーラーのヒナタが危険に晒される。
簡単な作戦を決めた俺たちはゴブリンが待ち構える奥へと足を進めた。
「「「ギィ! ギィ!」」」
近接ゴブリン5体と弓を構えた後列ゴブリン2体と遭遇。
後列は2体か。
――《アクセル》!
俺は自身の敏捷性を大きく加速させ、刹那の時間で近接ゴブリンの脇をすり抜け、後列ゴブリンとの距離を一気に詰める。
「ギ?」
――《スラッシュ》!
目の前に突然現れた俺を見て呆然としてしまった後列ゴブリンの首を刎ね飛ばす。もう一体の後列ゴブリンが慌てて弓を捨て、短剣を手に取ろうとするが……
「おせーよ」
俺は冷静に片手剣を横薙ぎして、後列ゴブリンの首を斬り裂いた。
これで残るは近接ゴブリン5体……っと、メイがすでに分銅で1体のゴブリンの頭蓋骨を粉砕しているから、4体か。
メイは分銅を振り回しながら近付こうとするゴブリンを牽制している。
俺は《アクセル》の効果が残っている加速した状態で、ゴブリンの背後に移動。左手に手にした短剣をその無防備な首筋へと突き落とす。
――《バックスタブ》!
ゆっくりと壊れた人形のように崩れ落ちるゴブリンの最期を確認することなく、魔力を練り上げる。
――《ウインドカッター》!
メイから見て一番遠いゴブリンが風の刃の餌食となり両断される。
「あ! ちょ! 残りはうちの獲物だからね!」
「へいへい」
このまま残りのゴブリンを始末しても良かったが、頬を膨らませるメイを見て俺は構えていた武器をしまう。
「いっくよー! ――《夏撃》!」
メイが投げつけた分銅が1体のゴブリンの頭蓋骨を粉砕。メイはそのまま分銅を引き戻しながら、生き残った最後のゴブリンへと突進。
「――《春切》! おしまいっと♪」
素早くゴブリンの懐に潜り込んだメイは、そのままゴブリンの首を鎌で斬り裂いた。
「お疲れさん」
「むぅ、リクが4体で、うちが3体かぁ……。次はうちが後列やるからね!」
「あいよ」
激しい競争心を抱くメイの反応を俺は軽くいなす。
「あ、あの……毎回思うのですが……私は必要ですか?」
俺もメイも回避を主体とした立ち回りをしており、幸か不幸か回避の技術に長けていたので"ヒーラー"の出番は皆無だった。
「ヒナタがいるから俺もメイも安心して戦えるんだよ。だよな? メイ」
「うんうん! そうだよ! リクの言う通りだよ!」
これまで何十回と告げたフォローの言葉をヒナタに送る。
「うぅ……本当ですか……?」
「ホント! ホント! ね! リク?」
「だな。さて、先へ進むぞ」
「おー!」
「え? ちょっと、誤魔化してないですよねー?」
俺とメイはヒナタの言葉から逃げるように、薄暗いダンジョンの中を奥へと進むのであった。
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