vsミノタウロス①
第五階層の攻略を開始してから6時間。俺たちは予定通り最奥へと辿り着いた。
目の前には幅5メートル、高さ10メートルを超える巨大な扉が立っていた。
「ミノタウロスはこの扉の奥だ」
「いよいよ練習の成果をみせるときね!」
「うぅ、緊張しますね」
俺の言葉にメイは獰猛な笑みを浮かべ、ヒナタは不安げに震える。
「作戦は覚えているな?」
「リクが合図するまで攻撃禁止ね!」
「は、はい! 頑張ります!」
俺の確認の言葉に二人は力強く頷く。
「耳栓準備」
俺の合図に合わせて二人が耳栓をする
「それじゃ、行くぞ」
俺は言葉と共にジェスチャーで扉を指差す。首肯する二人を確認した後、俺は目の前の巨大な扉を押し開けた。
「(グォォォオオオオ!!)」
扉を開けたと同時に、耳栓をしていても僅かに聞こえる咆哮。聞こえなくても大気の震えが、その声量の大きさを俺たちに伝える。
目の前には巨大な戦斧を担いだ5メートルを超える半牛半人の階層主――ミノタウロスが咆哮をあげていた。
「ハッ! 聞こえねーよ! ――《ウインドカッター》!」
俺は挨拶代わりに風の刃をミノタウロスへと放ち、すかさず次の魔法を練り上げる。
――《アクセル》!
自身の敏捷性を大きく加速させ、刹那の時間でミノタウロスとの距離を詰める。
ここは安全策を取ろう。
俺はこちらから攻撃を仕掛けずに、ミノタウロスからの攻撃を待つ。ミノタウロスの右肩の筋肉が僅かに動いた。
「(ブォォォオオオ!)」
ミノタウロスが俺よりも大きな戦斧を俺へと振り下ろす。攻撃を予測した俺は振り下ろされた戦斧を軽いバックステップで回避。戦斧と地面が接触した瞬間を狙って、伸び切った腕を足場に跳躍しミノタウロスの顔面に斬撃を放ち、
こいつはオマケだ。
着地と同時にミノタウロスの足の甲に片手剣を突き立てる。
もう一発イケるな。
バックステップで軽く距離を取ると、そのまま片手剣を突き出して、ミノタウロスの足を刺突した。
もう一発……いや、安全策を取ろう。
俺は再びミノタウロスに意識を集中。今度は右腕の筋肉が僅かに動いた。
「(ブォォォオオオ!)」
ミノタウロスは戦斧を横薙ぎに払うが、戦斧は屈んだ俺の頭上で空を切り、俺はすかさずミノタウロスの足の間を潜り抜け、背後からミノタウロスの腰を蹴って高く跳躍する。
――《バックスタブ》!
「(ブモォォォオオオ!?)」
攻撃力が最も低い短剣とは言え、ダメージ倍率が初期スキルでは最も大きい《バックスタブ》。効果は絶大でミノタウロスは悲鳴を上げた。
悶ている間も背後から数回攻撃を仕掛け、着実に俺へのヘイトを蓄積。ファーストアタックから始まり、数々の攻撃を命中させた結果、ミノタウロスの殺意は俺へと集中した。
こんなもんか?
俺は左手を大きく天へと掲げ、静かに振り下ろす。振り下ろされた左手の動き――"攻撃"の合図を確認したメイとヒナタが、後方からの攻撃を開始した。
ミノタウロスとの戦い、第二幕が幕を開けた。
大気を震わす振動と共に後方から分銅が飛来し、ミノタウロスの角へと命中。その後、水の弾丸がミノタウロスの顔に命中する。
俺はミノタウロスの動きに注意しながらも、ヘイトを出来るだけ稼げるように、果敢に攻撃を続けようとするも……、
ミノタウロスの攻撃は単純なパターンなれど一撃喰らえば――死。
程よいスリル……などと、この封鎖された世界の中では戯言は言えない。俺は今まで以上に慎重にミノタウロスの動向を確認。
結果として、想定よりも早くヘイトがメイへと移ってしまう。
ミノタウロスは視線を俺から外し、離れた距離から分銅を飛ばすメイへと移り変わる。ミノタウロスの右脚の筋肉が僅かに膨張し、大地を踏みしめる。
俺はタイミングを見定め、左手を大きく横へと振る。すると、俺の手の動きに合わせたようにミノタウロスはメイへと突進し始めた。
「(ブモォォォオオオ!!)」
メイとヒナタは俺の合図に合わせて素早く"散開"、ミノタウロスは誰もいない空間へと突っ込んでいく。
――《ウインドカッター》!
俺はミノタウロスから置き去りにされた場所からミノタウロスの背中へと風の刃を放ち、
――《アクセル》!
刹那の時間でミノタウロスとの距離を再び詰めた。
「お前の相手は俺だよ」
俺は再びヘイトを稼ぐため攻撃を続けるのであった。
◆
ミノタウロスとの戦闘から30分。
全員の行動がパターン化され、半ば作業へと移行したその時――
32回目となる分銅の命中を受けて、遂にミノタウロスの凶悪な角の付け根が粉砕された。
「(ブモォォォオオオォォォ!?)」
角の粉砕はミノタウロスにとってどれほどの痛みなのだろうか、ミノタウロスは頭を抑えてその場で蹲(うずく)る。
「総攻撃を仕掛けろ!」
俺は長年の習慣から届かないはずの声を出し、振り上げた左手をミノタウロスに向けて振り下ろす。
ミノタウロスとの戦い、最終幕が幕を開けたのであった。
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