第三一階層

 整然と建ち並ぶ様々な種類の施設。舗装された幅広い通路。第三一階層のタウン――4番目の町は、ある一点を除き3番目の町と街並みが似通っていた。


「ねね、何かプレイヤーの数少なくない?」


 メイがキョロキョロと周囲を見渡し、3番目の町との違いに気付く。


「ここは中階層の中間地点だからな。行商をしたいのなら、人が一番多い3番目の町に行く。より良い素材や、高い経験値を稼ぎたいなら5番目の町――第四一階層のタウンを拠点にする。つまり、中途半端だからプレイヤーの数は一番少ないってことだな」

「なるほどね。あれ? 前に野良募集の話とかしていたじゃん? ここでパーティー募集をするのって難しいんじゃない?」

「少ないと言っても……IGOの世界は広い。相応の数がいる。それに、この町は中間地点だ。近しいレベルのプレイヤーが多いからパーティーが組みやすいかも知れないぞ」


 プレイヤーの数が多過ぎると、そこに集まるプレイヤー間のレベルの格差や目的が多様化してしまい、逆にパーティーを組みづらくなる……と言う事態があった。


「あのぉ……本当に野良募集? 知らない人とパーティーを組むのですか?」


 ヒナタが不安げな声を漏らす。


「ヒナ、大丈夫だよ! 流石にここまで来れば直結厨とかいないから! ……いないよね?」

「んー……俺は見ての通り男だから、そういう誘いを受けたことは無いが……クロは知ってるか?」

「ああいう輩は初心者狙いが多いにゃ。ここまで来れば、おいそれいないとは思うにゃ」

「不安なら、ユリコーンを出しておけばそんな輩はぶっ刺してくれるだろ」

「にゃはは……違う意味で問題になりそうにゃ」

「今まで通りみんなで冒険するのはダメなのですか?」


 ヒナタは最初の野良募集がよほどトラウマだったのか、沈んだ声で問いかけてくる。


「んー……そこまで言うなら別に構わない――」

「ダメにゃ!」


 無理に野良募集をしなくてもいいと言おうとしたが、クロが強い口調で拒絶する。


「え? クロちゃん……どうしてですか?」

「第四〇階層と第五〇階層はスイッチダンジョンにゃ」

「「「スイッチダンジョン?」」」


 クロの言葉にヒナタ、メイ、ヒロアキの三人が首を傾げる。


 あぁ……なるほどね。第四〇階層は力業でどうにでもなると思っていたが……第五〇階層は厳しいか。


「スイッチダンジョンは、最奥の部屋に辿り着く為にはとある仕掛け――スイッチを同時に押す必要があるダンジョンにゃ」

「えっと……同時にってことは、ダンジョン内で別れて行動するってことですか?」

「そうにゃ。しかもスイッチの前には守護者がいるにゃ。第四〇階層だったら、リクにぃがソロで守護者を討伐出来る可能性もあるけど……第五〇階層はスイッチが3つあるから厳しいにゃ」


 ソロで守護者討伐かぁ……。昔はツルギとどっちが早く守護者を討伐出来るか競い合ってたな。


「えっと……どういうことでしょうか?」

「IGO――この世界の第五一階層まではチュートリアル的な役割を担っているにゃ」

「えっと……以前にリクさんが教えてくれたミノタウロスはパーティーを組む必要性を、蛟はパーティープレイの役割を教える存在といっていた話でしょうか?」

「そうにゃ。第四〇階層は8人パーティーを、第五〇階層は12人パーティーを――つまり、小規模なレイド戦を推奨するチュートリアルになっているにゃ」

「うへ……ってことは、固定メンバーを12人まで増やさないとダメってこと?」

「違うにゃ。色々な説はあるけど……第四〇階層と第五〇階層は旅団への加入を推奨する為のチュートリアルと言われているにゃ」


 偶然にも、低階層に『百花繚乱』という由々しき旅団が存在していたが……そもそも旅団に加入するメリットとは?


 『百花繚乱』は旅団割引や、狩場や素材の独占と言ったハラスメント行為に抵触するメリットが存在していた。しかし、多くの旅団には当然そのようなメリットは存在しない。


 旅団に加入するメリットは幾つか存在していた。


 一つは、旅団ホームの設備が自由に使えること。個人で工房などの設備を整えるのは厳しいが、ある程度の規模の旅団であれば充実した設備を整えることが出来る。


 一つは、旅団クエストが受注できること。但し、旅団クエストの消化は一部のプレイヤーからは『ノルマ』と称されデメリットになっているとも言われている。


 そして、最大のメリットは――人材の確保。


 旅団という一種のコミュニティに所属することにより容易にパーティーを組むことができるし、クロのような優秀な生産職が旅団メンバーにいれば、容易に鍛冶を依頼することもできた。


 クエストによっては多くのプレイヤーを集める必要があるときは、募集状況が不安定となる野良募集より旅団からメンバーを集ったほうが効率的だった。


 強制されているわけではないし、精神的な意味合いが強いかも知れないが、同じ旅団に所属しているプレイヤー同士、助け合いの精神が芽生えるのだ。


 事実、第四〇階層のスイッチダンジョンを機会に旅団に加入するプレイヤーは多く、旅団側も助けることを条件にスカウトしていた。


「え? どうするの? どこかの旅団に所属するの?」

「手っ取り早い方法はそうなるけど……ボクも多分リクにぃも旅団に所属する気はないにゃ」


 俺はクロの言葉に静かに頷く。


「うちもないよ!」

「わ、私もないですよ!」

「私の主はリク殿一人故!」


 三人も慌てて拒否反応を示す。


「にゃはは……わかっているにゃ。そうなると、冒険者ギルドで募集するしか方法ないにゃ。だから、メイねぇとヒナねぇとヒロにぃには色々なプレイヤーと交流を深めて欲しいにゃ」

「フレンドを作れってこと?」

「平たく言うとそうなるにゃ。最終手段として、傭兵のような真似事をしているプレイヤーを雇う方法もあるけど、どちらにせよメイねぇたちは色々なプレイヤーのスタイルに慣れたほうがいいにゃ」


 傭兵とはすでにクリア済みだが、報奨金と引き換えに階層の踏破を手助けしてくれるプレイヤーは一定数存在しており、先へ進みたい生産職のプレイヤーから重宝されていた。


「色々なプレイヤーのスタイルかぁ」

「気付いていると思うけど、リクにぃのプレイヤースタイルは規格外にゃ。ついでに、メイねぇのスタイルも奇抜な類にゃ」

「えっ? うちもなの!?」

「そういう常識を学ぶためにも野良パーティーに参加することをオススメするにゃ」

「りょーかい! 頑張るよ!」

「私も頑張ります!」

「承知! しかし、私の心はいつでもリク殿の元にありますぞ!」

「それじゃ、冒険者ギルドに行くとするか」


 冒険者ギルドへと向かうのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


旅団(ギルド、クラン)に加入するメリットって何だろう? と、ふと疑問に思いながらの執筆となりました。私自身はオンラインゲームでそういう要素があれば迷わず加入(もしくは立ち上げ)をするタイプですが……旅団戦とかでもない限り、あまりメリットってないのか? と書いていて思ったりしました。(最大のメリットは旅団チャットなのかなぁ?)


何か、あとがきも本文もまとまりない感じになってしまったかも……(汗

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