クラスアップ②

「二人はクラスアップ先の基本職は決めたのか?」


 俺は答えが分かっている質問を二人にする。


「はい! 私は僧侶にクラスアップする予定です!」

「うちは盗賊だよ! って、リクならわかってたでしょ?」


 メイは俺へとジト目を向ける。


「まぁな」


 メイが愛用している武器は鎖鎌だ。鎖鎌を得意としている基本職は盗賊しかない。ヒナタはヒーラーを希望していると聞いていたので、選択肢は僧侶となる。


「リクはどうするの? 片手剣だと選べる基本職多いでしょ?」

「短剣とボーガンも使えるので、選り取り見取りですね!」

「そうだな。二人は俺が選ぶ基本職は何だと思う?」


 もったいぶるつもりは無かったが、二人があまりにも楽しそうに質問するので回りくどい答えを返した。


「ふふん。ズバリ――剣士ね!」

「私は魔術師だと思います! リクさんの魔法はスペシャルですから!」


 メイもヒナタも得意気な表情を浮かべ、答える。


「残念! 正解は――盗賊だ」

「え? うちと一緒?」

「わわっ! 私だけ仲間はずれなのですか!?」


 俺が将来を見据えて選んだ基本職は盗賊だった。


 剣士を選択しても、ある程度の戦力として計算出来るプレイヤーになれる自信はあった。


 しかし、それではダメなのだ。


 俺の未来予想図は……?


 例えば、未知なる階層である第八〇階層に到達した時――俺は誰と共に戦っている?


 ヒナタ? メイ?


 この二人と共に戦っている可能性も大いにあり得るが、それ以上に可能性があるのは【天下布武】のメンバーだ。


 風属性の俺が剣士ルートを選んだら、どうのような成長を遂げたとしても……劣化版のツルギにしかなれない。


 理想は現在抜けた穴でもある――ソラのポジションを埋めることだが、風属性のリクでは火属性のソラのポジションを埋めることは出来ない。


 戦士系のルートを極め、全ての敵を破壊するSTRに特化したアタッカー――ソラ。


 剣士系のルートを極め、全ての敵を斬り伏せるSTRに特化したアタッカー――ツルギ。


 俺とツルギは、【天下布武】が誇る二枚看板のアタッカーだった。


 風属性であるが故に、STRでは火属性に劣るリクが唯一誰にも負けないモノは――AGIだ。


 速さよりもタイミングが重要と言われるIGOでは――AGIは死にステータスと言われている。


 しかし、俺はAGI特化に活路を見出してスペシャリストの集団である【天下布武】のメンバーの間に割って入るつもりだった。


「まぁ、メイと同じとは言え方向性はかなり違うだろうな」

「方向性ですか?」

「メイは盗賊のあと……忍者、シャドウマスターと進むんだろ?」


 サービス開始と同時に始め、常に最前線を突っ走るプレイヤーならまだしも、後発隊のプレイヤーは最初から将来を見据えて基本職を決めるのが常識だ。


「まぁね。リクは?」

「俺はトリックスター、ジョーカーのルートに進むつもりだ」

「え? トリックスターはスキルは優秀だけど、将来性がないって話じゃなかった?」

「その将来性がないと揶揄されている最上級職の一つが――ジョーカーだな」

「ジョーカー? そういえば、どの攻略サイトを見ても情報がほとんど空白だったけど……強いの?」

「どうだろうな? 実際に運用しているプレイヤーは皆無だが、やり方次第では強いと思う」


 俺が唯一無二の、誰にも負けないプレイヤーになる可能性があるとしたらジョーカーのとあるスキルに賭けるしかなかった。


「むぅ……話についていけません」


 クラス談義で盛り上がっている俺とメイを見て、IGOの知識に疎いヒナタが頬を膨らませる。


「悪い、悪い。まぁ、俺とメイは同じ盗賊だけど、将来性は全然違うってことだ」

「よくわかりませんが、そうみたいですね」

「ヒーラーは、そんなに難しく考えなくていいから、いいよね」

「むぅ……メイはお姉ちゃんのことバカにしてます?」

「にゃはは、してない! してないよー」


 メイが膨れるヒナタを楽しそうにからかう。


「とりあえず、クラスアップに行くか」

「はい!」

「おー!」



  ◆



 クラスアップをするのは、それぞれの属性を祀る神殿だ。


 俺は水属性のヒナタ、闇属性のメイと別れて一人風の大神殿へと向かった。


「よくぞ戻られた風の子リクよ。本日は当神殿に何をお望みかな?」


 大司祭が俺に問いかける。


「クラスアップを望みます」

「風の子リクの望みを受け入れます。風の子リクには戦士、剣士、騎士、盗賊、狩人、魔術師、職人の道に光が見えます。何を望まれますかな?」

「盗賊を望みます」

「一度進んだ道を戻ることは叶いません。風の子リクよ、本当に盗賊の道を望みますか?」

「はい。望みます」

「風の子リクの望みを受け入れます――汝の歩む道、無限の扉の先に栄光あれ!」


 大司祭が俺の頭に手をかざすと、俺は温かい光に包み込まれた。


『盗賊にクラスアップしました』


『名前 リク

 種族 ニューマン

 性別 男

 属性 風

 クラス 盗賊

 レベル 10

 HP  360

 MP  100

 STR 41

 VIT 18

 AGI 117

 RES 34

 スキル

 盗賊の心得【1】

 →索敵【1】

 →解錠【1】

 風魔法【3】

 →ウィンドカッター【5】

 →アクセル【3】

 →ウィンドヒール【1】

 片手剣【3】

 →スラッシュ【5】

 →ムーンスラッシュ【3】

 →ソニックスラッシュ【1】

 短剣【3】

 →パリィ

 →バックスタブ【5】

 →ライジングスラッシュ【2】

 ボーガン【1】

 →速射【2】

 →ファイヤーショット【1】

 →ウォーターショット【1】 』


 俺はステータスを確認し、高過ぎるAGIと低過ぎるVITに苦笑するのであった。

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