vs吸血鬼③
吸血鬼との戦いからおよそ30分。
吸血鬼がヒロアキを攻撃したタイミングに合わせて、攻撃を仕掛ける――カウンター主体の立ち回りで吸血鬼の体力を着実に削り取った。
吸血鬼が着用していたタキシードも今では無残な姿へと変わり果てている。
そろそろか?
吸血鬼は人型であるが故に、攻撃を命中させづらいが体力は同ランクの大型のモンスターより劣っていた。
「ぐぬぬ……そうだ! そこの娘? 我の眷属に迎え入れてやろう! まずは忠誠の証としてそこの無粋な――」
「お断りだよ! ――《夏撃》!」
肩で息をする吸血鬼は何を血迷ったのか、メイへと降伏を勧告するが、当然の如く吸血鬼の勧告を拒絶したメイは分銅を顔面へと投擲し、そのまま《風威》を炸裂させる。
「ハァァァアン!?」
――《ファング》!
――!?
追撃の《ファング》を仕掛けるも、素早く振られた短剣は虚しく空を切る。
「ハッハッハ! 愚かな! 愚かな下等種共よ! 貴様らの攻撃は私には――ブハッ!?」
――《ウインドウストーム》!
全身を霧と化し逃亡を図ろうとする吸血鬼だったが、無効化出来るのは物理攻撃のみ――俺の放った一対の短剣から巻き起こされた暴風が吸血鬼を包み込む。
「好機だ! 総攻撃を仕掛けろ!」
俺の合図を皮切りに、霧から実体化し墜落する吸血鬼に仲間たちが一斉に襲いかかる。
「いっけぇぇえ! ――《パワースロー》!」
メイの投擲した蛇王戦輪が墜落する吸血鬼に命中、
――《ライジングスラッシュ》!
俺は着地地点へと回り込み墜落してくる吸血鬼を斬り上げ、
「いくにゃ! 《パワースイング》!」
クロの振り回した斧の一撃を受け、吸血鬼は吹き飛ばされる。
「ぐぬぬ……き、貴様ら……いくら我が最強の存在とは言え……よってたかって攻撃をして……恥ずかしくは――」
「ねーよ! ――《ファング》!」
ボロボロになりながらも戯言を抜かす吸血鬼を短剣で切り裂くと、
「リク!」
メイの声に反応して素早くサイドステップでメイの導線を確保。
「――《夏撃》!」
メイの投擲した分銅が吸血鬼の顔面を打ち砕くと、メイは素早く吸血鬼へと接近し鎌を振るう。
「弾けろぉぉおお! ――《風威》!」
メイの振るった鎌は吸血鬼を覆った荒れ狂う風を断ち切り、爆発を引き起こした。
「ぐ……は……母なる闇よ……今……還ります……」
吸血鬼は辞世の句を言い残しながら地に倒れ、やがて光の粒子となって霧散した。
「ぷはっ! 疲れたぁ……」
光の粒子と化して消え去った吸血鬼を見届けると、メイは疲労からその場で座り込む。
「強かったですね」
「強敵でしたな」
常に回復魔法を唱えていたヒナタと、強烈な攻撃を受け続けていたヒロアキにも疲労が色濃く見える。
「お疲れにゃ!」
「お疲れさん」
クロは平然を装ってはいるが、額には汗が滲んでおり、かくいう俺も多大な疲労に襲われていた。
「強かったねー! 勝てないプレイヤーも多いんじゃない?」
「あいつの弱点は炎属性だからな。大剣の戦士だったら力押しで乗り切ろうと思えば……乗り切れるからな」
「炎属性か光属性の魔法使いがいても大ダメージを与えれたにゃ」
今回の仲間たちの疲労の要因は――火力不足だった。火力が低いと、戦闘は長引きタンクとヒーラーの負担は増える。
ソラで挑んだ時は、力任せに大剣でダメージを与えて吸血鬼を討伐していた。
STR特化の火属性。
風属性も悪くはないと思ってきたが、やはり火属性のアタッカーと比べるとまだまだだな……と、実感するのであった。
「それじゃ、宝箱を開けるとするか」
「はーい!」
仲間たちに声を掛け、吸血鬼が消え去った場所に現れた宝箱の前へと移動した。
「それじゃ、開けるぞ?」
俺は仲間たちに断りを入れ、宝箱を開放した。
宝箱の中に納められていた無数のアイテムが光の粒子となって俺たちの中――アイテムインベントリーへと収納される。
「何があるかなー?」
「階層主を倒したのは今回で4回目ですけど、毎回ワクワクしますね!」
「ボスドロップは冒険の醍醐味にゃ!」
仲間たちの楽しそうな声を聞きながら今回の報酬品を確認する。
――!
んー……当たりなのかな?
素材を除いたら目星しいアイテムは……『ブラッディアーマー』と『ハイドクローク』だろうか。
『ブラッディアーマー』は、受けたダメージの一部を敵に反射する鎧で、『ハイドクローク』は隠密性を高める漆黒の服だ。
「リク、これいる?」
メイは一本の長剣を俺へと差し出す。
「『ブラッディソード』か……敵の生命力を吸収する長剣だが……今の俺は短剣しか使う予定はないからなぁ」
メイが差し出した『ブラッディソード』は片手剣使いから見れば垂涎の武器となるが……俺は短剣一本に絞ると決めていた。
「……だよね。ヒロ、これいる?」
続いて、メイはヒロに禍々しい深い朱色の兜をヒロアキへと差し出す。
「お、メイは『ブラッディヘルム』をドロップしたのか。ヒロ、せっかくだからコレも渡すよ」
俺はメイに便乗する形で『ブラッディアーマー』をヒロアキへと差し出す。
「むむ? よろしいのですか?」
「このパーティーだとまともに扱えるのはヒロだけだからな」
「うちも装備出来ないからいいよー」
「リク殿! メイ殿! 有り難く頂戴致します!」
ヒロアキが俺とメイへと深く頭を下げると、
「あ! 私のコレもどうぞー!」
俺たちのやり取りを見ていたヒナタが慌てて禍々しい深い朱色の脛当て――『ブラッディレガース』をヒロアキへと差し出す。
「にゃにゃ! うぅ……ボクが『ブラッディガントレット』をドロップしていたら……ブラッディシリーズが揃ったのに無念にゃ……」
俺たちのやり取りを見たクロが呻き声を漏らす。
「そんなに上手くいかないだろ。クロとヒロは何か目ぼしいアイテムはあったのか?」
「ボクの目ぼしい装備品は……『ブラッディレガース』にゃ。ヒナねぇと被ったにゃ」
「私は……この盾でしょうか?」
クロは耳をパタンと垂らして落ち込み、ヒロアキは禍々しい深い朱色の盾――『ブラッディシールド』を取り出した。
「お! ブラッディシールドは反射率も高いし、当たり装備だな! ヒロ、おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「ヒロにぃ、おめでとうにゃ! ちなみに、『闇の帳』か『ブラッディコア』を拾った人はいるかにゃ?」
クロは吸血鬼がドロップするレア素材を入手した者がいないか確認するが、全員が首を横に振る。
「今回のドロップ運はイマイチにゃ!」
「レアアイテムは簡単に拾えないからレアアイテムなんだよ」
「ふにゃぁ……」
「それじゃ、第二一階層へ行きますか!」
「「「おー!」」」
俺たちは第二一階層へと続く扉をくぐり抜けるのであった。
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