第七一階層

 この世界が外部から遮断された翌日。

 

 私たちは周囲のプレイヤーに喧伝後、第七一階層へと向かいました。

 

 第七一階層のモチーフは――水でしょうか。

 

 白や黄色や青色……様々なカラフルな建物が建ち並び、街の至るところが通路……ではなく、水路となっており、たくさんの船が行き交ってました。

 

「おや? まさか本物の冒険者かい?」

 

 周囲を見回していると、手漕ぎボードに乗った年配のNPCが近付いてきました。

 

「はい。初めまして」

 

 IGOのNPCに搭載されている自己学習型AIは非常に性能が高く、人と何ら変わりのない反応を示します。なので、NPCだからと侮っていると、知らぬ間に敵対心が増幅され、クエストのみならず普通の暮らしも困難になります。

 

「おぉ! ついに我らが街にも冒険者が! おっと、すまねぇ……ようこそ水の都アクアパレットへ! 我々は貴方がた冒険者を歓迎しますぞ!」

 

 話を聞けば、僅かな手間賃を払えばタウンの至るところに存在する船頭が目的の施設まで運んでくれるみたいです。私たちは、声を掛けてくれたNPCにお金を支払い、タウンにある主要施設を順に回りました。

 

「しっかし、毎回船で移動となると……拠点には向かないタウンだな」

「そうかなぁ? 手間賃は10Gって格安だし、歩いて移動しなくていいから楽じゃない? 私はこの街気に入ったよぉ!」

「移動のためにインナーを新調しようぜ! Foooo!」

「泳ぐ気かよ!」

「イェア! 水の都ならば……――! 貝殻ビキニか!」

「私は絶対に手伝わないからね!」

「ノンノンノン! 我らはソウルメイトだろ? 安心しろ! ミントの貝殻ビキニが出るまで吾輩も付き合う――」

「行かないから! 絶っっっっ対に行かないからね!」

「ハッハッハ! ツン期の後に訪れるのは……?」

「デレねーよ! あんたにだけは絶対にデレないから!」

 

 主要施設を一通り確認した私たちは敵の強さを確認するためにフィールドへと向かうことしました。

 

 フィールドに生息していたのは、紫色の巨大なカニ型のモンスターと、虹色に発光するクラゲ型のモンスターでした。

 

 カニ型のモンスターは甲羅が非常に硬く、また魔法に対しても高い耐性を備えており、クラゲ型のモンスターは攻撃、補助、回復と多種多様な魔法を使用してきました。

 

「クラゲはともかくカニが面倒だな」

 

 IGO内でトップクラスの火力を有するツルギさんが愚痴をこぼします。

 

「魔法も全属性使ったけど……どれも効きはイマイチだよぉ」

「ハッハー! 奴の弱点は打撃……! すなわち素手!! エビバディ! 脱ごうぜ!」

「格闘スキルねーよ!! ……ってか、打撃だったら、ソラかよ」

 

 ソラさんの得意武器である大剣は、斬属性と打属性の攻撃に優れていました。ツルギさんの刀は、斬属性と突属性には優れていますが、打属性を苦手としています。

 

「カニとクラゲって始めたばっかりの頃の狩り場を思い出すね!」

「あぁ……海岸のカニ狩りか。そういや、ソラがカニを乱獲していたな」

 

 メグさんの言葉を聞いたツルギさんが、昔を懐かしんで微笑みます。

 

「ここは狩り場にはならない。先を急いだ方がいいかもな」

「そうですね」

「とりあえず、適当に素材を集めたら切り上げるか」

 

 私たちはマッピングをしつつ、新素材を集めることにしました。

 

 

 12時間後。

 

 久しぶりの未開の地の冒険は楽しく、あっという間に半日以上が過ぎ去りました。

 

「このまま進みたいですが、今回は下見と伝えてあります。一旦馬車で帰還しましょう」

「ログアウトって訳にもいかねーから、交代で寝ながら帰るか」

「そうなりますね」

 

 私は揺られる馬車の中で眠りに落ちるのでした。

 

 

  ◆

 

 

 3時間後。

 

 私たちは7番目の町に帰還しました。

 

「おや? 冒険者様、おかえりなさい」

 

 町に戻ると、私たちプレイヤーがよほど珍しいのか年配のNPCの男が声を掛けてきました。

 

「おう! ただいま戻ったぜ!」

「ご老人、この階層に関する特別な情報とかはないか?」

 

 ツルギさんが満面の笑みで挨拶を返すと、セロさんがNPCに質問をしました。

 

 時折、このような質問をするとヒントをもらえたり、上手くいけば特別なクエストが発生する場合があります。

 

「情報ですかぁ……冒険者様が喜ぶような情報はありましたかなぁ?」

「なんでもいいぜ! この階層の秘密とかねーか?」

「秘密ですかぁ……ここは第七世界の中で最も狭き階層ゆえ、次なる階層へ行くなら舟渡しはできますが、この階層と秘密と――」

「は? ちょっと待て。もう一回言ってくれないか?」

 

 ツルギさんはNPCの言葉を遮り質問を投げかけます。

 

「ふむ。『ここは第七世界の中で最も狭き階層ゆえ、次なる階層へ行くなら舟渡しはできますが、この階層と秘密と』ですかな?」

「お、おう! 舟渡しできるってのはどういう意味だ?」

「そのままの意味ですな。この川を上れば次なる階層へ向かう階段に着きますじゃ。今日は遅いゆえ、明日でよければ連れていますぞ」

「わかった。ありがとう。明日また声をかけさせてもらう」

「承知しましたぞ。冒険者といえど船賃は頂きますぞ」

「いくらだ?」

「1人1,000Gですな」

「わかった。用意しておく」

 

 ツルギさんが礼を告げるとNPCは立ち去りました。

 

「だとよ。どうする?」

「ん-、1人1,000Gで次の階層に行けるなら格安だよねぇ」

「先日、山田太郎の言っていた踏破が何を指しているのかが、問題ですね」

 

 私は踏破という言葉の意味を、攻略――次の階層へ行くことと認識していましたが、こんなに簡単に達成できるのであれば、認識が違う可能性も生じます。

 

「仮に踏破がマッピングを埋めることを指していたとしても、ゴールまでショートカットは開いていたほうがいいんじゃないか?」

 

 私の言葉にセロさんが答えます。

 

「そうですね。今日は旅団ホームに戻り簡単な報告をして、明日第七二階層に向かうことにしましょうか」

「Fooooo! 迷わず行けよ! 行けばわかるさ! ヒーハー!」

「あんたは少しは悩めっつーの!」

 

 私たちは第七一階層を後にして旅団ホームへと帰還したのであった。

 

 

  ◆

 

 

 翌日。

 

 私たちは再び第七一階層を訪れ、先日出会ったNPCに第七二階層へと続く階段までの舟渡しを依頼。

 

 川を上ること8時間。

 

「うわ! 本当に着いちゃったよぉ!」

 

 私たちは第七二階層へと続く階段の前に到達した。

 

「どうする? とりあえず、ショートカットを開けておくか」

「そうですね」

 

 私たちが第七二階層へと続く階段に足を踏み入れたその時――

 

「こんぐらちゅれーしょん♪」

 

 人を小馬鹿にしたような声音と共にスーツ姿の眼鏡を掛けた知的な男性――山田太郎のホログラムが出現したのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます。


今話がなんと200話目となります!(やったね!)

ここまで楽しく書き続けられているのは、読者の皆様のお陰です。ありがとうございますm(_ _)m


せっかくなので小話を!


ソラと【天下布武】が再会したとき……どのような物語が紡がれるのでしょうか……


① 仲裁→【天下布武】合流ルート

② 対決→天下布武 vs 黄昏ルート

③ 新団体立ち上げルート


どのルートでも(書いてて)楽しそうだなぁと、執筆しています(笑)


P.S.こっそり張った伏線(○○の正体)がモロバレなのは少し驚きました!(ぉぃ


今後も無限世界のトップランカーをよろしくお願いしますm(_ _)m

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