グロー加工
「《グロー加工》は、装備品に成長の特性を付与する加工にゃ」
「成長の特性?」
「簡単に言えば、装備品が使い込むほどレベルアップするにゃ」
「え? めちゃいいじゃん!」
「むむ? 成長する装備品は魅力的ですが……何故、クロ殿は『死に加工』と言ったのですかな?」
「そういえば、リクさんもマニアックと言っていましたね」
ヒロアキが先程のクロの言葉に、ヒナタは俺の言葉に違和感を覚える。
「幅広く受け入れられなかった理由の1つとして、成長はするが……その成長速度はかなり遅い」
「でも、成長するんでしょ?」
「成長はするけど、《グロー加工》を施すと初期値が半減するにゃ」
「半減?」
「そうにゃ。例えば、攻撃力100のロングソードを《グロー加工》すると、攻撃力が50になるにゃ」
「ダメじゃん!」
「最終的には1.25倍の125になるけどな」
「正確には、武器の上限レベルは10にゃ。レベルが5までは、1上がるたびに元の数値の0.1分、攻撃力が上がるにゃ」
「レベル5になれば、元通りになるのですね」
「ヒナねぇ、正解にゃ♪ レベル6からは元の数値の0.05分攻撃力が上がるにゃ」
「つまり、レベル10になれば1.25倍になるのですな」
「ヒロにぃ、正解にゃ♪」
「最終的に1.25倍になるなら凄いんじゃないの?」
「確かに凄いが……ゲームの頃の感覚で言うと、毎日ログインして最前線で使い続けても……レベル10になるのは半年くらいかかる」
「え? それって『炎帝のソラ』様基準?」
「まぁ、そうなるな」
「うわ……キッツいね」
「んで、半年も経過すると1.25倍まではいかないかもしれないし……ひょっとしたら余裕で超えるかもしれない装備品が新たに実装される」
オンラインゲームは時間と共に、あるいは攻略深度と共に強い装備品が登場する。
つまり、半年もあれば必死に育てて完成した装備品より高性能の装備品が現れる可能性の方が高かった。
故に、《グロー加工》は『死に加工』と揶揄された。
「後、《グロー加工》をするとオーナー登録されてトレード不可になるのも不人気の理由だにゃ」
「成長する武器とかカッコいいのに、オンラインゲームとは相性が悪いのかぁ」
「オンラインが故に常に世界は進化し続けるからな。まぁ、長期間使うのが確定しているなら《グロー加工》はありだろうな」
「運が良かったらレベルアップ時に特殊能力も付与されるにゃ」
「という訳で、メイたちがそれでいいのなら……俺は装備品を譲渡しようと思うが、どうだ?」
「ボクも譲渡するにゃ」
「んー、レアドロの楽しみが無くなるのは寂しいけど、今はそれ以上に早く強くなりたいからね!」
「はい! 譲り受けた装備品のお返しは必ずします!」
「リク殿とクロ殿より頂いた装備品は、命を賭した奉公にてお返し致す!」
「前も言ったかもしれないが……倉庫整理の意味合いもあるから、気負うことなく受け取ってくれ」
「断捨離にゃ」
「んーと、この部屋だと狭いから、訓練室でいいか。そこに装備品を並べるから、好きなのを選んでくれ」
「ボクも持参した装備品を並べるにゃ」
俺たちは譲渡するアイテムを選別すべく、地下の訓練室へと向かった。
◆
ふむ、我ながらモノを捨てられない性格だな。
俺は倉庫の中に押し込んでいたアイテムの数々を見て、辟易とする。
「ふぅ……。カテゴリー別に並べられたな」
「改めて見ると、凄い量なのにゃ」
「うっわ……凄い量だね」
「お店よりも種類が豊富です」
「絶景ですな」
ようやく並べ終わり一息付くと、
――♪
来客を告げるシステム音が鳴り響き、
『マイです。上がってもよろしいでしょうか?』
玄関に備え付けたインターホン越しにマイの声が聞こえてきた。
「マイ? 今地下室にいるから、そのままあがってくれ」
俺はシステムコンソールを操作し、家の鍵を解錠した。
「タイミングはバッチリでしたか。良かったです」
「ん? どうした?」
地下の訓練室に並べた装備品の数々を目にしたマイは、安堵の表情を浮かべる。
「【天下布武】より、ソラさんたちにお裾分けです」
「は?」
マイはそう告げると、大量の装備品をアイテムインベントリから取り出した。
「【天下布武】の倉庫及びメンバーから使用していない装備品の数々を預かってきました。譲渡しますので、返却は不要です」
「いやいや……量が多すぎだろ……」
「整理する時間がなかったもので……申し訳ございません」
「ってか、見た限り……メイたちの分もあるのか?」
「はい。ジョーカーが扱える装備品の他に、得意武器を聞き忘れましたので、タンク、ヒーラー、シャドーマスターが扱えそうな装備品一式を持ってきました」
「いやいや……俺の分だけでも悪いのに、メイたちの分まで【天下布武】のメンバーが寄与するのはやり過ぎじゃねーか?」
俺の分だけでも気が引けるのに、面識もほぼないメイたちの装備品まで貰い受けるとなると、さすがに気まずい。
「そちらの方々は【天下布武】に入団予定なのですよね?」
「まぁ、そうだな」
「ならば、私たちは仲間です」
「まぁ……そうだけど……」
「逆に聞きますが、私がソラさんの立場だったらどうしますか?」
「マイが?」
「はい。私がセカンドキャラでこの世界に閉じ込められ、下層で出会ったフレンドと共に帰還。そのフレンドが【天下布武】に入団すると知ったら、ソラさんは援助をしませんか?」
「んー、まぁ……状況が状況だから……するかもな……」
「ソラさんには一日でも早く私たちと同じ階層に辿り着き、全盛期と同じレベルまで成長して欲しい……と言うのが、旅団全員の願いです。遠慮せずに受け取って下さい」
「んー、まぁ……そこまで言うなら……メイ、ヒナタ、ヒロ。今回は【天下布武】の優しさに甘えようか」
「え? う、うん……。マイ様、ありがとうございます!」
「はわわわ……わ、わかりました! マイ様、ありがとうございます!」
「リク殿を守ることに繋がるのなら、すべてを受け入れる所存!」
「あ! うち、シャドーマスターじゃなくて、上忍になったけど……大丈夫かな?」
「一部の防具以外はシャドーマスターも上忍も同じだから――」
「――! ソラさん! そういう大切なことは早く言って下さい! 今から旅団ホームに戻って上忍の装備品を集めてきます!」
「……すまん。任せた」
「わわっ! そ、そこまでして頂かなくても……」
「メイさん、装備品を妥協してはいけません! 少々お待ち下さい! ――! そうだ、メグに頼みましょう」
「わわっ!? す、すいません……ありがとうございます!」
こうして、俺の家の訓練室に膨大な数の装備品が集まったのであった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
いつも本作をお読み頂きありがとうございます!
近況ノート(https://kakuyomu.jp/users/GACHA-SKY/news/16816700427595746919)に店舗特典の情報を載せました!
お時間があれば、御一読してみて下さい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます