遮断された世界
「『この世界を外部から遮断しました』……? んだ、これ? マイ、メグ、今回のイベントはどんな内容なんだ?」
ツルギさんが私とメグに問いかけます。
ツルギさんを始めとする一部のメンバーは運営の告知を確認しません。そういうメンバーに告知内容を伝えることは、私とメグの役割になっていましたが……。
「わからないですぅ……」
「今回の大型アップデートに関する詳細は一切告知されておりませんでした」
私とメグが首を横に振ると、
「ネットを漁ったけど、情報は一切漏れてないみたいだねー。ネットの反応だと、不満3、期待7って感じだったよー」
ゴシップ好きのミントがあっけらかんとした口調で告げます。
「ったく、こんな時間から一切不明のサプライズ企画とか、運営トチ狂ったのか?」
ツルギさんが露骨に不満を露にし、
「んー……でも『世界を外部から遮断』ってなんだろ? 脱出ゲーム的な新コンテンツとかかなぁ?」
メグは新イベントの内容を予測していると……、
「は? おい……マジかよ……」
「え? マジ? って! うぉい! 俺もだ!!」
少し離れた一区画に集まっていたプレイヤーが騒ぎ始める。
「え? 嘘……? 私も……私も……ログアウトできないよ!」
――!?
とある女性プレイヤーの叫び声が聞こえた瞬間、私は咄嗟にシステムコンソールを起動させる。
――!
な、ない……システムコンソールから『ログアウト』ボタンが消失していました。
「おい! どういうことだ?」
「え? うそぉ!?」
「ちょ!? ログアウト不可能とか今どき流行らないから!」
「ワッツ!? ハップン! ハッハー!」
「……イベント? いや、あり得ないな」
ツルギさんたちもシステムコンソールを起動し、『ログアウト』ボタンが消失していることに気付きます。
「セロさんの言うとおり――イベントではないでしょう」
「だったら、不具合か?」
「不具合の可能性は否定できませんが……そうなると、先程流れたシステムメッセージが気になります」
ログアウトができないということは、このVR空間からリアル――元の世界に戻ることができない。
つまり、この世界は外部――
「あん? ログアウトができないのが外部からの遮断ってことか? だったら、イベントじゃねーのか?」
「いえ、どのような事情であれ、人間をVR空間に閉じ込めることは法律で禁止されています」
「おいおい……運営大丈夫かよ……今回の事件をきっかけにサービス終了とか勘弁してくれよ……」
「サービス終了で済むかなぁ? 私が思うにぃ……これ、故意だよぉ?」
「は? メグ、どういうことだ?」
「んっと、システムコンソールから消失したのは『ログアウト』ボタンだけじゃないっぽいよぉ。『GMコール』と『課金商店』も消失してるよぉ」
――!
システムコンソールを確認すると、メグの言うとおり『GMコール』と『課金商店』のボタンも消失しています。
「あん? どいうことだ?」
現状把握ができず、狼狽していると、
『プレイヤーの皆様、申し訳ございません。調整に少々手間取りまして、ご挨拶が遅れたことを心から謝罪致します』
イベントのホールの中央に大きなスクリーンが出現。スクリーンにはスーツ姿の眼鏡を掛けた知的な男性が映し出された。
「あ! 山田さんだぁ」
スクリーンに映し出されたスーツ姿の眼鏡を掛けた知的な男性は――山田太郎。IGOの生みの親です。
「謝罪会見か?」
「いやいや、謝罪だけで済まないでしょ」
「とりあえず、話を聞きましょう」
山田太郎はその後、だらだらと関係のない話を織り交ぜながら一方的に話を進め、最後に――
『皆様には色々な疑問がありますよね? ご安心下さい! 私のいる場所――最深部まで到達して頂ければ、全ての疑問にお答えしますよ。それでは、プレイヤーの皆様……無限の扉が広がるこの世界で無限の可能性を見出して下さい。お会い出来る日を心よりお待ちしておりますよ』
と、告げると映し出されたスクリーンと共に消失しました。
「えっと、なんだ……つまり、俺たちはこの世界に閉じ込められたってことか?」
「んー、元の身体は大丈夫かなぁ。最深部を目指すのはいいけど、途中で本体が衰弱死して終了とか嫌だよぉ」
「まぁ、元々うちらは人生の大半をこっちの世界で過ごしていいけどねー」
「いやいや、元の身体が死んだら意味ねーだろ!」
「Fooooo! Yeahhhhhh! とりあえず、踊ろうぜ!」
「踊らねーよ!」
「んで、どーすんだ?」
セロが質問を投げかけると、全員が私に視線を集中させます。
普段であれば、こういう話をまとめるのはソラさんですが……今は居ません。故に、副団長である私に視線が集まったみたいです。
どうすると言われても……。
何と答えるべきか悩んでいると――
『あ! 上階層まで辿り着いている上顧客の皆さまだけに耳寄りな情報をお伝えするのを忘れてました! いけない、いけない。私ってばうっかりさんですね!』
再びスクリーンが出現して、山田太郎が映し出されました。
『一番最初に『一』の付く階層を踏破したプレイヤーには、特別な情報をお伝えしますよー! その情報を秘匿するも良し、公開するも良し! 情報を制する者はすべてを制しますよ! 最後に、これまでのご愛顧に感謝して、皆さまの知りたがっている情報を一つだけお伝えしますね! 皆さまの本体――現実世界の身体の心配は不要ですよー! なんでかって? それを知りたかったら、第七一階層を踏破してみよう! それじゃ! 今度こそ本当にサヨウナラ〜!』
山田太郎はまたしても一方的に言葉を告げ、消失したのでした。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
いつも本作をお読み頂きありがとうございます。
今後の投稿予定を近況ノートにまとめました。気になる方は御一読願いますm(_ _)m
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