緊急クエスト(S2)一日目⑤

「本当の理由は――レベルだろ?」

「はい、そうですね」


 俺が本当の理由を答えると、アイリスが首肯する。


「え? どういうこと?」

「そのままの意味だ」

「えっと……アイリスさんたちのレベルが高いってこと?」


 メイはいまいちピンと来ないのか首を傾げる。


「そうだな。正確にはアイリスさんや【青龍騎士団】のメンバーも含めた参加者全員の平均レベルだな」

「参加者全員の平均レベル?」

「前回の緊急クエストでも活躍していた主なプレイヤーはガンツを中心としたプロ初心者集団だっただろ?」

「うん」

「あのメンバーが活躍できたのはレベルによる恩恵が大きかった」


 この世界はゲームとして構築されていた。ゲームである以上、レベルという存在は強さを示す絶対的なバロメーターとなる。


「リクさんの仰るとおり、今回参加しているプレイヤーはこの階層での上限――59に到達している者がほとんどです」

「そうなんだ」

「第四一階層の緊急クエストの適正レベルは50〜60。ゲームっぽく言うなら推奨レベルは55。しかし、今回参加者の平均レベルは55を上回っている」

「最上階の緊急クエストでもない限り、参加プレイヤーの平均レベルが推奨レベルを上回っているのは珍しいにゃ」


 最上階であればレベルキャップに引っかかって、カンストしたプレイヤーが主となるが、最上階以外だと上の階層を目指している途中のプレイヤーが多数を占めることから、推奨レベル未満になることが多かった。


「まぁ、最上階は難易度が高くなるけどな」

「そうなの?」

「最上階にはこの世界のトッププレイヤーが多く在席することから、推奨レベルが+20される」

「え? +20ってやり過ぎじゃない!?」

「その代わり、報酬アイテムもグレードアップするにゃ」


 クロはメイの言葉にのほほんと答える。


 この仕様は、現状の緊急クエストは難易度が低いとプレイヤーから要望があり、実装された。トッププレイヤー――ゲーム廃人は高難易度を求める傾向が強かった。


 事実、俺は緊急クエストの難易度が上がったときは喜んでいた。恐らく、クロも同様だろう。


「リクさんは凄いです! あんな状況の中で周囲のプレイヤーのレベルを把握するなんて、凄いです!」

「うんうん。うちだと、みるだけでレベルを把握するのも無理だよ」


 ヒナタが俺を褒めると、メイもそれに続く。


「んー、ある程度は参加者を観察していたのも事実だが……実際には推測が大きいな」

「推測ですか?」

「多くのプレイヤーが上の階層を目指すことなく、この階層で留まっている、と予測しているが……どうだ?」


 俺はアイリスに視線を移し確認する。


「ご明察の通りです。【青龍騎士団】は全旅団員のレベルが59になれば、第五一階層を目指すと宣言しておりますが……この階層に留まるべきという意見も多いです」

「そうなのですか?」

「ヒナねぇは一番多いプレイヤーの死亡理由は何だと思うにゃ?」

「緊急クエスト、或いは階層主との戦いでしょうか?」

「緊急クエストは報酬も絡むので無理をするプレイヤーが多いから2位にゃ。強敵である階層主との戦いによる死亡は3位だにゃ」

「そうなると一位は……」

「PvPによる死亡にゃ。中には模擬戦や大会を含めた死亡もあるけど、PK《プレイヤーキラー》による死亡も多いにゃ」

「――! そ、そんな……で、でも……今はこんな状況ですよ! 閉じ込められ、ある意味現実と変わらなくなったこの世界でプレイヤーがプレイヤーを――殺人を犯す人など存在するのでしょうか!」

「それはわからないにゃ……ボクたちは上の階層の状況を知る術がないにゃ。でも……ボクの知る限りあいつら――PK《プレイヤーキラー》は頭がおかしい連中が多いにゃ」


 IGOはプレイヤー同士の戦い――PvPを仕様として認めている。


「頭がおかしい連中なのはわかったけど……IGOってPKすることにメリットあるの?」


 メイから現実的な質問が投げかけられる。


「メリットは倒したプレイヤーのアイテムを奪えるにゃ。後、自分より同レベルか高レベルのプレイヤーを倒せば多大な経験値を得ることもできるにゃ」

「逆にデメリットはないのでしょうか!」

「デメリットは返り討ちにあったらアイテムを奪われるにゃ。後は、承認なく相手をPK《プレイヤーキル》したらレッドネームになるにゃ」

「レッドネーム?」

「承認……と言うのは?」


 クロの言葉の中から、メイは『レッドネーム』という言葉に疑問を抱き、ヒナタは『承認』という言葉に引っかかりを覚える。


「PvPは2種類存在するにゃ。一つは問答無用でプレイヤーを襲うこと。但し、タウンの中では襲うことは不可能にゃ。もう一つがデュエル。相手にPvPを申し込み、相手が承認したら始まるPvPにゃ。これは、タウンの中でも実行可能にゃ」

「タウンの中は安全なのですね」

「そうなるにゃ。レッドネームというのは、問答無用でPK《プレイヤーキル》したプレイヤーに課せられるペナルティにゃ」

「ペナルティがちゃんとあるのですね」

「レッドネームは9日間続くにゃ。レッドネームのプレイヤーはデュエルを拒否することができないから、タウンの中でも襲われる可能性があるにゃ。後は、倒すと経験値を多くもらえるにゃ」

「補足すると、レッドネームのプレイヤーは報奨がかけられている場合もある。報奨次第では、お金やレアアイテムがもらえる可能性があるな」


 PK狩りを専門としているPKK《プレイヤーキラーキラー》を生業としているプレイヤーも存在している。


「9日間だけなのですか……」


 ヒナタが呆然と呟く。


 言い換えれば、PKをしても9日間(元の世界で3日間)経てば、その罪は赦される。


「昔は21日だったけど、長すぎると要望がはいって9日間に修正されたにゃ」

「9日間のレッドネームという罪が重いのか、軽いのかはプレイヤー次第となりますが……それらの存在こそが多くのプレイヤーをこの階層に踏みとどまらせている原因ですね。噂では、第五一階層以降にはPKを生業としているPK旅団も存在していると耳にします」


 アイリスがクロの言葉を受け取り、同意を示す。


 アイリスの言うとおり、第六一階層以降にはPKを生業としている旅団は存在している。


 あまりに悪行が目立つと、『○(冬)のクリーンアップキャンペーン』と称して、大手旅団が手を取り掃討することもあるが、3回倒す前に相手はログインしなくなったり、遠くの階層へ逃亡したりと、完全消滅には至らなかった。


「PK旅団か……。大手旅団がどうにかしていればいいのだが……」

「あいつらはゴキブリ並みにしぶといにゃ」

「そうだな。第五一階層以降は、一つ階層がだだっ広い。捜索するだけでも一苦労だからな」

「嫌な連中なんだね!」

「まぁ、仕様で許されている以上……それも一つの楽しみ方だが、いい趣味とは言えないな」


 PKが原因で引退したプレイヤーは数多い。PK撤廃の要望も多かったが、同じくらいPvPを至上のコンテンツとして受け入れているプレイヤーも多かった。


「怖い話ですね……」

「まぁ、厄介な連中だが……奴らは少数派だ。まともなプレイヤーの存在を信じよう」

「だね! 【天下布武】がそんな奴らは駆逐しているはずだよ!」

「ん……【天下布武】は攻略をメインに活動している旅団だが……目に余る連中なら……そうだな……何とかしてくれるだろ」


 正義感に溢れるマイあたりなら、何とかしてくれていると信じたい。


「……【天下布武】。そうですね、私たちも彼らと肩を並べて戦えるように上を目指します!」

「ん……ま、まぁ、頑張れ。それより、明日以降も忙しくなる。今はしっかりと休息をとろう」


 俺たちは雑談を終え、明日に備えて休息を取るのであった。



  ◇



 緊急クエスト二日目、三日目も順調に推移。


 四日目となる今日も残すは中ボスのみとなったのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


投稿遅れました……(汗)

あと、タイトル長いなぁと思い、修整しました!(S2はシーズン2の略称となります)


今回は不穏な伏線をばら撒いてみました(緊急クエストどこいった……!とのツッコミはなしでorz)


今後も不定期となるかもしれませんが……お付き合いのほどよろしくお願い致します。

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