緊急クエスト(S2)四日目①
緊急クエスト四日目は雑魚の数が大幅に増加。今まで以上に指揮官の能力が試されるが……結果としては、アイリスの指揮が冴え渡り、危なげなく迎撃に成功していた。
「残る中ボスは三体か」
「だね! 雑魚の掃討も順調だから、今日も問題なく終えることができそうだね!」
四日目に投入される中ボスの数は10体。内5体は俺たちのパーティーが討伐していた。残った3体が特別強いという訳でもないので、残りの中ボスを討伐することは問題にならないだろう。
問題があるとすれば――、
「リクさん、遊撃隊の皆さん、出動をお願いしてもよろしいでしょうか?」
前線で指揮を執っていたアイリスがこちらにやってくる。
「オッケー! サクッとやっちゃうよー!」
「はい! 頑張ります!」
「承知!」
「へへ……腕が鳴るぜ!」
「出番ですな」
「ふふっ。私たちの出番ですわ」
遊撃隊のメンバーが立ち上がり、出撃の準備を始める中……
「リクにぃ」
クロが俺に声を掛けてくる。
「気付いてはいる。クロはどうするべきだと思う?」
「んー……難しい問題にゃ」
「だよな」
俺は周囲のプレイヤーを見渡す。
周囲のプレイヤーたちがこちらに向ける感情は羨望……そして、嫉妬と憎悪だ。
アイリスは過剰なまで遊撃隊――俺たちを優遇していた。
このままいけば、MVPはほぼ俺で確定だろう。貢献度ランキングも遊撃隊のメンバーが上位を占めるだろう。
指揮を執るグループに属するプレイヤーが貢献度ランキングにおいて有利となるのは、周知の事実だが……ランキングに応じて報酬がでる以上、過剰な優遇措置は反感へと繋がる。
親しい仲間のためであれば我慢とできるが、見ず知らずの他人のために自分が踏み台となるのは許せない。俺たちは【青龍騎士団】のメンバーではない。故に一部の【青龍騎士団】のメンバーからも良く思われていないのは、少し観察すれば気付くことができた。
とは言え、今回の緊急クエストで指揮を担うのは【青龍騎士団】の団長アイリスだ。
部外者の俺が指揮にまで口出しをしたら、余計に混沌と化す恐れもある。
「遊撃隊、出撃――」
立ち上がり、遊撃隊の仲間に出撃の合図を送ろうとすると、
「アイリスさん、少しいいかい?」
10人ほどのプレイヤーが駆け寄ってきて、先頭にいたプレイヤーが代表してアイリスに声を掛ける。
「……誰だ?」
俺は近くにいた【青龍騎士団】のメンバーローズに小声で話しかける。
「【赤壁】の団長だな。後ろにいるのは【金狼】の団長だったと思う」
【赤壁】と言うのはD拠点の防衛を任されている旅団だったはず。
「【金狼】というのは?」
「前と同じなら……E拠点をまとめてる旅団じゃねーかな?」
E拠点というのは、【青龍騎士団】の指揮下にはいらないフリー枠のプレイヤーが防衛を任されている拠点だ。
「何でしょうか?」
アイリスは凛とした表情で、駆け寄ってきたプレイヤーの声に応える。
「差し出がましいとは思うが……遊撃隊を優遇し過ぎじゃないか?」
「イサロス! もっとハッキリ言え! アイリス! そいつらを優遇し過ぎだ! このままだと、ランキングはそいつらが総ナメじゃないか! 俺たちはそいつら……いや、あんたの言葉を借りるなら『風の英雄』様の踏み台じゃねー!」
【金狼】の団長は俺に明確に憎悪を含んだ視線を向ける。
「私は指揮官としてSランクを達成できる最善の指揮を執っているつもりですが?」
「ハッ! そこの英雄様が風属性で
「と、言うと?」
「今の戦況はどうだ?」
「順調に感じますが?」
「そうだ! 順調だ! 順調過ぎるまでに順調だ!」
「ならば、何も問題はないのでは?」
「あぁ……そうだな。言い換えれば、別にそこの英雄様が出向かず、俺たちが中ボスを倒しても問題ないはずだ」
「つまり、功がほしいと?」
「あぁ……そうだな! ぶっちゃけて言うと欲しいな! ここまで順調に進んでいるのはあんたの指揮の成果だ。しかし、俺たちが頑張っているから達成できている成果だとも思うが、どうよ?」
ここで、向こうの言い分を否定したら確実にプレイヤー間に亀裂が生じる。
さて、アイリスはどう答える?
「仰るとおりですね。みんなの力があったから、ここまで順調に進んでいるのだと思いますよ」
「だったら! 俺たちにも功を挙げるチャンスがあってもいいだろ! 前回までのあんただったら、こういう状況だと全員にチャンスを与えるような指揮を執っていただろ!」
「私の指揮に不満があると? ならば、代わりに――」
「っと! 少しいいか? 話の中心は俺たち遊撃隊だよな? だったら、俺からも一つ意見を言ってもいいか?」
このままアイリスに任せたら亀裂が生じる気配を感じた俺は慌てて口を挟む。
「はい! 何でしょうか?」
「あん? 英雄様の意見ってか? 言ってみろよ!」
「あなた方の意見はもっともだ」
「――!? リ、リクさん……」
「お! 英雄様は話がわかるじゃねーか!」
「但し、それじゃよろしく! と見送るだけだと遊撃隊としての、俺たちの存在価値がなくなってしまう」
「ハッ! 遠慮すんな! 休んでろよ!」
「いやいや、それも体裁が悪いだろ? だから、残った3体の内1体はこちらで倒す。残りの2体をそちらに任せてもいいかな? 遊撃隊という栄誉ある立場でありながら、こちらの役割を投げ出すようで申し訳ないが」
「2体か……まぁ、落としどころはこの辺だろうな」
相手はこちらの提案を受け入れたようだ。
「最後に、戦況はあなたの言うとおり順調だ。今ならよほどの愚者じゃない限り事故は起きないだろう」
「ハッ! たりめーよ!」
「だったら、勝負をしないか?」
「あん? タイムアタックでもしようというのか?」
「お! 察しがいいね! そのとおりだ」
「しかし、お前さんは風属性なんだろ? ちいとばかりこちらが不利じゃねーか?」
「そういうあなたのレベルは59だろ? 俺たち遊撃隊の平均レベルは55未満だぞ?」
「は? マジかよ!」
ゲームの中でレベルは絶対的な強さを示すバロメーターの一つだ。
「こちらの遊撃隊12人で向かうが……属性を含めて不安があるなら、そちらは人数を増やしてもいいぞ?」
「ハッ! ナメんな! こっちも12人で挑んでやるよ!」
「くれぐれも事故るなよ」
「ハッ! そっちこそ焦って事故んじゃねーぞ!」
「勝者には、そうだな……。明日の
「上等じゃねーか! アイリスさんよぉ! あんたもそれでいいんだな!」
俺はアイリスと視線を交わし、静かに首を縦に振る。
「では、遠距離部隊の攻撃を合図に勝負を開始でいいか?」
「上等だ!」
「あ! 遠距離部隊がいないなら、アイリスさんに頼んで都合を付けるが」
「ハッ! ナメんな! そのくらいこっちで用意できる!」
「それじゃ、そちらさんもソレでいいか?」
俺は最後に【赤壁】の団長に確認をとる。
「わ、わかった」
「10分後くらいにスタートだな。武運を祈る」
こうして、俺たちはタイムアタックに挑むことになった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
いつも本作をお読み頂きありがとうございます。
現在、執筆の時間があまり取れずに不定期な更新が続いております。何とか今月中にストックを増やして、定期的な更新に戻せるように努力します。
当面は不定期な更新となることをご了承願います。
(目標としては週に2回以上は更新できるように頑張ります)
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