緊急クエスト(S2)最終日②

「遊撃隊、しゅつ――」

「リクにぃ! 1つ提案にゃ」

 

 陣! と言おうとしたら、クロが声を掛けてきた。

 

「提案? なんだ?」

 

 クロは見た目に反して、賢いプレイヤーだ。この局面で無意味な提案はしないはず。

 

「本日は最終日にゃ。緊急クエストは言わばお祭りにゃ! 折角だから、リクにぃとメイねぇとカナメさんとアケミさんとイセさんとローズさんで討伐数を競い合ったら楽しくなると思うにゃ」

「――? 競争?」

 

 この大事な局面で、楽しさを重視した提案……?

 

 クロらしくないな……。


 ――!

 

 クロの提案に頭を悩ませたが、すぐに提案の意図に気付いた。

 

 クロは賢いな……メインキャラクターは誰だ?

 

 豊富な知識量もさることながら、これだけ頭の切れるプレイヤーなら、団長……或いは参謀として名を馳せていても不思議ではない。

 

 この緊急クエストが終わったら、正体を聞いてみるか。

 

「クロ、良い提案だ。俺はクロの提案に乗るが、みんなはどうする?」

「オッケー! 負けないよー!」

「ハッ! 上等じゃねーか! やってやるよ!」

「うふふ……範囲殲滅に特化した魔術師の力をお見せしますわ」

「争いごとは好まぬが……リクたんの相棒としての力を見せますぞ」

「ハッハー! オレの実力を見せてやるよ!」

 

 全員がやる気満々のようだ。

 

「にゃはは。参加したいけど、ボクはあいにく生産職にゃ。代わりに討伐数のカウントを担当するにゃ。一位だけじゃなく、上位目指してみんな頑張るにゃ!」

 

 クロは全員にはっぱをかける。

 

「それじゃ……改めて、遊撃隊出陣!!」

 

 俺の掛け声と共に遊撃隊は、華々しく戦場へとおどり出た。

 

 目指していた地点に到達。

 

 俺は早々に仕掛けることにした。


「最初からトップギアでいこうか! ――《アクセル》!」

 

 俺は自身の敏捷を大きく増幅させ、魔導人形ゴーレムに迫った。

 

 得意の敏捷を活かして、次々と魔導人形ゴーレムの背後を取り、弱点である首の関節部に短剣を滑り込ませる。

 

「うちも負けないんだから! ――《冬乱》!」

 

 メイはゴーレムが密集しているど真ん中に滑り込み、分銅を振り回す。


「オラッ! こっち来い! ――《タウント》!」


 カナメは盾を打ち鳴らし魔導人形ゴーレムを集めるが、


「ホッホッホ! カナメ、ナイスですわ! ――《ウインドストーム》!」

「あ! アケミ、ずりーぞ!」

「勝負の世界は非情なのですわ」


 集めた魔導人形ゴーレムはアケミの放った暴風に攫われる。


「心持たぬ機械の身体に拙僧の情熱パッションを!」


 すでにパンイチとなったイセが、次々と魔導人形ゴーレムに拳を叩き込み、

 

「ハッハッハー! 最初からクライマックスだぜ!」

 

 ローズは高笑いをあげながら、大剣を振り回していた。

 

 大変なのは、好き勝手暴れるアタッカーをフォローするメンバーなのだが、ヒナタたちは平等に回復や補助バフをアタッカーに施し、ヒロアキと【青龍騎士団】から派遣されたタンクのプレイヤーが、そんなヒナタたちを護っていた。

 

「にゃはは! 現在トップは13体撃破のリクにぃ! 2位は10体撃破のイセさんにゃ! メイねぇ、もっと頑張るにゃ! カナメさんはまだ0体にゃ! おっと! ここでアケミさんが一気に9体倒したにゃ!」

 

 クロは戦うことを放棄して、俺たちアタッカーを煽っていた。

 

「くぅー! 負けないんだから!」

 

 俺たちはクロに煽られながら、凄い勢いで魔導人形ゴーレムを次々と撃破したのであった。

 

 30分後。

 

 最初の地点の周辺にいた魔導人形ゴーレムを殲滅。俺たちの周りだけが空白地帯となっていた。

 

「ここは暫く大丈夫だろ。次は……」

 

 周囲の戦況を見回すと、

 

「リクにぃ! あっちにゃ!」

 

 すでに調査済みのクロに誘導される形で次なる戦場へと移動するのであった。

 

 

 ◆

 

 

 遊撃・・隊の名を示す通り、戦場を転々とし魔導人形ゴーレムの掃討を続けること2時間。

 

「現在のトップはリクにぃ! 2位はメイねぇ! 3位は僅差でイセさんにゃ! 相棒の座はメイねぇで確定なのかにゃ!?」

 

 クロの煽り文句が冴え渡る中……

 

「おい……見たかよ……」

「なんだアレ……」

「すげー殲滅力だな……」

「風の英雄と言うか……暴風だな……」

 

 周囲のプレイヤーが、俺たちの動きに注目し、騒ぎ始める。

 

 俺は腐っても元トップランカーだ。レベルも下がり、属性もクラスも変わったが……まだまだこの階層のプレイヤーには負ける気はしない。

 

 とは言え、ここまで凄く見えるのには……いくつかの工夫もしていた。

 

 選んだ戦場にいる敵の数や、突撃するタイミング。立ち位置や、さり気ない周囲のプレイヤーの利用……。

 

 IGOの世界では、アニメや漫画のようないわゆる無双・・をすることはできない。しかし、それっぽく見せることは可能だった。

 

 ここまでは俺……いや、クロの思惑どおりだった。

 

 クロの思惑とは――

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