緊急クエスト(S2)最終日③

 クロの思惑とは――アイリスをフォローすること。

 

 俺たちが中ボス討伐を優遇されていなくとも、MVPを取れるプレイヤーであると、周囲に示すことだった。


 いや、救われるのはアイリスだけではなく……俺たちもか。

 

 このままいけば、MVPは確実に俺かメイだ。


 露骨に優遇を受けていた俺かメイがMVPを取れば、その後の俺たちの活動にも支障をきたす可能性もある。


 前回の緊急クエストは、その後すぐに行き来が不可能となる上の階層に進んだが、今回はある程度の期間をこの階層で滞在することになる。


 故に、俺たちは実力を過剰に示す必要があった。


 周囲のプレイヤーから漏れ聞こえる声を聞く限り、クロの戦略は成功したといえるだろう。


「次はあそこにゃ!」


 クロが次なる目標を指し示すが、


「いや、あっちにしよう」

「――! 了解にゃ!」


 俺は別の方角――4本の腕を生やした魔導人形ゴーレム――ジェノサイダーが現れた場所を指し示す。


「あれ? うちらが倒しちゃっていいの?」

「いや、少し誘導してやるだけだ」

 

 ここまでは俺たちの強さを示した。次は、影響力が強そうなプレイヤーに恩を売ることにした。

 

「誘導……?」

「目的地に到着したら、クロの指示に合わせて周囲の魔導人形ゴーレムを掃討しつつ、後退してくれ。本体は俺が釣る」

「誘導は一歩間違えばMPKになるにゃ! 慎重に行動するにゃ!」

 

 事前に連携が取れていれば、問題ないが……今回は恩の押し売りだ。慎重を期する必要があった。

 

 簡単な作業じゃないが……クロも・・・相当集団戦に長けたプレイヤーだ。協力すれば、狙いどおりに事を運べるだろう。

 

「行くぞ!」

「「「おー!」」」

 

 遊撃隊のメンバーを引き連れ、次なるミッションへと向かうのであった。

 

 

 ◆

 

 

 手付かずで進軍するジェノサイダーの目の前に到着。

 

「各位! クロの指示に従い周囲の魔導人形ゴーレムを掃討!」

 

 遊撃隊のメンバーに指示を出すと、俺は目の前いにる4本の腕を振り回す好戦的な魔導人形ゴーレムに集中する。

 

 ――《ウインドカッター》!

 

 風の刃で切り裂き、ヘイトを俺へと向ける。

 

 ジェノサイダーは蒸気を上げながら、真紅に輝く感情を一切感じさせない瞳で俺をロックオンする。

 

 ……っと!

 

 ジェノサイダーは一気に加速し俺との距離を詰めようとするが、バックステップを刻み俺は射程範囲から逃れる。

 

 ――《ウインドカッター》!

 

 対象が俺以外に向かないように適度に風の刃を放ちながら、ジェノサイダーを誘導する。

 

「メイねぇ! リクにぃの進路上にいる敵を一掃するにゃ!」

「りょーかい!」

 

 周囲を見ながら誘導しているつもりだが、クロも遊撃隊に適切な指示を出し俺の誘導をフォローしてくれる。

 

 んー……優秀だな。

 

 【天下布武】にスカウトしたら、入団してくれないかな?

 

 同じ境遇に陥った元トップランカーと思われるクロを、俺は欲してしまう。

 

 これだけの実力があれば、マイも両手を挙げて賛成するだろう。

 

 第五一階層が目前に迫ったからなのか、最近はその後のことをつい考えてしまう。

 

 っと、今は目の前に集中だな。

 

 その後も、少しずつ後退しジェノサイダーを誘導し続けた。

 

「おい! 風の英雄!! そいつは俺たちの――」

「【金狼】のみなさん、後はお願いしますね。遊撃隊! 次なる目的地に向かうぞ!」

「「「おー!」」」

「お、おう……」

 

 文句を言われる前にジェノサイダーと共に恩を押し付け、俺たちは次なる目的地を目指すのであった。

 

 

 ◆

 

 

 その後も、周囲のプレイヤーに遊撃隊の実力を示しつつ、中ボスの遊撃を繰り返すこと4時間。

 

「さてと、次はどこに……」

「り、リクっち……」

「ん? どうした?」

「少し、休憩しないか……」

 

 休憩……?

 

「リクにぃ。6時間ぶっ通しで戦ってたにゃ。ここらへんで休憩するのもいいと思うにゃ」

「私もクロちゃんの意見に賛成です」

「んー……うちはもう少しいけるけど、リクに任せるよー」

「私は常にリク殿と共に!」

 

 6時間ぶっ通しか……。遊撃隊のメンバーを見回すと、確かに表情に疲労が見て取れる。

 

「少し休憩するか」

「いつ終わるのかと思っていたぜ……」

「疲れましたわ……」

 

 俺の一声でその場に座り込むメンバーたち。

 

「ここだと邪魔になるから、後ろに下がるか」

 

 俺は遊撃隊のメンバーを引き連れて後方へと戻ることにした。

 

 その後、1時間の休憩……と言いたかったが、たっぷり3時間の休憩をとった後、再び遊撃隊らしい動きを繰り返した。

 

 緊急クエスト最終日。

 魔導人形ゴーレムの襲撃から18時間後。

 

「リクさん、魔導人形王ゴーレムキングの姿が確認されました」

 

 魔導人形王ゴーレムキングが出現したのであった。

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