相場の異変①

「えっと……話は戻るけど、これからどうするの? また、金策でいいのかな?」


 お金に関しての問題が解決すると、メイが本題へと話を戻した。


「金策もいいが、今回は経験値を重視しながら素材集めをしようと思う」

「あ!? 金策じゃないのですね」

「今の俺たちのレベルは19。推奨レベルを満たしていない」

「そうですね」


 俺の言葉にヒナタが頷く。


「正直言えば、今の戦力のままでもある程度は先に進める。しかし、装備の関係で第一五階層の階層主でつまずき、レベルの関係でその後に躓く」

「えっと……第二〇階層の推奨レベルは30だから……クラスアップですね!」


 ヒナタが俺の言わんとすることを答える。


 この世界はレベル10で基本職になり、レベル30で上級職になり、レベル60で最上職となる。


「半分正解。残念ながら、上級職で第二〇階層の階層主に挑むことは出来ない」

「え? そうなのですか?」

「この世界には、プレイヤーの行動規制とそれに付随するレベルの上限が存在するからな」

「あ! そういえばIGOには面倒な制限があったかも!」


 メイの言う面倒な制限こそが、俺が頼りになる仲間――『天下布武』のメンバーと合流出来ない理由でもあった。


「レベル30以上のプレイヤーは、第二〇階層以下の立ち入りを禁じられ、レベル60以上のプレイヤーは、第五〇階層以下の立ち入りを禁じられる」


 この仕様は同時に、第二〇階層以下にいる限り、レベルが30に上がらない――レベルの上限に制限が掛けられていることも意味していた。


 レベルさえ上げればいつかクリア出来る……そんな幻想を打ち壊し、プレイヤースキルもちゃんと磨け! と言う運営からのメッセージであるとも言われていた仕様だ。


「あれ? でも、レベルの上限が頭打ちになるなら……急いでレベル上げしなくてもよくない? 前のリクの言葉じゃないけど……レベル27も29もそこまで大差ないでしょ?」


 メイがかつての俺の言葉を引用して、問いかけてくる。


「そうだな。第二〇階層の階層主も……装備を万全に整えたらレベルが26程度でも勝てる可能性はあるだろう」

「それなら、前のリクの言葉じゃないけど急いだ方がいいんじゃない?」

「階層主は倒せるかも知れないが……その後が問題になる」

「その後……?」


 それはIGO攻略サイトの初心者FAQに必ず記載されている注意事項となるのだが……


「第二一階層に到達したらどうなると思う?」

「え? タウンがある」

「正解。俺の質問が悪かったな。第二一階層への道はある意味片道切符だ」

「そうなのですか?」


 俺の答えにヒナタが首を傾げる。


「第二〇階層の階層主をレベル29の状態で討伐したら、漏れなくレベルが30になる。そうすると、この世界の仕様上、第二〇階層以下に戻れなくなる」

「ならば、レベル29未満で討伐すればいいのでは?」


 俺の答えに次はヒロアキが質問してくる。


「そうなると、第二一階層以降に出現する雑魚モンスターですら、倒すのに苦労する。倒せなくはないが、死のリスクが格段に上がる。仮に、その状態で緊急クエストに巻き込まれたら即死コースだ。故に、レベル29で第二〇階層の階層主に挑むのが最適解になる」

「なるほど! リクがいれば攻略wikiいらずだね!」

「流石はリクさん、頼りになります!」

「リク殿との出会いに感謝致す」


 三人は俺の説明に納得してくれた。


「じゃあ、今からリクオススメの狩場にレッツゴーだね!」


 メイが拳を突き上げて宣言する。


「ちょっと待て。狩場に行く前に、効率的に敵を倒せるようにある程度の装備品――具体的には、俺とメイの武器、ヒロの盾を新調しようか。ヒナタは……すまない……装備の新調は少し待ってくれると助かる」


 俺は優先順位から漏れたヒナタに頭を下げる。


 アタッカーの火力は掃討数にダイレクトに影響し、タンクの耐久はパーティーの安全性を上昇させる。狩り程度であれば、今のヒナタの回復力でも申し分なかった。


「大丈夫ですよ!」


 しかし、ヒナタは笑顔で俺の提案を受け入れてくれた。


「まずは、『ミノタウロスの角』と『蛟の牙』で武器を、『蛟の鱗』で盾の製作依頼をしてこようか」

「おー!」

「はい!」

「承知!」



  ◆



「すまない。他を当たる」


 どうなっている?


 俺は本日3件目となる鍛冶屋から退出する。


「武器の製作費ってこんなにも高いの?」

「いや、相場があからさまにおかしい」


 メイン素材となる『蛟の牙』を持ち込み、『蛇王短剣』の製作依頼をしたのだが……汎用素材代金込で製作費に5,500G要求された。


 俺の記憶が確かなら……『蛇王短剣』の製作費の相場は汎用素材代金込で1,500Gだ。


 3倍以上? しかも、相手はNPCだぞ?


 遮断された世界でNPCに異変が生じたのか?


 NPCが無理なら……生産職のプレイヤーに頼るしかないな。


 確か、『ミノタウロスの角』を扱うには鍛冶熟練度が3以上。『蛟の牙』を扱うには鍛冶熟練度が4以上必要だったか?


 俺は相場の異変に底知れぬ嫌な感じを懐きながら、生産職のプレイヤーを探すことにしたのであった。

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