相場の異変②
武器の製作依頼をする為に、生産職のプレイヤーを探すこと30分。
「ねね、何かこの町ってマント付けている人多くない?」
メイの言う通り、赤、靑、黄、緑、緑……と、様々な色のマントを羽織っている人を多く見かけた。
「確かに多いな」
「流行ってるのかな? それとも、第十一階層以降はマントの鉄板装備でもあるの?」
メイの言う“鉄板装備”とは、万人受けする効果の高い装備品のことを指す俗語だ。
「いや、そんな装備品は無かったはず。第一アレは装備品じゃなくて旅団シンボルだと思うぞ」
「旅団シンボル?」
「旅団に所属すると、旅団員の証として付与されるアクセサリーだな」
「おぉ! 『俺たちの心はいつも一つだ』と、炎帝のソラが旅団員に配ったペンダントだね!」
「すまん。その話は知らない」
「え? 炎帝のソラが旅団を結成したときの有名なエピソードだよ!」
「そうなのか?」
俺の記憶が確かなら……
シンボル何にする? →マックス「マスクかマント!」→却下! →セロ「ペンダントなら見えないからいいんじゃね?」 →採用!
と、全身装備のコーディネートを壊さない配慮もあり、ペンダントを採用したはずなのだが?
「そういえば、あのマントは『百花繚乱』の旅団シンボルですな」
ヒロアキが思い出したように、赤いマントのプレイヤーを指差し、答える。
「あれ? でも、ヒロアキさんは出会った時はマント付けてました?」
「ヒラヒラと動くのが慣れなく、戦闘中は外してましたな」
旅団シンボルはワンタッチで着脱可能だ。
とある旅団はマスクを旅団シンボルにし、戦闘中のみマスクを着用すると言う、謎のルールを課していた。
「げっ……ってことは、赤いマントのプレイヤーは全部『百花繚乱』?」
「そうなりますな」
『百花繚乱』のホームタウンはこの町のようだ。
「それじゃ、他の色のマントは『百花繚乱』の模倣でしょうか?」
「いえ、あれは『百花繚乱』の下部組織ですな」
ヒナタの疑問に元『百花繚乱』のヒロアキが答える。
と言うことは……マントを羽織ったプレイヤーは全員『百花繚乱』の関係者なのか……。
ぱっと見た感じ、マントを羽織っているプレイヤーは全体の1/4。『百花繚乱』の勢力は俺の想像を遥かに超えて拡大しているようだ。
『百花繚乱』の勢力拡大にげんなりしていると……
『装備品の製作、強化承ります。当方鍛冶熟練度5! ※ 旅団割ありマス!』
ようやく、鍛冶熟練度4以上の生産職プレイヤーの立看板を発見した。
俺は立看板の立っていた工房の中へと足を運んだ。
足を踏み入れた工房は使用料を納めることにより、プレイヤーが自由に利用出来る工房だ。このような施設はこの町の中に幾つも点在していた。
工房に入ると、生産職と思われるプレイヤーが声を掛けてきた。
「依頼かな?」
「『蛟の牙』の持ち込みで、『蛇王短剣』の製作を依頼したい」
「お! 『蛟の牙』とは良い素材を持ってるね。造るのは短剣でいいんだね?」
「頼めるか?」
「勿論! 『蛟の牙』を持ち込みなら歓迎だよ!」
「ちなみに、いくらになる?」
「持ち込みは『蛟の牙』だけかい?」
「そうだな」
「ちなみに……一応聞くけど、旅団の人じゃないよね?」
「旅団……? 無所属だが?」
「そうなると……『蛇王短剣』は鉄鉱石が10個必要だから……5,500G! と言いたいところだけど、オマケしてあげて5,400Gでいいよ」
生産職のプレイヤーはNPCよりも100Gだけ、安い価格を提示する。
「高くないか?」
「そうかな? 気に入らないなら他を探せばいいと思うよ」
値段交渉には一切応じる気はないようだ。
「ちなみに、旅団割とは何だ?」
「ん? 君はこの町は初めて?」
「先程到達したばかりだ」
「そっか。えっとね……旅団のランクに応じて割引するサービスだよ」
「旅団のランク?」
「そそ……例えば、『百花繚乱・黃』なら 4,300G、『百花繚乱・緑』3,300G、『百花繚乱・青』なら2,300G、『百花繚乱』なら1,200Gだね!」
旅団のランク……恐らくマントの色によって1,000Gずつ値下げされるシステムのようだ。
「かなり価格が変わるな」
「そういうルールだからね! ちなみに、今から旅団に加入してもいいけど……『百花繚乱・黃』からしか加入出来ないと思うよ」
NPCを含めた相場の異常な高騰。
1,000Gずつ安くなる割引。
そして、『蛇王短剣』に必要な鉄鉱石の数――
異常なまでの相場の高騰の理由が見えてきた。
「なるほど……申し訳ないが、手持ちが7,000Gしかないんだ。参考までに『蛟の鱗』を持ち込みした時の『蛇王の盾』の製作費を教えてもらってもいいか?」
手持ちが7,000Gと言うのはブラフだ。
どちらかしか依頼出来ないと思わせ、尋ねる
「んー……その手持ちだと『蛇王の盾』は少し厳しいんじゃないかな? 『蛇王の盾』だと、8,000Gかな?」
「オマケで7,900Gか?」
「あはは。正解だよ」
「『百花繚乱・黄』に加入したら、6,300Gか?」
「君、凄いね! 正解だよ! 『百花繚乱・黃』に入団したいなら推薦状を書くよ? そうすれば、『蛇王の盾』を製作することは出来るよ?」
「そうだな。少し、仲間と相談させてくれ」
俺は生産職のプレイヤーに断りを入れて工房を後にした。
「ちょ! リク! 『百花繚乱』に入団するつもりなの!」
工房から出るや否や、メイが食って掛かってくる。
「いや、入団する気はこれっぽっちもない」
「じゃあ、何であんなこと言ったの?」
俺の答えにメイだけでなく、ヒナタとヒロアキも胸を撫で下ろす。
「壊れた相場の理由を知りたくてな」
「壊れた相場の理由? それで分かったの?」
「あぁ、判明した」
「なになに?」
「『蛇王の盾』を製作するのに必要な鉄鉱石の数を知っているか?」
「知らない」
「15個だ」
俺は仲間たちに壊れた相場の理由の解説を始めるのであった。
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