告白

「リクにぃの正体を皆に告げた方がいいと思うにゃ」


 クロがもう一つの提案を俺に告げる。


「皆と言うのは……」

「メイねぇ、ヒナねぇ、ヒロにぃにゃ! 仮にリクの名前を隠しても、一部のプレイヤーはリクの正体に気付くにゃ。それなら先に仲間の皆に告げた方がいいと思うにゃ」


 俺はクロの言葉をゆっくりと受け止める。


「一理あるな……」


 仲間たちに隠していたのは混乱を避けるためと、告げたところで何の意味もないと思っていたからだ。


 しかし、大切な仲間たちが縁も所縁もないプレイヤーと同時に俺の正体を知るのは筋が違う。


「そうだな。伝えるにはいいきっかけなのかもな」

「リクにぃ、ありがとにゃ」

「何でクロが礼を言うんだ? これは、俺の問題だ……そうだろ?」

「それでも、言いたいにゃ……ありがとにゃ」

「とりあえず、皆の所に戻るか」

「にゃ!」


 俺はクロと二人で仲間の待つ基地へと戻った。


「ただいま」

「ただいまにゃ」

「おかえりなさい!」

「お疲れ様です」

「おかえりー! 密会は終わったの?」


 基地へ戻ると、メイだけがイラズラっ子のように笑みを溢す。


「密会は終わったよ」

「にゃはは……」

「それで、密会の内容はうちらにも関係ある話なの?」

「関係ある話……に、なるのか?」

「大ありにゃ!」

「大ありらしい」


 告げるのは俺の正体だ。一番の当事者は俺になるのだが……関係ありになるのか?


「ふーん、それじゃ今から作戦会議?」

「作戦会議っぽいことも後からするが……その前に3人へ告白したいことがある」

「……なに?」

「何でしょうか……?」

「リク殿! 私の想いはいつでもリク殿と同じですぞ! さぁ! 勇気を出して!」


 ヒロアキだけが、何か方向性を見失ってる気もするが……まぁ、いいか。


「告白する内容は――俺の正体だ」

「リクの正体?」

「ふぁ!? 突然ですね……」

「さぁ! さぁ! 想いは同じですぞ!」


 とりあえず、ヒロアキは何か怖いから無視しよう。


「俺の正体――メインキャラクターの名前はソラだ」

「え?」

「ウソ……」

「リク殿! 私は全てを……むむ?」


 俺は自身のメインキャラクターの名前を仲間たちに告白した。


「十字架で囲んだ『✛ソラ✛』とかじゃなくて……本物のソラ様……?」

「え、え、え!? て、【天下布武】のソラさんなのですか……?」

「むむ? これはどういうことですかな?!」


 俺の告白に仲間たちが驚愕する。


「俺のメインキャラクターは【天下布武】の団長――ソラだよ」

「リクにぃがソラという明確な証拠にはならないけど、リクにぃが【天下布武】の幹部の一人であることはコレで証明できるにゃ」


 俺の言葉をフォローするようにクロが『シルフィードの祝福』の鑑定証を仲間たちに前に差し出す。


「クロちゃん、これは……?」

「『シルフィードの祝福』ですか?」


 鑑定証を初めて目にしたメイとヒナタが鑑定証を手に取り、確認する。


「これは鑑定証にゃ。職人が鑑定した結果を示した証明書にゃ。メイねぇ、ヒナねぇ、ヒロにぃ、出自を確認して欲しいにゃ」

「出自? えっと、『第七〇階層 エルダードラゴンより』?」


 メイが代表して出自を読み上げる。


「今は分からないけど、ボクたちがこの世界に遮断された時点で第七〇階層の主である『エルダードラゴン』を討伐したプレイヤーは7人しかいないにゃ」

「それって……」

「遮断前に『エルダードラゴン』を討伐したプレイヤーは、【天下布武】のマイ、ツルギ、メグ、セロ、ミント、マックス、そして団長のソラにゃ」

「でも……売りに出されていたら……?」

「ボクの知る限り、『エルダードラゴン』のドロップ品は売りに出されてないにゃ。出品されていたら、ネットで騒がれるにゃ」

「私はリク殿を言葉を信じますぞ! しかし、それだけでは、リク殿がソラ殿と言う証拠にはならないのでは?」

「だから、リクにぃがソラという明確な証拠にはならないと言ったにゃ。でも、少し頭を働かせれば……リクにぃがソラと気付けるにゃ」

「キャラクタークリエイトをする時に性別は偽れない。つまり、リクさんの正体はソラさん、ツルギさん、セロさん、マックスさんに絞られる」

「ヒナねぇ、正解にゃ。そして、その中で最近ログインをしていなかったプレイヤーはソラだけにゃ」


 クロは俺の正体がソラであることを理論立てていく。


「と言うことは……リクが『炎帝のソラ』様なの!?」

「その二つ名は知らないが……【天下布武】のソラであることは真実だ」

「うわ!? え? ちょ!? マジ!? うちは『炎帝のソラ』様と討伐数を競ってたりしていたの!?」

「はわわ……リクさんは伝説のプレイヤーだったのです!?」

「リク殿、私は仮にリク殿がソラ殿であってもこの想いは変わりませぬ!」


 仲間たちは俺がソラであることを受け入れ始める。


「メイ、その様付けと恥ずかしい二つ名は止めてくれると助かる」

「で、でも、『炎帝のソラ』様だよ!」

「今は風属性のリクだけどな」

「むぅ」

「皆に一つ言いたいのは、俺が正体を隠していた理由は告白したところで何も変わらないからだ。俺はソラであることを隠してはいたが、今まで手は抜いていなかった。ソラと告げたところで、俺はソラの頃の強さを取り戻すことは出来ない」


 俺の言葉に仲間たちが押し黙る。


「だから、隠していたことは本当に申し訳なかったと思うが……今まで通りに接してくれると助かる」


 俺は仲間たちに頭を下げる。


「今のリクも十分に強いけどね!」

「うんうん! 周りのプレイヤーと比べてもリクさんは強かったですよ!」

「リク殿の正体が何であれ、私の忠義は変わりませぬ」


 三人は頭を下げた俺を気遣うように、明るい声で盛り立ててくれた。


「それで、何でこのタイミングでソラであることを告白したの?」


 メイが笑顔を消して真剣な眼差しを俺へと向ける。


「このタイミングで皆に告白した理由は――」


 俺はクロの提案した作戦を三人に説明したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る