緊急クエスト最終日前夜①

「うん! いいんじゃない! その作戦でいこうよ!」

「でも……皆さんは、リクさんをソラさんと信じてくれるでしょうか?」


 クロの立案した作戦にメイは即答で賛同し、ヒナタは難色を示す。


「リクにぃをソラとは信じないかも知れないにゃ。それでも、【天下布武】の幹部であることは証明できるから、タックが偽物であることは証明できるにゃ」

「そもそも、俺はソラと告げるつもりはない。クロの作った鑑定証を提示して、タックが偽物であると告げるだけだ」


 タックが偽物であると証明出来れば、タックの求心力は著しく落ちるだろう。そこに、ソラ……とまでは言わなくても、俺のメインキャラクターがトッププレイヤーであることを証明出来れば……プレイヤーを纏め上げられる可能性は大きい。


「リクさんは今回の緊急クエストで目覚ましい成果を上げています! 【百花繚乱】以外のプレイヤーはリクさんを支持するとは思います!」

「ガンツっておっさんもリクを信用しているから、勝算は大きいよね!」

「リク殿はソラ殿であるということを公表しないのですか?」


 ヒロアキが俺の意見に疑問を挟む。


「俺がソラであることの証明は不可能だ。ならば、無理に公表しない方が信憑性は増すだろう」


 自分からソラと言うのではなく、こちらから与えた情報から、プレイヤー自身が考えて俺がソラであると辿り着いた方が、より大きな効果が見込めるだろう。


「明日の襲撃まで5時間もないにゃ! 早急に動くにゃ!」

「そうだな。まずは、ガンツに協力を仰ごう」


 俺はプレイヤーに影響力のあるガンツの元へと急いだ。


「ん? 風の兄ちゃんじゃねーか? こんな時間にどうした?」

「明日の襲撃に備えて、ある作戦を実行したい」

「おぉ! イイね! 風の兄ちゃんはまだ諦めていないんだな! いいぜ! 言ってみな!」

「作戦内容を告げる前にコレを見て欲しい」


 俺はクロから預かった『シルフィードの祝福』の鑑定証をガンツに差し出す。


「ん? コレは……鑑定証? 何でこの階層でそんなモノを……って! おい! コレは……!?」


 受け取った鑑定証を確認するガンツの声音が、昂ぶり始める。


「ガンツさんには俺がセカンドプレイヤーであることを告げていたよな?」

「あ、あぁ……」

「その鑑定証の示した結果が、俺のメインキャラクターの正体だ」

「って……おい……ちょっと待てよ……第七〇階層の主のドロップ品を所持しているプレイヤーって言えば……おい……マジかよ……」

「俺の口からメインキャラクターの名前を明かすつもりは無いが、そういうことだ。ついでに言えば、タックは詐称している」

「まぁ、確かに風の兄ちゃんのメインキャラクターがそうなら……あいつのは詐称になるわな……」


 ガンツも限られた情報で俺の正体に気付いたようだ。


「作戦と言うのは、この情報をここに集まった全てのプレイヤーに開示するというものだ」

「開示して、どうするつもりだ?」

「【百花繚乱】の連中にも正しく防衛に参加してもらう。ガンツさんも今のままで、最終日を乗り切れるとは考えていなかっだろ?」

「まぁ……確かに……ちっとばかり厳しいと思ってはいたが……こんな隠し玉ありかよ……」

「最後に、俺の正体の察しはついたと思うが、そんな俺に指揮を任せてはくれないか?」


 ガンツは大規模旅団の下につくのは嫌だと公言していた。俺が正体を明かしたことにより【百花繚乱】は瓦解し、更にはガンツたちが反発と言う結果になれば、今回の作戦は確実に失敗する。


「この俺に……【天下布武】の下に入れと言うのか……」

「違う! この俺に――あんたが風属性のニュービーと言うこの俺に協力してくれと頼んでいる」

「ハッ! 風の兄ちゃんとは言ったが……もうニュービーだなんて思っちゃいねーよ!」

「それで、答えは?」

「カァーッ! わかったよ! 俺はあんたを……風の兄ちゃんのことは気に入っている! 今回は大人しく兄ちゃんの絵図に乗ってやるよ!」

「恩に着る」

「バカヤロー! 風の兄ちゃんたちはすぐにでも上を目指すんだろ? 謂わば、この町は通過点だ。でもよ、俺はこの町と共に生きている! 礼を言うのはこっちのほうだ!」

「早速だが、時間はない。プレイヤー全員を集めるのを手伝ってくれ!」

「あいよ!」


 その後、仲間たちとガンツを中心としたプロ初心者集団と共に、全てのプレイヤーに呼びかけたのであった。



  ◆



 全てのプレイヤーを集めるのに要した時間は1時間。


 特に【百花繚乱】のアホ共を集めるのに時間を要したが、タックが暴走した時に救援した【百花繚乱】の連中が比較的こちらに友好的だったこともあり、何とか全員を集めることに成功した。


 最初に話すのはクロだ。


 俺は名前を隠蔽するベネチアンマスクを被り、クロの後方に控えた。


「お疲れのところ集まってくれて恐縮にゃ! 今日は沢山の犠牲者を出してしまったにゃ! ボクたちは間もなく緊急クエストの最終日を迎えるにゃ! 緊急クエスト最終日は今日よりも厳しい戦いになるにゃ! だからこそ……ボクは一つの真実を皆に伝えたいにゃ!」


 クロの言葉に周囲のプレイヤーがざわつき始める。中には貴重な休息時間を奪ったと罵声を飛ばすプレイヤーもいる。


「知っているプレイヤーもいると思うけど、ボクはセカンドプレイヤーにゃ! だから、色々なアイテムを持ってるにゃ!」


 しかし、クロは周囲の喧騒を気にせず主張を続ける。


「そして、このアイテム――『鑑定証』もセカンドプレイヤーだから所持しているアイテムにゃ! 『鑑定証』にはアイテムの鑑定内容が記載されるにゃ! そして、この『鑑定証』を確認して欲しいにゃ!」


 クロは『シルフィードの祝福』の鑑定証を集まったプレイヤーに向けて掲げる。


「そこのキミ! この『鑑定証』を読み上げて欲しいにゃ!」


 クロはマントを羽織ったプレイヤー――【百花繚乱】の旅団メンバーを指名する。


「え? え? お、俺? えっと……シルフィードの祝福……効果……風属性の効果向上、成長補正……AGI……出自……第七〇階層、エルダードラゴンより……こ、これでいいか?」


 指名されたプレイヤーはもごもごと鑑定証に記載された文章を読み上げた。


「カァーッ! ダメだ! 聞こえねーな! 俺が読んでやるよ! シルフィードの祝福、効果は風属性の効果向上と成長補正AGI、んで、出自は第七〇階層のエルダードラゴンより! この意味がおめーたちは理解出来るか?」


 【百花繚乱】のプレイヤーから『鑑定証』を取り上げ、大声で読み上げたガンツは獰猛な笑みを浮かべて周囲のプレイヤーに問いかけるのであった。

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