第二一階層

 整然と建ち並ぶ様々な種類の施設。舗装された幅広い通路には多くの人々が行き交っており、入口付近の広場には行商を開いているプレイヤーの姿も見受けられ、町全体が活気付いているように感じた。


 第二一階層のタウン――『ラーベルトタウン』はそんな町であった。


 プレイヤーの多くは当然の様にそんな町の固有名詞を気にすることなく、『第三の町』或いは『三番目の町』と呼んでいた。


「うわっ! 大きな町だねー!」


 メイが楽しそうに周囲をキョロキョロと見回す。


「第三の町はこの世界で二番目に大きいタウンにゃ」

「はじまりの町より大きいのですか?」

「はじまりの町より広いにゃ!」

「人口も多そうですねー」

「んー……NPCの人口ははじまりの町より多いけど、プレイヤー人口は多分はじまりの町の方が多いにゃ」

「え? こんなに沢山いるのにですか!?」


 クロの答えを聞いたメイが驚きを露わにする。


「この町で一番盛んな場所がココだからな」


 広い町故に全てのプレイヤーが必ず通る道――入口付近に行商が集中していた。また、入口付近に冒険者ギルドが設立されているのもプレイヤーが集中している一つの理由になっていた。


「プレイヤー人口が一番多いのってはじまりの町なの?」

「プレイヤー人口が一番多いのは第五一階層のタウン――『王都』だろうな」

「『王都』? 五番目の町……あ、六番目の町か! とかじゃないの?」

「第五一階層のタウンだけはホームタウンにしているプレイヤーが多いからか、正式名称の『王都オリジンベル』を略して『王都』と呼ぶプレイヤーが多いな」

「へぇ……そんなもんなんだ」

「決めたのは俺じゃないが、そんなもんだな」

「それで、リクにぃどうするにゃ?」


 メイと会話をしている俺にクロが問いかける。


「そうだな……金銭的にも余裕があるから久しぶりに宿屋に泊まるか」

「賛成にゃ! 基地の居心地も悪くにゃいけど……たまにはゆっくりお風呂に入りたいにゃ!」

「この世界にもお風呂はあるんですね!」

「風呂ならはじまりの町の宿屋にもあっただろ?」

「あの頃はまだゲームの世界だったので……ゲームの中でお風呂と言うのは考えていませんでした」

「うんうん! この世界のうちらってどういう存在なのかよくわからないけど……そんなに汚れないからね!」

「この世界の風呂も悪くはないぞ」

「へぇ……楽しみだなぁ! あ!? リク、覗いちゃダメだよ!」


 メイは何を思ったか胸に手を当てていたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「安心しろ……この世界の仕様が変わってないなら、男性キャラクターは何があっても女性用の風呂には立ち入ることは出来ない」


 不可侵領域とでも言うのか……異性の風呂場に入ろうとすると見えない壁に阻まれてしまう。


「それなら安心だね!」

「ふむ。安心ですな!」


 メイが笑うと、何故かヒロアキも何度も頷き満足気な表情を浮かべている。


「それじゃ、各自ゆっくりと休めるように内風呂のある個室タイプの宿屋にするか」

「――な!?」


 絶望するヒロアキを無視して、俺は宿屋へと向かうのであった。



  ◆



「いらっしゃいませ! 当宿へようこそ! お泊りでよろしいでしょうか?」

「一泊、食事付きで頼む」

「畏まりました。8人部屋をご用意することも可能ですが、どうしますか?」

「個室で5部屋頼む」

「畏まりま――」

「あ! ちょっと待って! 二人部屋とかもあるの?」

「はい。ご用意出来ます」

「じゃあ、うちはヒナと二人部屋でいいよ! ヒナもいいでしょ?」

「久しぶりの姉妹水入らずですね。いいですよ」


 個室を取る予定だったが、メイはヒナタとの相部屋を希望した。


「むむ? ならば、私もリク殿に仕える身として……ここはリク殿を守る為にも……」 


 ヒロアキが大きな独り言を呟きながら、チラチラと俺へと視線を送ってくる。


「二人部屋を一つと、一人部屋を3つ頼む」

「――な!?」

「畏まりました」


 宿屋の受付でチェックインを終えた俺たちは一旦別れて、案内された自分の部屋へと向かった。


 ふぅ……。


 俺は部屋に入ると、設置されていたベッドに大の字の寝転んだ。


 一人の時間は久しぶりだな。


 ソラであった時はハウス――自宅があったので一人の時間も確保出来ていたが、この世界が遮断されてからは寝泊まりも基地となり24時間仲間と一緒だった。


 んー……久しぶりの一人だ……とは言え……特にすることもないな……。


 8人部屋でもよかったのか?


 仲間との行動に慣れすぎて、一人の時間の使い方を忘れてしまったようだ。


 今後の予定と言っても……クラスアップして、階層攻略を続けるだけだ。


 クラスアップ先に関しても、俺の場合は明確なビルド計画がすでに頭の中に構築されている。


 クラスアップで悩むのは……俺じゃなくてヒナタか。


 メイは恐らく『忍者』を選択するだろうが、ヒロアキとクロは何を目指すのだろうか?


 ヒロアキは耐久特化の『守護騎士』か?


 クロは全てのスキルをマスターしたと言っていたので、『鍛冶職人』、『錬金術師』、『細工士』、『従者』と選択肢は選り取り見取りだ。恐らく『鍛冶職人』を選択すると思うが……クロは俺と同じくセカンドだ。ひょっとしたら、俺の考えとは別のビルド計画があるのかも知れない。


 せっかく一人になったのに、頭の中に思い浮かぶのは仲間のことばかりだった。


 んー……一度全員で集まって話し合うべきか?


 とは言え……皆は久しぶりの休暇を楽しみたいだろうし……んー……どうするかな………。


 と、一人部屋で悶々と悩んでいると、


 ――トンッ! トンッ! トンッ!


 部屋の扉がノックされる。


 ノックされた扉を開けると、


「リクさん、少し相談いいですか?」


 扉の向こうにはヒナタとメイが立っていた。


「ん? どうした?」

「あのー……お休みのところすいません。クラスアップ先についての相談なのですが……よろしいでしょうか?」

「問題ないな! 折角だから、クロとヒロも呼んで全員で話し合おうか!」

「はい!」


 ヒナタの言葉を受けた俺は少し嬉しくなったのであった。



――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作(トプセカ)をお読み頂きありがとうございますm(_ _)m


カクヨムの近況ノートにてアンケート(アイディア募集?)を記載しました!


ご興味のある方はそちらも是非覗いてみて下さい!


今後もトプセカをよろしくお願いしますm(_ _)m


※本作のタイトルが長いので暫定的に略称をトプセカにしてみましたw

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る