緊急クエスト(S2)最終日⑤

 魔導人形王ゴーレムキングとの戦闘開始から1時間。


 かなりのダメージを与えているとは思うが……機械故に感情は読めず、外装に大きな傷も見当たらないので、成果を体感することはできなかった。


 魔導人形王ゴーレムキングの攻撃パターンは大きく分けて3つ。


 1つは、巨大な腕の振り下ろし。


「フンッ! これしきで私は倒せませぬぞ!」


 振り下ろされた魔導人形王の拳をヒロアキは構えた盾で受け止める。


 シンプルな攻撃で、予備動作も大きいので回避するのは簡単だが……回避すると、魔導人形王はコンボのように次々と攻撃を繰り返す。その過程の移動に巻き込まれるだけでも大ダメージだ。


 よって、耐えれるのであれば、タンクが受け止めるのが最適解だった。


 但し、その攻撃の圧は凄まじく、多くのタンクは萎縮し、体勢を崩してしまう。体勢を崩してしまえば、受けるダメージは跳ね上がり、消滅する危険性もあった。


 しかし、ヒロアキが臆することなく、受け止めてくれているので、俺たちアタッカーは攻撃に集中できていた。


 1つは、膨大な魔力を放出する、通称――レーザービーム。


「来るぞ!」

「ラジャ! ――《混沌》!」

「フンヌッ! ――《聖域》!」

「いきます! ――《結界・魔壁》!」

「――《フィジカルブースト》! ですわ!」

「――《エクストラヒール》!」


 俺の声に連動して、メイは闇の領域を展開。後衛の仲間たちは一斉にヒロアキへとバフを施す。


「ぬあ……んぐ……効かぬ……効きませぬぞ!!」


 盾を構えたヒロアキは魔導人形王の胸部から放出されたレーザビームを受け止める。


 いや……効いてはいるだろ……。体力の8割近く削られてるじゃねーか……。


 胸部からコアが露出し放たれる、超高威力の攻撃だ。こちらの攻撃も振り下ろし同様に、回避すると散乱し始めて被害が増大するので、タンクが受けるのが最適解となる。


 但し、高耐久のヒロアキといえど、何の策もなしに受ければ消滅は必至。事前に、メイが《混沌》を展開し魔導人形王の能力を下げ、ヒナタの結界を始めとした各種バフを施してようやくギリギリ耐えれる形であった。


 故に、この攻撃はヒーラー、バッファー、デバッファーのタイミングも重要であった。


 仲間を信頼して初めて、臆さずに受け止められる攻撃となるが、ヒロアキは当然のように堂々と受け止めていた。


 臆さない精神力もPSプレイヤースキルの一種。ヒロアキはタンクとしては超一流のプレイヤーと言えるだろう。


 ちなみに、この攻撃をしている間と直後のコアが露出しているときは最大の攻撃チャンスとなるのだが、胸部の位置が高く、攻撃できる手段は限られていた。


 そして最後の1つが、地ならしからの振り回し。


 魔導人形王の足が緩やかに上がる。


「来るぞ! ――跳べ!」


 俺の声に呼応して、アタッカーはその場で跳躍。


 ――ッ!?


 魔導人形王が地面を踏み抜くと、空中にいても大気の揺れを感じることができた。


「散開!」


 着地と同時に大きく後方へとバックステップ。


 先程までいた場所に、魔導人形王の両腕が振り回された。


 その場で大きく足踏みをし、地を大きく揺らす。この時、魔導人形王の近くに立っているプレイヤーは立っていることもままならず、硬直してしまう。そして、その後に来る巨大な両腕による振り回しに巻き込まれると、大ダメージを受けるという、近接泣かせのコンボだ。


 この回避手段は『大なわとび』と揶揄され、タイミングを誤ったアタッカーは、高い可能性でこの戦場から退場となっていた。


 他にも魔導人形王の攻撃手段は存在したが、常に一定の距離を維持することで、攻撃手段をこの3つに限定していたのであった。


 ここまでの……いや、これから先も対魔導人形王ゴーレムキングのMVPは間違いなく、ヒロアキだ。


 一歩間違えれば消滅する危機の中、果敢にタンクを務めるヒロアキ。


 そんなヒロアキに俺たちがしてやれることは1つだけ――1秒でも早く魔導人形王ゴーレムキングを倒すことだ。


 俺は、不朽、不屈と謳われる魔導人形王ゴーレムキングへと必死に攻撃を仕掛けるのであった。



  ◆



 魔導人形王ゴーレムキングとの戦闘開始から3時間。


 ようやく、左脚の外装にヒビが生じた。


 集中力の欠けたプレイヤーは一旦前線から外し、休息をとらせるなどして、ようやくここまで漕ぎ着けた。


 ここからだ。ここからの攻撃のタイミング・・・・・が重要になる。


「アタッカー総員! 左脚への攻撃を中断し、右脚の攻撃に集中!」


 アタッカーたちに右脚の攻撃を指示し、俺は一人で左脚の調整にはいる。


 この脚をへし折るタイミングが重要なのだ。


 失敗は許されない……。


 俺は左脚を攻撃しつつ、右脚の状況を確認。


「メイ、イセは一旦前線から離れて休憩!」

「りょーかい!」

「承知!」


 一度も休息をとっておらず、火力の高い二人を前線から外し調整する。


 お! 左脚はいい感じになった。


 後はタイミングを計るのみ。


 俺は脚ではなく、胸部に《ウィンドカッター》を当てながら、様子を探る。


 ――!


 魔導人形王ゴーレムキングの胸部の外装が僅かに震えた。


「総員! 左脚に総攻撃を仕掛けろ! 」


 俺の声に呼応して、休息中のメイとイセ、そして右脚を攻撃していたアタッカーたちが左脚へと殺到。俺自身も一対の短剣で左脚を斬り刻む。


 魔導人形王ゴーレムキングの胸部から露わになったコアに光が集束。レーザービームが放たれようとした直前――


 ――!


 手にした短剣から不朽と思われた装甲を打ち砕いた感触が伝わったのであった。

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