第四〇階層を目指して

「えっと……リクさんのお考えは?」

「うんうん! リクはどうしたいの? うちは情報がないから判断できないよ」

「情報か。第四一階層で緊急クエストを迎えた場合のメリットとデメリットを伝える。メリットは、報酬が良くなる。また、敵のレベルがあがるから得られる経験値も増える」

「敵が強くなるのはメリットなのですね……」

「敵が強くなることは危険度が増すということだから、ヒタナの言うとおりデメリットにもなるが……気になる情報もある」

「気になる情報というのは?」

「前にクロが言っていた、前回の緊急クエストの結果だ」

「クロちゃんが話してくれたのは……」

「第三一階層はBランク、第四一階層はSランクでクリアしたって情報かにゃ?」

「あ! なるほど! Bランクってことは、失敗していた可能性もあるのか! 逆にSランクだと安全にクリアできたってことなのかな?」

「そうなるな。但し、当時のプレイヤーがまだ残っているのかは不明だけどな」


 前回の緊急クエストから2ヶ月以上が経過している。上を目指しているなら、第五一階層に到達していても不思議ではない。


「それは大丈夫にゃ。中心となった旅団――【青龍騎士団】はまだ残っているにゃ」

「本当か?」

「鍛冶をしていると色々な町の噂が入ってくるにゃ。【青龍騎士団】は上を目指す全員がレベル59になるまで、居残るのが方針らしいにゃ」

「なるほど」


 第五一階層に到達すると、レベル60を超えたプレイヤーは第五〇階層に戻ってこれなくなる。しかも、第五一階層からはPKが解禁され、レベル60――最上級職に至っていないプレイヤーはPKのカモになってしまう。


 故に、第五一階層への到達は足並みを揃えるのが基本とされていた。


「これらの情報から、俺は第四一階層で緊急クエストを迎えた方がいいと思っている。特に、メイとヒロは獣魔を保有していない。緊急クエストの報酬には獣魔の卵が含まれる。上の階層で受けた方が、よりレアリティの高い獣魔が期待できるからな」

「うん! うちはリクの意見に賛成!」

「私も賛成です!」

「リク殿に賛成ですな」

「了解にゃ! でも、22日で第四一階層を目指すとなると結構ぎりぎりになるにゃ」

「第三五階層までは全員が推奨レベルを超えている。第四〇階層に到達する頃には推奨レベルである50にも余裕で届くだろう。駆け足でいけば間に合うだろう」

「第四〇階層のスイッチダンジョンはどうするにゃ?」

「最悪、片方のスイッチは俺がソロで行ってもいいが……フレンドに当てがあるなら、誘ってもいいかもな」


 アイリスたちを誘えば2つ返事で引き受けてくれるだろうが、アイリスたちのレベルを考えたら完全に手を借りる形になってしまう。可能ならば、未攻略のプレイヤーを誘って、借りをつくるのは避けたい。


「うーん……うちらは5人だから3人足りないんだよね?」

「3人で固定パーティーを組んでいるプレイヤーは珍しいから、4人を誘ってこちらは今まで通り5人パーティーを組むのが現実的かもな」

「でも、そうなると……最後は9人になっちゃうから、経験値が損しちゃうんだよね?」


 こちらの事情で相手にデメリットを与える場合は、親しい間柄でないと誘いづらい。


「誘うのが厳しいのなら当初の予定通り、俺たちだけで挑むのもありだぞ?」

「んー……二人組なら仲良くなったプレイヤーはいるけど、そうなると一人足りないからなぁ……」

「アケミさんたちですね! 誘えば来てくれそうです!」

「むむ? でしたら、私は野良を専門としているソロプレイヤーに心当たりがありますぞ」


 メイ、ヒナタ、ヒロアキの3人は野良募集の経験から、誘えるフレンドに心当たりがあるようだ。


「そのフレンドのレベルとクラスは?」

「アケミは魔導師で、相棒のカナメが竜騎士だね。レベルは二人とも48だよ」

「イセ殿はレベル49のモンクですな」

「3人とも、第四一階層には到達してないのか?」

「してないはずだよー。レベル50になったら挑むって言ってたかな」

「イセ殿もまだですな」

「なら、その3人に18日後に共に挑もうと連絡をしてみてくれ」

「オッケー!」

「承知」


 18日で第四〇階層か。ユリコーンの脚力であれば、間に合うだろう。


「アケミたちオッケーだって!」

「イセ殿も了承しましたぞ」


 これでスイッチダンジョンの問題は解消された。


「それじゃ、早速出発するか!」


「「「おー!」」」



  ◆



 ユリコーンの牽く馬車に揺られること10分。

 

「そういえば! うち、デスサイズを使っているリクを見たことないー」

「死神には向かない武器だからな」


 ここ数日はメイたちとパーティーを組むのは死神と戦うときのみだった。


「それで実際にはどうなの? 強いの?」

「戦闘スタイルの幅は広がったな」

「へぇ〜……ちょっと見たいかも」

「適当な雑魚の群れを見つけたら仕掛けるか」

「いいねー!」


 今は戦闘を避けて馬車で疾走中だ。《索敵》を使えば、そこら中にモンスターの気配は確認できるが、その都度馬車から降りていたら期日に間に合わない。


「そういえば、今日までデスサイズを強化しなかったのですか?」

「攻撃力が低い武器で攻撃回数を重ねたほうが熟練度の成長は早いからな」


 熟練度稼ぎは、ランクの下がった武器を使用するのが一般的だが、デスサイズは形状の関係から普通の斧とは扱いがかなり異なる。故に、俺は敢えて強化しないでデスサイズを使い続けていた。


「今回はボクの鍛冶スキル――《特殊技巧》でデスサイズの特性を強化したから、《ソウルテイカー》がかなり凶悪になっていると思うにゃ」


 《特殊技巧》とは鍛冶職人が習得出来るスキルで、選択した一つの項目を更に強化するスキルだ。選択出来る項目は、攻撃力、防御力、特性の三種類があり、デスサイズは特性を強化してもらった。


「お、前方に7匹のハイコボルトの反応があるな。ヒロ、馬車を停めてくれ」


 俺は御者を務めていたヒロに声をかけた。


「んじゃ、行ってくる」


 俺は馬車から降りて、一対の短剣を構える。


「あれ? デスサイズは?」

「ちゃんと使うよ」


 一対の短剣を手にして、ハイコボルトへと疾走。間合いを捉えると、


 ――《ウェポンチェンジ》!


 手にした武器をデスサイズへと換装する。


 これは、デスサイズより短剣を装備しているときの方が速く走れるという、ちょっとしたテクニックだった。


 ――《パワースイング》!


 力任せにデスサイズを振り抜き、間合いに捉えた複数のハイコボルトを薙ぎ払う。


 ――!


 牽制のつもりの一撃だったが、三匹のハイコボルトがそのまま息絶える。


 クロの強化は素晴らしいな!


 俺は優秀な鍛冶職人であるクロに感謝の念を抱きながら、近くで倒れていたハイコボルトの首を刈り取る。


 残ったハイコボルトは三匹。


 このまま討伐するのは簡単だが……せっかくのお披露目だ。俺はステップを刻み、ハイコボルトの位置を調整する。


「メイ! 忍術の準備をしろ!」

「え? う、うん!」


 俺は後方に控えるメイに指示を飛ばすと、横へと並んだ三匹のハイコボルトにデスサイズを振るう。


 ――《ソウルテイカー》!


 禍々しい漆黒のもやに覆われたデスサイズに切り裂かれたハイコボルトたちが昏倒する。


「今だ!」

「オッケー! ――《火遁の術》!」


 昏倒した三匹のハイコボルトは大気を焦がす業火に呑み込まれ、息絶えた。


「グッジョブ」


 俺はメイにサムズアップして笑顔を向ける。


「ニンニン♪ 忍者メイ只今参上! なんちって」


 念願の高火力の忍術を手にしたメイは上機嫌だ。


「こんなもんだな。短剣では対応に苦労する対複数がかなり楽になる感じだな」


 俺も強化されたデスサイズの威力にテンションが上がっていた。


「わぁ……なんか前のリクさんとかなりイメージが変わりますね」

「武器が変われば戦闘スタイルも変わるからな」

「これからはデスサイズ主体でいくの?」

「んー……ケースバイケースだが、主力は短剣だな」

「そうなんだ」

「AGI特化の俺は火力に優れているわけでなく、耐久に至っては劣っているから、回避に優れ、パリィが使える短剣は手放せないからな」

「《虚構フィクション》だっけ? アレは?」

「防御手段が《虚構フィクション》しかないのは、流石にダメだろ」

「リク殿の防御手段は他にあるではないですか!」

「ん? ステップか?」

「私ですぞ! 私はリク殿のためとあらば……肉盾となり! 喜んでこの身を捧げる所存!」

「よしっ! デスサイズのお披露目はこんな感じだな。第四〇階層を目指して突っ走るぞ!」


「「「おー!」」」

「――な!?」


 ユリコーンの牽く馬車に揺られ、俺たちは第四〇階層を目指した。



―――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます!


今回は文字数増量でお届けしております!! 今回の話は2話に分けて投稿しようと思っていたのですが……何となく寂しかったので!


そして、今週はかなり本業がバタバタしており……執筆にあまり時間が割けない状況となっており、水曜日は休載とさせていただきます。


誠に申し訳ございませんm(_ _)m

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