ユリコーン②

「いいですか? あの人――リクさんは私の大切な仲間です。攻撃したらメッ! ですよ」

「本当に捨てられちゃうからね? フリじゃないからね? わかった?」

「ユリリィィィイイン!」


 ヒナタとメイがユリコーンを再び説得し、


「ユリコーン。キミはまた契約者を悲しませるのかにゃ? キミはどうしたい? ボクはキミの可能性を信じてるにゃ。キミはこの素敵な契約者を護りたくないのかにゃ?」

「ユリリ」


 最後にクロが優しい口調でユリコーンに話かける。


 クロはユリコーンの前契約者と知り合いなのか?


「クロはユリコーンを従魔に迎えるのに賛成のようだな」

「リクにぃ……ソラなら知ってるはずにゃ。ユリコーンの実力を」

「確かに実力だけは折り紙付きだな」


 ユリコーン。存在自体がネタキャラのような従魔だが、攻撃、回復、支援の全てが高い水準で完成されている従魔だ。


「ボクは優しいヒナねぇとメイねぇ……それにリクにぃとヒロにぃ。このパーティーならユリコーンの力を存分に発揮出来る器量があると感じるにゃ」

「器量ね……」


 しかし、ここで情にほだされる訳にはいかない。ヒナタが男性キャラ――俺とヒロアキを支援出来なくなることは、大きな戦力ダウンだ。


 とは言え、器量か……。俺が受け入れる心を持ち合わせていないのに、ユリコーンに俺を受け入れろと言うのは筋が通らないだろう。


「ユリコーン! 俺を支援しろとは言わない! ここにいる大切な仲間を護りたいなら、縛られた本能に打ち勝て! 共に大切な仲間を護ろう!」


 ユリコーンに俺なりの精一杯の誠意を示した。


「いきます! ――《ヒール》!」


 ヒナタの杖から放たれた優しい光が俺を包み込む。


「ブルルルッ」


 ユリコーンはその場で嘶き、俺の回復を見守った。


「成功……!? やったぁ! 成功! 成功ですよね!」

「やったね! これで従魔はこの子に決定だね!」

「ユリリィィィイイン!」


 飛び跳ねて喜ぶヒナタとメイを見て、ユリコーンも嬉しそうに嘶く。


「まだだ。次は、俺に補助魔法を掛けてくれ」

「――! わ、わかりました! ――《アクアシールド》!」

「ブルルルッ」


 ヒナタが俺の前に水の盾を展開。ユリコーンはまたしても小さく嘶くだけで妨害はしない。


「良い子ですね! 賢い子です!」

「流石はユニーク従魔だね!」

「ユリリィィィイイン!」


 2回連続の成功にヒナタとメイが歓喜する。


「次は、ヒロにも同じように回復魔法を」


 俺に対しては大丈夫だったが、ヒナタが最も支援する相手はヒロアキだ。ここで失敗するようなら、やはりユリコーンは迎え入ることは出来ない。


「準備はいつでもいいですぞ!」


 ヒロアキは豪気なことに、ユリコーンの突進を受け入れるかのように両手を広げて待ち構える。


「いきます! ――《ヒール》!」

「ユリリィィィイイン!」


 ――!


 ヒナタの杖から放たれた優しい光と、ユリコーンの角から放たれた優しい光がヒロアキを包み込む。


「ムム? これは……?」


 二重の光に包まれたヒロアキは困惑した表情を浮かべる。


「ユリコーンの回復魔法にゃ」

「わわっ! 凄い! この子も回復魔法が使えるのですね!」

「アレ? リクの説明だと……ヒロには使わないんじゃないの?」

「ん? そのはずだが……補助魔法をヒロに使ってくれ」

「は、はい! ――《アクアシールド》!」

「ユリリィィィイイン!」


 ヒナタがヒロアキの前に水の盾を展開すると、ユリコーンもヒロアキの前に光の盾を展開する。


 ――?


「あれ? コイツってひょっとしてユリコーンじゃない?」

「んー……ユリコーンのはずにゃ。ひょっとして……ヒナねぇ、もう一回リクにぃに回復魔法を掛けて欲しいにゃ」

「はい? リクさんにも貴方の凄さを見せましょう! いきますよー! ――《ヒール》」


 ヒナタはクロに促され、ユリコーンに話しかけた後に俺へと回復魔法を掛けるが、


「ブルルルッ」


 ユリコーンは小さく嘶くだけで、先程のように回復魔法を唱えない。


 その後、何度か実験したが……対象がヒナタ、メイ、クロの場合は100%の確率で魔法を重ね、ヒロアキが対象の場合でも50%以上の確率で魔法を重ね……俺が対象の時のみ、魔法が重ねられることはなかった。


 俺だけが嫌われているのか……?


 実験は、俺だけが傷付く結果に終わる。


「んー、何ででしょうね? リクさんにも使うようにお願いはしているのですが……」

「リクが最初に意地悪なこと言ったからいけないんじゃないの?」


 実験の結果にヒナタとメイも首を傾げる。


「ひょっとして……ヒロにぃは……ユリコーンの嫉妬の対象外なのかも知れないにゃ」

「ん? どういうことだ?」

「まぁ、深くは考えない方がいいにゃ!」


 クロの独り言にツッコミを入れたが、有耶無耶にさせる。


「リクさん! この子を私の従魔にしますね!」

「わぁ……ヒナいいなぁ」


 ヒナタが揺るぎない意志を俺へと示す。


「約束だからな……但し、俺への攻撃はNGだからな。しっかりと言い聞かせてくれよ」

「はい! よろしくね! ユリちゃん!」

「ユリリィィィイイン!」


 こうして、俺たちは新たな仲間となる従魔――ユリコーンを迎え入れ14日間にも及んだ従魔ガチャクエストを完了させたのであった。

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