第三〇階層を目指して

 ユリコーンをヒナタの従魔として迎えた俺たちは、ユリコーンの牽く馬車に乗って第三〇階層を目指すことにした。


 俺がユリコーンの牽く馬車に乗ることは問題無かったが、御者をすることは出来なかった。今はヒロアキが御者を務めていた。


 俺だけが御者を拒否られるのは解せぬ……。


「ユリは本当に変わった子だよね。設計したのは運営でしょ? 何でこんな尖った設計にしたんだろ?」

「運営の中に百合をこよなく愛する奴がいて、そいつの欲望を体現した結果がユリコーンらしいぞ」

「うわっ! 権力の乱用!? 許されちゃうの!?」

「語呂もいいから実装したとか、インタビュー記事に載っていたにゃ」


 インタビュー記事を読んでいた時は笑っていたし、実際に目にした時も他人事だったので笑っていたが……まさか深く関わり合うことにはなるとは……人生とはわからないものだ。


「そういえば、ソラ様のリンネちゃんもユニーク従魔なの?」

「リンネは天狐って種族のユニーク従魔だな。ってか、そのソラ“様”って、そろそろ止めないか?」

「無理無理! ソラ様を呼び捨てなんて出来ないよ!」

「俺のことを呼び捨てにしてるじゃねーか」

「リクはリクじゃん」

「中身はソラと同一人物だけどな」

「んーソラ様が目の前にいて、こうやって会話していたら……無理無理……そんな大それたこと想像出来ないよ!」


 メイの中でソラの存在はかなり大きいようだ。


「リンネちゃんもユニークなのですねー。ユニーク従魔って何種類くらいいるのですか?」

「正確な数は不明だが……1万近くいるんじゃないか?」

「ボクも獣遣いじゃないから詳しくないけど1万以上は存在するはずにゃ」

「え? ユニークなのに1万って多くない!? レア感全然ないよ!」


 ヒナタの質問に答えた俺とクロの回答に、メイが驚く。


「そもそも……オンラインゲームの世界でユニークってのはご法度だからな」


 オンラインゲームの世界に、主人公或いは勇者は不要だ。存在するのであれば、全員が主人公或いは勇者でなくてはならない。


 例えば、とあるオンラインゲームでドロップ率が0.000001%以下に設定されたレアアイテムがあり、所有者がサーバーで1名というケースは稀にある。しかし、このケースはドロップ率が極端に低いだけで……全てのプレイヤーに入手出来る可能性は残されている。


 そのようなレアアイテムを持つことははある種の名誉となり、プレイヤーの欲求を大きく満たしてくれる。


 あいつだけが特別……と言うのはオンラインゲームの世界では許されないのだ。


「あぁ……確かにユニークアイテムって珍しいかもね」

「ユニーク従魔は確かに強い個体は多いけど、産まれる確率が極端に低いレア従魔とそこまで大きな差は無いにゃ」

「カイザーシリーズの従魔とかは普通にユニークよりも強かったりするからな」

「カイザーシリーズ……? あ! マイ様のパトリシアだ!」

「パトリシアはカイザーペガサスだな。癖もないし、強力な従魔だな」

「でも同じレベルのユリコーンとカイザーペガサスが戦ったらユリコーンが勝つと思うにゃ」


 ユリコーンは確かに強いからな……デメリット面も大き過ぎるが……。


「レベル何てあるの?」

「あるぞ。ヒナタならステータス画面から確認出来るだろ?」

「あ!? 待って下さいね! ……ありました! レベルは1です!」

「――! ひょっとして……レベルが上がったらユリもリンネちゃんみたいに人化出来るの?」


 メイが興奮した口調で尋ねてくる。


「ユリコーンは人化出来ないと思うが……クロ知っているか?」

「ボクの知る限りは……出来ないにゃ。でも、レベルが3になったらサイズ調整の魔法を覚えるにゃ」


 従魔の最大レベルは10だ。しかし、レベルが1上がるごと大にきく成長し、成長率はプレイヤーの10倍に匹敵すると言われていた。


「わぁ! 早くユリちゃんのレベルを上げたいです!」

「利便性から考えても早急にレベル2にはしたいな」

「レベルが2になるとどうなるのですか?」

「《召喚》と《帰還》を習得する」

「《召喚》?」

「《帰還》?」


 俺の返答にヒナタとメイが首を傾げる。


「簡単に言うと従魔の収納だな。《帰還》を使えば、従魔を別の次元に収納出来る。別の帰還から呼び戻すのが《召喚》だな」

「《帰還》中の従魔は経験値が得られないにゃ。代わりに体力が徐々に回復するにゃ」

「後は、《帰還》させている期間が長いと信頼度が徐々に低下するな」


 長期間 《帰還》していた従魔は拗ねてしまうのか、契約主の言うことを聞かなくなることもあった。

 

「ユリ――従魔の体力を回復させるには《帰還》させるしかないの?」

「いや、魔法やアイテムでも回復は可能だな」

「それならずーっと《召喚》してればよくない?」


 メイが最もな質問を投げかけてくる。


「従魔から見れば常に《召喚》されているのが望ましいのだろうが……一つだけ大きな問題があってな」

「大きな問題?」

「俺たちプレイヤーはスリーアウト制により死んでも復活は出来るが、従魔は一度死んだら二度と復活しない」

「え?」

「だから高難易度のクエストや初見の階層主と戦闘する時は、敢えて獣魔を《帰還》させるのが定石だな」


 俺たちプレイヤーであれば事故と片付けられる失敗でも、従魔にとっては一生を左右する事態となる。


 レアな従魔は……入手するのがそもそも困難で、長年一緒にいると家族のような絆が結ばれる。そんな家族を守るためにも、従魔に危険な橋を渡らせるプレイヤーは少なかった。


 テイマー系のクラスになると複数の従魔と契約出来るので、敵に合わせて《帰還》中の従魔を《召喚》して戦うと言った手段が一般的であった。


「はわわ!? ユリちゃんを守るためにも早くレベル2を上げなきゃですね!」

「まぁ、ユリコーンがそんな簡単に消滅するとは思えないけどな」

「ユリリィィィイイン!」


 俺たちの会話が聞こえていたのだろうか? 馬車の外からユリコーンの嘶く声が聞こえてきたのであった。



  ◇



 ユリコーンを従魔に迎えてから15日後。


 じっくりと経験値を稼ぎながら冒険していた俺たちは目的地である――第三〇階層に到達したのであった。

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