暗雲
この世界が外部と遮断されてから86日目。
予想どおり、緊急クエストが発令されました。
第七一階層での参加人数は618人。内訳としては、【天下布武】に所属しているプレイヤーが122人。次に旅団単位で参加人数が多かったのは――【
【黄昏】の参加人数に関しては、実質的な管理者であるスノーホワイトが欠如していることが、大きな要因であると予測されます。
【黄昏】のゼノンさんを説得することは叶いませんでしたが、残りの参加プレイヤーとは協力関係を築けたことから、【天下布武】が主体となって緊急クエストに挑むことができました。
緊急クエストの結果は――Dランク。
防衛に成功した拠点は一つだけ、最終日になんとかゴブリンエンペラーを倒せたのでEランクは免れましたが――Dランクと散々な結果になりました。
Dランクとは言え、初の第七一階層での緊急クエストです。
報酬として獲得できた装備品はどれも見たことのない、強力なモノでした。
また、今回の緊急クエストを経て得られたモノは装備品だけではありませんでした。
得られたもう一つのモノは――大量の経験値。
レベルをカンストして久しい私たちは経験値の存在を半ば忘れていましたが――今回の緊急クエストを経て、私を含めた多くのプレイヤーがレベルアップを果たしました。
「お? レベルアップの通知見るのは久々だな!」
「わぁ! レベルキャップ解放してたんだぁ」
「レベルが3桁とかウソみたい」
「ヒーーハーー! 我、レベルアップ! Yeah!」
「新しいスキルは……ねーか。最上級職より上もあるのか?」
「レベルがいくつまで解放されたのかは不明ですが、今後は経験値稼ぎも念頭にいれて行動する必要がありますね」
私たちはレベルアップと強力な装備品に喜び勇みましたが――今回の件が、後に戦争へと繋がる、格差スパイラルを引き起こしたきっかけとなったのでした。
◆
緊急クエストで新たな装備を入手した私たちは、再び上を目指して攻略を開始しました。
緊急クエスト産の装備品を入手したことから、攻略は以前よりもスムーズになりました。上の階層に進むほど、獲得する経験値は増加し、素材の品質が上質となり、新たな装備品を拾う機会も増えます。
まさに、強さのインフレーション。
最前線を突き進む私たち――【天下布武】は名実共にこの世界のトップランカーになりました。
この世界が外部と遮断されてから100日目。
私たちはセロさんの申し出により――公開会議を開催しました。
議題は、今後の【天下布武】についてです。
具体的には新メンバーの入団についてでした。
最前線を突き進む【天下布武】に入団を希望するプレイヤーは少なくありません。【天下布武】に入団するには、団員からの推薦と、幹部メンバー全員の承認が必要です。
団員が増えすぎると管理が
私を含めた幹部メンバー全員もソラさんの意見に賛同しています。しかし、否定しているのは拡大路線であってすべての入団を否定している訳ではありません。
すべてを拒絶して、内輪のみで運営しているようではトップ旅団は務まりません。ある程度の受け入れは周囲のプレイヤーと良好な関係を築くためにも必須です。
しかし、たった1人のプレイヤーが原因で内部崩壊した旅団は多々あります。
常に他人の悪口を言い、誰かを妬み、ネガティブな発言を繰り返すプレイヤーが1人でもいたら、全体の士気が下がり、マイナスの感情に引き寄せられ――旅団は崩壊してしまいます。
故に、良好な旅団運営を実行するためには、そのようなプレイヤーを『追放』する必要があります。
私はソラさんに団長権限を移譲されていましたが、移譲不可の団長権限も存在しました。
その権限こそが――『追放』です。
『追放』が出来ない状況で、新メンバーを受け入れるのはリスクが高すぎます。
話し合いの結果、ソラさんが戻ってきたら再び団長に戻すという条件付きで、私とツルギさん副団長権限である――『罷免』を実行しました。
こうして、私は一時的とはいえ【天下布武】の団長になりました。
◆
この世界が外部と遮断されてから183日目。
私たちが第七七階層に到達した頃――この世界が遮断されてから2回目となる緊急クエストが発令されました。
今回の参加人数は前回から一気に増え、1万人を超えるプレイヤーが参加することになりました。
参加人数が爆発的に増えたのは、私たちがエルダードラゴンの攻略法を公表したことが大きな要因です。
参加人数は増えましたが、今回の対象は最も厄介なゴーレム種でした。前回よりも多くの拠点を守れましたが、ゴーレムエンペラーを倒すには至らず、結果はCランクとなりました。
今回の緊急クエストも、多くの経験値と強力な装備品を獲得出来ましたが――
「お前らが……お前らが……アイムたちを殺したんだぁぁああ!」
周囲に響き渡るゼノンの怨嗟の咆哮。
私たちは前回同様に、手放しで喜ぶことはできないのでした。
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